東海大・駅伝戦記 第76回

 大きなミスもなく、大崩れもなかった。だが、箱根駅伝初日の5区間を終えると、4位の東海大とトップの青学大との間には3分22秒の差がついた。なぜ、そこまでの大差がついてしまったのか。

「青学さんが走りすぎましたね」

 両角速監督は苦い表情を浮かべてそう言った。



区間7位と本来の走りができなかった東海大5区の西田壮志

 たしかに今回は、青学大の活躍が目立った。2区では1年生の岸本大紀(ひろのり)が区間5位の1時間07分03でチームを首位に押し上げた。4区では吉田祐也(4年)が、1時間00分30秒という驚異的なタイムでの区間新、区間賞を獲り、トップを守った。

 5区の飯田貴之(2年)も1時間10分40秒のタイムで区間2位と好走。青学大は5区間を5時間21分16秒の新記録で走り抜き、3年ぶりの往路優勝を飾った。タイムが示すとおり、箱根にも高速化の波が押し寄せた。

 本来、東海大はスピードが持ち味だが、高速化の恩恵を享受できなかった。全体のレベルが上がり、爆発的な走りをする選手が増えた。その結果、東海大は全体として悪くなかったが、爆発力に欠け、青学大との差を埋めることができなかった。

「全体的に悪くなかったと思います。(2区の)塩澤(稀夕/3年)も長い距離は未経験でしたが冷静に走って、よくやってくれたと思います。ただ、(3区の)西川(雄一朗/4年)は昨年経験していることが、ちょっと裏目に出たかなと。若干、自重気味に入って、数秒差だった選手につかなかったことが、本人はよしとしてそう思ったのでしょうが、それが裏目に出て、距離を重ねるごとにどんどんと差が開いてしまったかな」

 その西川にしても、昨年は1時間03分02秒の区間7位だったが、今回は1時間02分21秒(区間6位)とタイムも順位も上げた。つまり、ほかがよすぎただけで、決して悪い走りではなかったのだ。

 また、4区の名取燎太(3年)も青学大・吉田に1分差をつけられたが、区間2位の走りを見せた。ただ、名取の状態は万全ではなかった。両角監督が言う。

「全日本が終わったあとに、箱根2区で起用したいなと思ったんですけど、アキレス腱を痛めてしまって、練習が不十分な時間が続いていたんです。ここ数日もいい状態ではなかったので、それを考えればよくやってくれたと思います」

 5区の西田壮志(3年)も直前の状態はよくなかった。

「西田はレースが近づいて、体調を崩し、2日前にはアキレス腱を腫らしてしまって……。最後の詰めのところでしっかり練習できなかったので、そのあたりが不安要素としてありました。目標は(1時間)11分ちょうどくらいでしたが、そこには大きく届きませんでしたし、最後に抜いた相手にまた追いつかれて抜かれたり……本来の走りができなかったのがちょっと残念でしたね」

 そう言うと、両角監督は悔しそうな表情を見せた。

 レース前、両角監督が語っていた5区終了時点での逆転可能なタイム差は70秒。今回の3分22秒の差は、6区以降、全員がミスなく走り、トップ青学大のミスを待つしかないレベルだ。ただ幸いなことに、復路の区間オーダーに東海大はまだ3枚のカード(当日変更)が使える。黄金世代である4年生の館澤亨次、阪口竜平、松尾淳之介に、出雲駅伝、全日本大学駅伝で好走した市村朋樹(2年)らが出番を待っている。

「あと3人変更できる枠を残しているんですけど、エントリー選手も調子がいいので、3枚のカードを使うかどうかは、学校に戻って、今日の練習と照らし合わせてじっくり決めたいなと思います。仕切り直しは6区からになりますが、青学さんもうちも経験者を欠き、未知の部分はあるのですが、なんとか乗り切ってくれれば面白いかなと思います。とにかく、雪だるま式に青学さんに差をつけられないように、少しずつタイムを詰めていきたいと思います」

 両角監督は10区での逆転劇が理想のシナリオだと語っていた。今回のタイム差は、まさに10区での決戦になるのを予感させる。では10区の選手がスタートするまでに、トップとどれぐらいの差であれば奇跡の逆転劇は起こせるのか。

「相手にもよるのですが、1分ぐらいに詰めておいてくれれば、なんとか希望が持てるんじゃないかと思います。7〜9区、とくに8区の小松(陽平/4年)のところでどれだけ差を詰められるか。そのために経験者を置いている。まだわからないですよ。ドラマは最後に待っているかもしれないですからね」

 両角監督のこぼれた笑みは何を意味しているのか。切羽詰まって追い込まれたものか、それとも逆転の可能性を信じてのものなのか……。会見が終わって去る際、指揮官はもう一度こう言った。

「何が起こるかわからない」

 両角監督は、最高のドラマを信じている。