神戸のゴールマウスを守る飯倉大樹 2020年元日と令和初──。西暦でも和暦でも節目となる快晴の日に、大型補強を進めるクラ…

神戸のゴールマウスを守る飯倉大樹
2020年元日と令和初──。西暦でも和暦でも節目となる快晴の日に、大型補強を進めるクラブが初めて頂点に立った。アンドレス・イニエスタやダビド・ビジャ、ルーカス・ポドルスキら、大物外国籍選手を次々に迎えてきたヴィッセル神戸が、ついにその戦力にふさわしいタイトルを手中に収めたのだ。
新国立競技場のこけら落としとなった鹿島アントラーズとの天皇杯決勝。神戸は前半から主導権を握り、相手のオウンゴールと鹿島戦に強い藤本憲明の得点で2点をリードする。しかし後半は敵が布陣を変更して流れを引き寄せ、ヴィッセルは我慢を強いられることに。
それでも最後まで鹿島の攻撃をしのぎきり、無失点で2−0の勝利を手にできた理由を、GK飯倉大樹は「気持ちだと思いますよ」と明かした。
「前線で動きが少なくなり、デュエルで負け始めて、もう守るしかねえってなった時に、全員でハードワークできた。途中、きつそうな選手もいたけど、一生懸命、声を掛け合って、体を張って」
この日の神戸の最終ラインは、右からダンクレイ(ブラジル)、大崎玲央、トーマス・フェルマーレン(ベルギー)と国籍も母国語も違う。中盤の低い位置にはイニエスタ(スペイン)もいる。彼らはどんな言葉でコミュニケーションを取っていたのだろうか。
「日本語ですよ。そうはいっても、(両軍サポーターの大声援が響くピッチ上で)声なんて届きやしないから、ジェスチャーとか、名前を呼んだりとか。みんなで怒鳴り合いみたいな感じで、『おい、やれよ!』って。なりふりかまわず、がむしゃらに。でもそういうのが、このチームに欠けていたものだから。神戸はパスを回して綺麗なサッカーを目指してきたけど、こういう泥臭い部分が必要だった」
たしかに近年のヴィッセルは、親会社がスポンサーを務めるバルセロナをモデルにし、スペイン人選手や監督を招いてその手法を取り入れてきたが、今季もリーグ戦では不安定な戦いが続いていた。4月にフアン・マヌエル・リージョ監督と袂を分かち、6月にはトルステン・フィンク監督が就任。その後に酒井高徳とトーマス・フェルマーレンが加入してすぐさまチームに馴染んだこともあって、終盤戦は白星が先行するようになった。
それでも日本屈指の戦力を有するクラブは、目に見える収穫を渇望していたはずだ。奇しくも敵軍の主将、内田篤人がこの試合後に「強くなって勝てる、ではなく、勝って強くなる。結果が先なんだよね」と話していたように。
「このチームにはタイトルが必要だった。本当に」と飯倉は7月に加入した神戸について話した。
「それが成功体験になっていく。頑張ること、体を張ることが、こうして結果につながれば、それが心や頭に残っていくから。決勝だから緊張するし、相手の鹿島は強い。でもそこを踏ん張って優勝できたのは、このクラブの財産になる。やっぱりこのクラブには、強いメンタリティーが必要だとすごく思っていた。最後まで、体を張って戦う。そんな当たり前のことが一番難しい。わかっていても、それをずっと集中してやりきるのが、本当に難しいんです。その意味で、こうしてゼロ(無失点)でタイトルを取れたのは、全員が同じ方向を向いて戦えたからだよね」
そう語る33歳の守護神は昨夏、それまでのキャリアのすべてを捧げてきた横浜F・マリノスから神戸へ移籍(ロアッソ熊本へ期限付き移籍した2006年を除く)。古巣はその後、アンジェ・ポステコグルー監督が掲げるスピーディーで攻撃的なスタイルを突き詰め、15年ぶりのリーグ優勝を遂げた。おそらく飯倉の胸には複雑な想いがあったはずだが、自身もこうして、ピッチ上で初の主要タイトルを獲得できた(横浜FM時代の2013年天皇杯優勝はベンチ外)。
「最高の終わり方になりました。試合に出られなくて移籍を選択しましたけど、苦しい思いをしたなかで、神戸が新たな道をつくってくれ、最後に結果につながった。終わりよければすべてよし、ではないけど、本当にハッピーです。
(意地はあった?)それはすごくあったよね。(マリノスの優勝は)本当にうれしかったけど、天皇杯は自分が優勝したいと思っていた。うれしいことに、マリノスのリーグ優勝にはオレの貢献もあったと言ってくれるサポーターもいて。だから(神戸で)タイトルを取ってほしい、という声ももらっていたんです」
2月8日のゼロックス・スーパーカップは、横浜FM対神戸の対戦だ。攻撃的な両チームの激突を多くのファンが楽しみにしているはずだが、最も期待しているのは古巣とのタイトルマッチとなる飯倉ではないだろうか。
「マリノスのサポーターも『ゼロックスで戦いたいので頑張ってください』と、たくさんメッセージをくれたけど、正直、オレは全然戦いたくない(笑)。強いもん、マリノス。だからやりたくないけど、いろんなサポーターの後押しは感じましたね」
2019年シーズンの日本サッカー界を象徴する2チームに所属した唯一の選手、飯倉大樹はそう言って複数の記者と握手を交わし、チームで最後にバスに乗り込んでいった。横浜と神戸がアジア王者をかけて挑戦する来季のAFCチャンピオンズリーグからも、目が離せなくなりそうだ。