東京オリンピックで輝け!
最注目のヒーロー&ヒロイン 
バスケットボール 八村塁 編

 八村塁のNBAでの連日の活躍を見て、明成高校時代の恩師、佐藤久夫コーチは「その頑張りがうれしいというより、毎日揉まれて大変だろうと思う」という親心で、教え子の活躍を遠い仙台の地から見守っているという。



NBAでも日本代表としても、さらなる活躍が期待される八村塁

 こうして教え子を見守る一方で、八村が渡米してからの4年間、佐藤コーチに八村のことを訊ねるたびに、「塁はまだまだ伸びるし、まだまだできる」というセリフを毎回のように聞いてきた。高校時代からNBA選手になることを無理だと決めつけたことは一度もない。将来への可能性を信じて毎日の練習でプレーの幅を広げ、トップレベルに挑戦するために下級生の頃からエースとしての風格やリーダーシップを要求してメンタルを鍛えてきた。

 また、八村が壁にぶつかったときには「将来、自分はどういう選手になりたいか」と原点を思い出すアドバイスを送り続けている。こうして八村は「成長するためには毎日コツコツやることが大事」という選手としての土台を高校時代に築いたのだ。

 アメリカでは強いフィジカル集団の中で体の使い方がうまくなり、英語を習得したことで、戦術の理解や意思疎通を図れるようになり、みるみる成長していったのは周知の通りだ。

 八村のことを「まだまだ伸びる」と言い切るのは、ゴンザガ大のマーク・フューHC(ヘッドコーチ)や、ワシントン・ウィザーズで八村の技術指導にあたるデビッド・アドキンスコーチの2人で同意見だ。NBAで息の長い選手になるためには、「20代前半にどれだけ経験を積めるか」という意見も佐藤コーチやアドキンスコーチは一致している。そういった意味では、再建中のウィザーズに指名されたことで、毎試合のように主力として出続けることは、八村にとってはこれ以上ない最適な環境のチームに進んだと言える。

 12月16日、八村は太ももの付け根あたりの鼠径(そけい)部を負傷してしまい年内のゲームは欠場に至っている。その後の診断によって出場の可否が決定されるというが、それまで開幕からの25試合はすべて先発を務め、アベレージは29.2分出場、13.9得点、5.8リバウンドと、ルーキーとして予想以上のスタッツを残している。10月24日(日本時間)のデビュー戦ではいきなり19得点、10リバウンドのダブルダブル(※)を達成した。

 ※ダブルダブル=1試合で得点、アシスト、リバウンド、ブロックショット、スティールの主要5部門において、2部門で2桁の記録を残すこと。

 チームにケガ人が多いことから、センターを務めた試合もあれば、昨季ファイナルMVPのカワイ・レナードがいるLAクリッパーズとの対戦(12月2日)では、38分出場して自己最多となる30得点、9リバウンドをマークしたばかりか、ターンオーバー(ミス)はゼロ。

 30得点のうち3ポイントを2本決めていることから、課題とされていた3ポイントも迷いなく打てるようになってきている。また、大学の途中から確率が悪くなっていたフリースローもフォームを改造することで上向いてきている。12月9日のLAクリッパーズ戦ではフリースローを7本得て、すべて成功。ゴンザガ時代は73.9%だったフリースローは現在85.2%まで上がってきている。

 もちろん、ブロックショットを受けるような洗礼を浴びる日もあれば、得点が伸びない低調な日もある。また、ウィザーズではゴンザガ時代のように八村にボールが集まらず、ファーストオプションにならない展開も多い。それでも、悪い内容のあとは必ず改善の兆しが見られ、無理なシュートに持ち込まないようなスペーシングの取り方にも気を配っているのがわかる。こうした高い適応力に対し、ウィザーズのヘッドコーチであるスコット・ブルックスは「塁は何年もやっているベテランのようだ」と話すほどだ。

 試合ごとに適応している姿を見ればわかるが、八村は身体能力がありながらも、能力で押しきってプレーするタイプではない。毎日の練習や試合で苦しかったこと、楽しかったこと、さらに言えば、「日本にいる肌の色が黒いハーフの子供たちのロールモデルになれるように」というみずからが大切にしているアイデンティティーまで、自身がこれまで積み上げきた経験や生き方をコートに出しながら成長しているのが八村塁という選手なのだ。これからはさらにマークが厳しくなっていくだろうが、NBAの荒波に揉まれながらも、本人が言う「コツコツ」と挑み続けるだけだ。

 そして、NBAでの成長とともに楽しみなのが、日本代表のエースとして、今夏の東京五輪でプレーすることだ。

 八村自身は高校時代から「オリンピックでアメリカと対戦したい」と口にしていたが、その日が目前に迫っている。東京五輪に向けて八村は、「僕がバスケを始めたくらいから東京でオリンピックがあると決まって、それからずっと出たいと思っていたので、すごく楽しみにしています。ワールドカップでアメリカのような世界一強い国と対戦できたのは、これからオリンピックがあるうえで、負けはしたけれどよかったと思う」と語る一方で、「オリンピックは世界でも強い12チームしか出場できない大会。まず僕らの目標は1勝すること」と現実を見つめて気を引き締める。

 昨夏、日本が13年ぶりに出場したワールドカップで5戦全敗。世界の舞台から遠ざかっていた分、ほとんどのメンバーが初出場という中で痛烈な洗礼を浴びた。

 格上のトルコやチェコがしっかりと八村対策をしてきたのに対し、日本は八村が抑えられたときに突破口を開くことができなかった。そしてアメリカ戦では特別な策で抑えられたわけではなく、マンツーマンで4得点に封じられたことに、本人がいちばんNBA選手の力量を実感したことだろう。

 そもそも、日本代表としてやりたいスタイルを作り込んで世界の舞台に乗り込んでいったわけではない。ワールドカップに出てみてはじめてフリオ・ラマスHCは「今後、日本が一番にやらなくてはならないのはディフェンスの強化」との答えを得たのだ。

 そんな中で、たとえ対策を練られたとしても、八村が日本の大エースとなってリーダーシップを取らなければならないのが、男子バスケ界として44年ぶりとなるオリンピックの舞台だ。

 今、日本には八村がNBAに進出したことでバスケに興味を持った人々、そして八村に憧れる部活生たちが多い。現に後輩である明成高の部員には八村と同じく生まれに2つのルーツを持つ選手たちが「塁さんのようになりたい」と明成高への門を叩き、八村の名が全国区になった高校日本一を決定するウインターカップにて、下級生主体のチームながらベスト8と奮闘した。

 今や八村塁の存在は、日本人でもNBAで戦えるという勇気を与えているだけでなく、明日の八村塁を夢見る少年少女、逸材を育てたい指導者たちにも大きな影響を与えているのだ。八村が奮闘するかぎり、ファンは日本で、アメリカで、多角度な視点から、その成長をリアルタイムで追っていける楽しみがある。

 NBAと東京五輪で羽ばたく2020年が始まろうとしている。