FWとBKがしっかりと噛み合い、今季一番のラグビーを見せた臙脂(えんじ)のジャージーが関西王者を圧倒。計8トライを奪い、新国立競技場で開催される決勝の舞台へと駒を進めた。 1月2日に秩父宮で行なわれたラグビー大学選手権・準決勝。1試合目は…

 FWとBKがしっかりと噛み合い、今季一番のラグビーを見せた臙脂(えんじ)のジャージーが関西王者を圧倒。計8トライを奪い、新国立競技場で開催される決勝の舞台へと駒を進めた。

 1月2日に秩父宮で行なわれたラグビー大学選手権・準決勝。1試合目は、6シーズンぶりの決勝進出を目指す早稲田大(関東対抗戦2位)と、昨年度に続いて決勝進出を狙う天理大(関西大学Aリーグ1位)が激突した(2試合目は明治大vs東海大)。



8トライの快勝で天理大を下した早稲田大

 ともにシード校のため、大学選手権は準々決勝からスタート。早稲田大は日本大(関東リーグ戦2位)に57−14、天理大は流通経済大(関東リーグ戦3位)に58−28で快勝し、準決勝へと進んできた。両校とも攻撃力に長けたチームだけに、この日の試合は守備が焦点になると予想された。

 だが、フタを開けてみれば、臙脂のジャージーの早稲田大が予想を上回る攻撃力で、集まった1万8千人の観客を魅了した。1カ月前、関東対抗戦の「早明戦」で明治大に7−36と力負けした姿は、もうそこにはなかった。

 ライバルに大敗したことで、早稲田大は練習に対する心構えや質が変わったという。事実、試合における攻守のブレイクダウン(接点)の強度やしつこさは、対抗戦の終わりの頃と比べて格段に上がっていた。大学選手権初戦のテーマは「リボーン(生まれ変わる)」だったが、たしかに日本大戦ではさらに進化した姿を見せた。

「必ずいいゲームができるという手応えが、試合前日までの準備段階であった。(明治大に負けて)選手もやらないといけない気持ちになったし、(シーズン終盤で)練習の強度を調整しても成長しないという話もしました。濃い練習の成果が、この2試合(日本大戦、天理大戦)に表われていた」

 早稲田大を率いて2年目となる相良南海夫(さがら・なみお)監督はこう胸を張った。

 この天理戦では、早稲田大の攻撃をさらに後押しした出来事があった。身長186cmの大型CTB(センター)中野将伍(4年)が復帰したことだ。早稲田大は前半だけで3本のトライを挙げて主導権を握ったが、すべて中野が絡んでいた。

 前半10分、中野が自陣のラインアウトから縦に突いて左に展開すると、それを受けてFB(フルバック)河瀬諒介(2年)がチャンスメイク。そして最後はWTB(ウィング)古賀由教(3年)が先制トライを挙げた。

 前半19分も、自陣のスクラムから中野が縦に突き、相手ディフェンスを3人引き寄せながらオフロードパスをSO(スタンドオフ)岸岡智樹(4年)につないだことが、河瀬のトライへと結びついた。さらに前半24分にも中野は左サイドでまたもオフロードパスを通し、古賀がそのままトライを挙げた。

「警戒していた早稲田大のバックスに中野が入ったことで、それがひとつのくさびとなった。結果、早稲田大の理想とする形となり、それをうちが止められなかった」

 天理大の小松節夫監督も、中野の活躍に脱帽した様子だった。

 中野は11月に練習で右ふくらはぎを負傷し、公式戦は9月15日以来。久々の実戦となったが、中野はこう振り返る。

「復帰した時にいいパフォーマンスをしようと、毎日リハビリに取り組んでいました。(試合では)チームを勢いづけることと、味方のスペースを作ってトライを獲ることをやろうと。結果、自分の縦(への突進)を起点に外側の速いバックスでトライが獲れた」

 天理戦に快勝できた要因は、中野の復帰だけでなく、FWのセットプレーにもあった。試合後、相良監督も思わず「出来すぎ」と口にしたのが、ラインアウトディフェンスだった

 副将のFL(フランカー)幸重天(ゆきしげ・たかし/4年)とNo.8(ナンバーエイト)丸尾崇真(3年)が、相手のラインアウトにプレッシャーをかけて攻撃の起点をつぶした。天理大はモールを強みとしていたが、ほとんど自分たちの形で組むことができず。天理大の主将FL岡山仙治(ひさのぶ/4年)も「自分たちが(ラインアウトで味方を)上げるところに同じタイミングで上げられた」と相手を称えるしかなかった。

 ラインアウトの分析は、メンバー外の沖野玄(はるか/4年)や中尾悟(4年)が練習で「仮想・天理大」となり、あらかじめ準備していたことが功を奏した。

 FWで注目すべきもうひとつは、健闘したスクラムである。前半は天理大に押されてペナルティを犯したが、後半はしっかりと相手の圧力に耐え、逆にプレッシャーをかけて反則も誘った。

 試合後、相良監督が「ハーフタイムで、スクラムを『低く組もう』と。佐藤(友重)コーチと選手たちの見解が一致した」と目を細めると、副将の幸重は「8人で低く一体となったスクラムが組めた。やってきたことがやっと出せた」と破顔した。春からOBの佐藤コーチのもと、スクラムを鍛えてきた成果がやっと形になった証だ。

 後半は一時14点差まで追いつかれたものの、早稲田大はセットプレーで天理大を上回り、その後さらに4トライを奪取。終わってみれば計8トライを挙げて52−14で快勝した。

 6シーズンぶりの決勝進出を決めた主将のSH(スクラムハーフ)齋藤直人(4年)は試合後、このように語った。

「FWのトライもありましたが、BKのトライはFWのがんばりのおかげ。FWに助けられた試合だなと思いました。昨年度はこの舞台(準決勝)で負けて、新チームが始まる頃、『去年のチームを超えよう』と言ってきた。まず、去年のチームを超えることができてうれしい」

 同日に行なわれた準決勝2試合目は、明治大が東海大を29−10で下して決勝に駒を進めた。

 1月11日、その決勝の舞台で明治大と対戦することについて、相良監督は「巡り合わせに感謝したい」と言った。大学選手権の決勝が「早明戦」となったのは、実に23シーズンぶりのことだ。

 早稲田大は昨年度の準決勝、そして今年の対抗戦と明治大に負けている。目指すは、最高の舞台でのリベンジだ。果たして、早稲田大フィフティーンは優勝した時だけに歌える第二部歌「荒ぶる」を、新しいスタジアムに響かせることができるか。