東京オリンピックで輝け!最注目のヒーロー&ヒロイン ゴルフ 渋野日向子 編 スポーツとは、階段を一歩ずつ上るように成長していくもの、とされている。陸上にしても、競泳にしても、高校新記録を出す前に、日本記録を出す選手はまずいない。日本記録…

東京オリンピックで輝け!
最注目のヒーロー&ヒロイン 
ゴルフ 渋野日向子 編

 スポーツとは、階段を一歩ずつ上るように成長していくもの、とされている。陸上にしても、競泳にしても、高校新記録を出す前に、日本記録を出す選手はまずいない。日本記録を出す前に、世界記録を出す人も同様に稀だ。

 記録や成績は、着実に上昇していくものとされている。そして、好記録や好成績を残しながら、選手は成長を遂げていく。さらに、その過程のなかで、風格や貫禄を備えていく。

 一流選手には、神経質そうな選手もいれば、勝負師らしい選手もいる。もちろん、明るく華のある選手もいる。普通の選手にはないカリスマ性を、どこかに垣間見ることができる。そのカリスマ性の度合いに比例して、選手のスター性は増していく。

 そうした従来のスポーツ選手像から、完全に逸脱しているのが、渋野日向子。

 規格外のスター選手だ。昨季、QTランキング40位でスタートした国内ツアーの新人選手が、その約4カ月後には、海外メジャーのひとつである全英女子オープンを制してしまうとは……。

 この夢のような”シンデレラストーリー”を予想した人は、誰一人いないだろう。世界広しと言えども、これに比肩する事例は稀だ。2019年世界のスポーツ界、屈指の出来事、”事件”といっても過言ではない。

 渋野はプロ初優勝が国内メジャーという快挙も果たしているが、海外ではまったくの無名の存在。それこそ、高校新を出したばかりの選手が、いきなり世界新を出してしまったような話だ。一般社会に置き換えれば、2階級特進どころか、4階級特進。新入社員が社長に昇進したようなものだ。

 国内ツアー4勝。賞金女王争いでも、鈴木愛と最後までデッドヒートを展開した。シブコファンに言わせると、海外メジャーで獲得した賞金も賞金額に加算される国内男子ツアーに当てはめれば、全英女子を制した渋野は、余裕で賞金王に輝いていた、となる。

 それはともかく、年末のあるテレビ番組で「今年一年を漢字一文字で表すと?」と問われた渋野は、「謎」と答えていた。なぜ、これほどの成績を残すことができたのか。自分に対して、自分自身が一番驚いている様子だった。

 周囲の状況が短期間に激変した事態にどう対処していいかわからず、ニコニコと笑顔を振りまくしか手段がない。その笑顔は「謎」の表現方法にも見える。

 今の彼女に、余計なカリスマ性は一切ない。スター選手でありながら、あまりにも気さく。擦れていないところが、ゴルフファン以外からも支持を受けるいちばんの理由だろう。

 日本人の心に、これほどピタリとハマるムードを持ったスポーツ選手も珍しい。とにかく、凄まじい人気だ。

 トーナメントは大盛況。渋野の組は、常に大ギャラリーに囲まれている。その人垣が渋野とともに大移動する絵は、土日の原宿の竹下通りを見るかのような壮観さだ。

 今年の夏、霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)を舞台にして行なわれる東京五輪のゴルフ競技。もし渋野が世界ランキング15位以内を維持し、出場権を獲得したならば、会場はさぞや大賑わいとなるだろう。

 通常のトーナメントで入場者数に限りがあるという話は聞いたことがない。東京五輪はどうなのか。何万人入場できるのか定かではないが、彼女が大ギャラリーに囲まれながらプレーすることだけは間違いない。



大観衆がグリーンを取り囲むなか、渋野日向子が金メダルを獲得する瞬間を見てみたい

 ゴルフは、1900年パリ大会、1904年セントルイス大会で実施されたが、その後は、前回のリオデジャネイロ五輪で復活するまで、五輪競技として採用されずにいた。

 五輪取材の経験が過去に5度ある筆者も、もちろん現地で観戦した経験はない。そこがどんな現場なのか、前回のリオ五輪もテレビ観戦しただけなので、通常のトーナメントと何が違うのか想像することができない。メダルを懸けた争いとはどんなものなのか、イメージはまるで湧かないが、それだけに高揚感に襲われる。

 ブラジルのリオとは違い、日本のゴルフ熱は高い。ファンは多くいる。何より、渋野という訴求力の高い稀代のスター選手がいる。メダル争いに十分絡みそうな実力がある。

 東京五輪で、渋野はどんな絵が描くのか。関心は高まるばかりだ。

 メダル獲得を目標に掲げる渋野は、その出場権を確実にするために、加算ポイントの高いアメリカツアーに今季、何試合か出場する予定だ。2月には早速、タイ、シンガポールで開催されるアメリカツアーのトーナメントで出場するという。東京五輪の足音が迫るなか、本場の戦いを通してどこまで力をつけられるか。

 ゴルフは、個人競技のある球技の中では、テニスと並ぶメジャー競技だ。五輪におけるメダルの価値は重い。メダル争いを演じることになれば、陸上競技の100m決勝を走るようなもの。メダル獲得となれば、世界に名を刻むことを意味する。

 ギャラリーとして、間近で生のシブコを応援することには大きな意義がある。数ある五輪競技の中でも、女子ゴルフは必見の競技になる。「何とかチケットを手に入れ現場へ!」と言いたくなるのである。