東京オリンピックで輝け!最注目のヒーロー&ヒロインテニス 大坂なおみ 編「シーズン終盤のアジアシーズンで、私は必ず優勝してみせる。全米オープンでは望むような結果が出せずにごめんなさい。残りのシーズン、すべての力を出し切って、みんながいい気分…

東京オリンピックで輝け!
最注目のヒーロー&ヒロイン
テニス 大坂なおみ 編

「シーズン終盤のアジアシーズンで、私は必ず優勝してみせる。全米オープンでは望むような結果が出せずにごめんなさい。残りのシーズン、すべての力を出し切って、みんながいい気分で家に帰れるようにするから」

 年内最後のグランドスラムである全米オープンを終え、日本に向かう今年9月--。彼女は、パフォーマンスコーチやトレーナーら”チームなおみ”の面々を前にして、そう宣言したという。



大坂なおみは2020年、新コーチとともに頂点奪還を目指す

 苦しみのシーズン中盤戦を経て、前年優勝者として臨んだ全米オープンも、結果的には4回戦で敗れる。それでも、前年に涙の戴冠を果たした思い出の地を去る時、彼女は復調への手応えと覚悟を胸に宿していた。

 果たしてそこからの大坂なおみは、東レ・パンパシフィックオープン、続くチャイナオープンも制し、年間上位8選手が集うWTAファイナルズでも、初戦で勝利を掴み取る。最後は腹筋の痛みのために大会を途中棄権するが、コートに敗戦を刻むことなく、激動の2019年シーズンを終えた。

 その決意のシーズン終盤に向かう時、彼女のかたわらに『コーチ』として立っていたのは、父親だった。

「彼は私のテニスの原点。それほど多くを語る人ではないが、だからこそ、自分で考えて答えを見つけなくてはいけない」

 そう定義する父親とともに、彼女は自身のキャリア始まりの地である生まれ故郷の大阪で、悲願のタイトルを掴み取る。同時にその頃にはすでに、次期コーチ候補に白羽の矢を立てていた。

「誰もが納得する、一流のコーチ」

 大坂陣営からそのような評価を受けていた人物とは、数々のトップ選手のコーチを歴任し、多くの選手にビッグタイトルをもたらしてきた、ウィム・フィセッテだった。

 今の大坂が何を求めているかは、この新コーチの人選そのものが明示していると言えるかもしれない。

 約10年のコーチキャリアで、就いた選手を合計6度グランドスラム決勝に導いた彼は、データ分析に長けた戦略家として知られている。異なるタイプの選手相手に、就任早々に結果を出しているのも、即効性の高い戦略や助言を与えられるところによるだろう。

 さらに興味深いのは、大坂は過去にフィセッテがコーチを務めていた時のビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)と1度、ジョアンナ・コンタ(イギリス)と2度、そしてアンジェリック・ケルバー(ドイツ)とも対戦し、そのすべてに敗れていることだ。もちろん、数年前と今では彼女の実力も異なるが、確実に言えるのは、フィセッテは倒すべき対象として、大坂の武器や弱点を分析してきたということだ。

 今季、1月の全豪オープンを制して世界ランキングも1位へと駆け上がった大坂は、ロールモデル(お手本)や時代のアイコンとして、期待と注視を全世界から浴びてきた。さらに忘れてはいけないのは、すべてのテニスプレーヤーたちからも金星獲得のターゲットとして、全方位から分析の視線を向けられてきたことだ。

「今の私は、以前のように無名の存在ではない。私の試合の動画は、いたるところに溢れている」

 事実、彼女は前年優勝者として迎えた今年のBNPパリバオープン(インディアンウェルズ)で、追われる者の苦悩を口にしたことがある。

 あるいは、今季の彼女が3度敗れたベリンダ・ベンチッチ(スイス)や、2度苦汁をなめさせられたユリア・プチンツェワ(カザフスタン)は、いずれも多くの球種を操る業師にして戦略家。それらの敗戦から大坂が痛感したのは、こちらも周囲の解析の目に対抗すべく、データに基づいた強化策を練り、勝つための戦略を得ることだったはず。

 だからこそ、来季再び頂点奪還を目指す彼女が選んだのは、39歳と若いながらも経験、実績ともに文句なしのフィセッテだったのだろう。来シーズンに向けたロサンゼルスでのトレーニングには、すでにフィセッテも加わっている。

 多くの涙と笑顔でつづられた1年を11連勝で終えた彼女は、その続きを2020年にも描こうと志す。

 16歳の頃から口にしてきた、「可能な限り多くのグランドスラムで優勝する」、そして「東京オリンピックでメダルを獲る」という夢も、今季描いた上昇カーブの先にある。