近年の高校サッカーはBチーム以下も、リーグ戦に参加できるようになったため、100人以上の部員を抱える大所帯のチームが増…

 近年の高校サッカーはBチーム以下も、リーグ戦に参加できるようになったため、100人以上の部員を抱える大所帯のチームが増えている。



全国高校サッカー選手権に2年ぶり25回目の出場をする高川学園(写真提供:高川学園高校)

 今年の全国高校サッカー選手権出場校を見れば、半数を超える28校がそうしたマンモスチームだ。選手権を狙える各県の強豪ともなれば指導の質が高く、練習環境が整っており、一極集中化は自然な流れかもしれない。

 一方で、華々しいスポットライトを浴びる選手はごく一部だ。強豪校に所属しながらもAチームでプレーできず、満足の行かないまま卒業していく選手も少なくない。

 そうした問題を解決すべく、今回選手権に出場する、山口県の高川学園高校が行なっているのが『部署活動』という制度だ。取り組みは江本孝監督が、部員が主体になって試合の分析などを行う、筑波大学のパフォーマンス局という仕組みに興味を持ったことから始まった。

 当時ユニバーシアード代表で筑波大のチームメイトが多かった高川学園OBのGK永石拓海(現・レノファ山口FC)に選手主体の運用方法を聞いてもらったうえで、一昨年の9月から部署活動がスタートした。

 高川学園の取り組みは、本家同様に試合の分析をする『分析部』や、選手主体となって行なう朝練のメニューを決める『強化部』といった、サッカーに直接関わる部署だけにとどまらない。

「ただマネするのでは面白くない。サッカーだけでなく、地域に根差した活動も行ないたい」(江本監督)と、近隣農家のお手伝いをしながら、グラウンド脇で野菜を育てる『農業部』も設立。当時のキャプテンの発案で、部への来客者に応対する『おもてなし部』も発足させた。

 狙いについて江本監督はこう明かす。

「試合に出られるのは11人しかない。そこで、出られない選手も、『俺は高川学園で成長したんだ』と胸を張れる部にしたかったんです。今後、大学サッカーでもデータ分析ができる人材が求められていく。サッカー選手としてだけではなく、サッカーとは別の部分で必要とされる人材も育てていかなければいけないんです。ほかの部署を経験した子も、高校を卒業して社会に出た際に、少しでも役に立てばいい。サッカーにいろんな形で携わって、サッカーを好きでいてくれる子どもが、ひとりでも多くなるのが理想です」



収穫したサツマイモを手に写真に収まる『農業部』の面々

 現在、部署の数は10個。参加は強制ではないが、部員全員が何らかの部署に所属している。代表的な活動は『農業部』で、グラウンド脇など学校施設の3カ所で畑を耕し、季節ごとの野菜を育てる。

 あくまでメインはサッカー部の活動であるため、あまり手をかけなくても育つ野菜を、収穫のお手伝いをする近隣農家に教えてもらい、選んでいるという。取材をした12月中旬はサツマイモの収穫を終え、新たに玉ねぎを植えたばかり。まだまだ安定供給はできないが、多い時には5000玉もの玉ねぎを収穫できる。

「収穫した野菜をみんなに食べてもらえた時がうれしい。農家さんに専門知識を教えてもらったりするうちにコミュニケーション能力も高くなったと思う」と口にするのは、農業部のリーダーを務めるDF宮内海斗(3年)だ。収穫した野菜は、試合を開催する際などに販売し、部署活動を行なうための資金になるという。

『広報部』の活動は、サッカー部の戦績を部の内外に知ってもらい、より多くの人に応援されるチームにするのが役割だ。月に1回、中学サッカー部や女子サッカーの活動をまとめて、”タカサカ”という新聞を作成し、校内や最寄り駅に張り出している。

 ただつくるだけでなく、どうすれば多くの人に読まれるのか頭を悩ませるのは選手の成長につながる。最初は文字だけの新聞だったが、それでは読まれないため、途中からはスポーツ新聞のレイアウトを参考にし、文字のカラーを変えたり、プレー写真も掲載するようになった。

 サッカー部がいちばん注目される選手権では、ひとりでも多くの生徒に応援に来てもらおうと、オリジナルのポスターを作成。会場では、登録メンバーの特徴を記した写真入りのマッチデープログラムも配る。



『広報部』がつくった新聞や、マッチデープログラム

 少しでも多くの人に楽しんでもらおうとしているのが特徴で、DF松村太陽(3年)は「同級生からタカサカ見たよって声を掛けてもらえるのがうれしい。どうしたら目に留めてもらえるか考えたりする経験は、将来に生きる」と口にする。

 部署活動の外交役を担うのが、『おもてなし部』だ。サッカー部に来客があった際には、メニューから選んでもらった飲み物を提供し、歓迎をする。多くの人が訪れる試合の際は、立って試合を観戦する人に椅子を差し出す。また、遠方から遠征に訪れたチームが学校に泊まる際には、おもてなし部が主体となって選手が教室などに布団の準備をする。食事の際も10分前にはスタンバイし、配膳の準備をしているという。

「高川学園に来てよかったなと思われるようなおもてなしをしたい。チームの顔となる部署なので、相応しい発言や行動を心掛けている。目配り、気配り、心配り、言葉配りというのを意識している」と話すのはリーダーのFW土田佑也(3年)。

「社会に出た時に絶対役立つ部署だと思い、おもてなし部を選んだ。僕はサッカーが上手じゃない。レギュラーが獲れない分、おもてなし部の部長として頑張っている」と続ける。来年度からは、より本格的に部署活動の資金集めを行なう部署や、OB会と連動してサッカースクールを手伝う部署も発足する予定だ。

「ほかの学校とは違う活動を行なうことで、人間的に成長できる。マネしてくれる高校も増えているのでやっていてよかった」。そう話すのは、キャプテンで全体の部署を統括する総務のリーダーを務めるMF内田裕也(3年)だ。

 高川学園の部署活動に感銘を受けるチームは多く、龍谷高(佐賀)や宜野湾高(沖縄)、岡山学芸館高(岡山)も今年から同様の活動を始めた。

 高川学園高校サッカー部の活動によって、選手はたしかな成長を遂げている。高川学園発の新たな取り組みは、令和の部活動における新たなスタンダードになるかもしれない。