井端弘和「イバらの道の野球論」(12)前回の記事はこちら 来春のキャンプインが迫るプロ野球。今シーズン歓喜に沸いた球…

井端弘和「イバらの道の野球論」(12)前回の記事はこちら

 来春のキャンプインが迫るプロ野球。今シーズン歓喜に沸いた球団も、悔しい結果に終わった球団も、2020年シーズンで頂点を目指してチームをビルドアップさせていく。また、メジャー移籍を決める選手も続々と出てきそうだ。

 球春到来を前に、井端弘和氏に2019年の「プロ野球5大ニュース」を挙げてもらった。今年デビューを果たした自身の解説業も振り返ってもらいつつ、来シーズンの展望を聞いた。



レイズへの入団会見を終えた筒香と、会場を訪れた元西武のデストラーデ氏

【① 巨人・坂本勇人のホームラン40本超え】

──坂本選手の名前を挙げた理由を聞かせてください。

「2018年シーズンのホームラン18本から、倍以上の40本を打ったわけですからね。打率も、終盤にかけて少し下がりはしたものの、3割1分2厘なら十分です。『内野で一番過酷』とされているショートでそれを達成したことは、驚異と言っていいでしょうね」

──ホームラン数が伸びた要因はどこにあるのでしょうか。

「まずは打順ですね。主に2番を打ち、その後ろの打順に丸(佳浩)が入ったことが大きいです。相手ピッチャーが、実績がある丸の前に『ランナーを出したくない』と意識して、よりストライクゾーンに近いところで勝負せざるを得なくなった。3番を打っていた昨季も4番に岡本(和真)がいましたが、まだ手探り状態でしたから。もうひとつは打球の伸び。とくに反対方向(ライト方向)への打球が伸びるようになりました」

──打撃フォームなどに変化があったのでしょうか。

「フォームが変わったようには見えないですね。土台となる下半身がしっかりしたのと、おそらく”ズレ”が修正されたんじゃないかと。外角のボールは、バットがボールに当たるときのタイミングや角度が少しズレただけで、こすったように詰まってしまいます。坂本は昨季までもフェンスに直撃するくらいの打球を飛ばしていましたけど、今季はスタンドまで持っていけるようになりました。

 開幕前までは、打球の質に変化が見られませんでしたから、シーズン中にポイントを掴んでいったんでしょう。それを忘れなければ、来季も同じくらい、もしくは上回るくらいの成績が残せるかもしれませんね」

【② 解説者&ユーチューバーデビュー】

──選手、指導者を経て、初めて経験した解説業はいかがでしたか?

「当然、ベンチの中から試合を見るときとは違いがありますよ。選手たちの表情や息づかいなどを細かくチェックすることはできないし、ピッチャーのボールのベース盤での勢い、バッターの差し込まれ具合もわかりにくいですから。でも、解説ブースにもモニターはありますし、解説する際に困ることはなかったですね」

──解説者として気をつけたことはありますか?

「思っていることの5割くらいを言葉にする、ということでしょうか(笑)。たとえば悪いプレーがあったときに、その原因や改善点などは話しますが、『まったくダメ』といった批判はしない。それなら、その選手や球団を応援するファンも納得してくれるんじゃないかと思っています。

 いいプレーをしても、『ここで終わってほしくない』という期待も込めて、過剰に褒めないよう心がけました。プロ野球は毎日試合がありますから、1回、1日の結果に一喜一憂しないように、『切り替えていかなければいけない』という意識が僕の中にあるんだと思います」

──当日までの準備、参考にされた先輩の解説者などはいますか?

「解説する試合が決まったら、その1週間前くらいからの両チームの投打の成績をチェックします。今は予告先発も発表されますから、前回登板の内容も確認することで、状態の良し悪しの原因なども推測することができますからね。そういったデータから、自分なりに話をしているので、誰かの解説を参考にしたことはないです。誰かを意識するとまったく話せなくなりそうですし。解説の評価は聞いている方たちにお任せします」

──10月にユーチューバーデビューを果たしたことに関しては?

「時代の流れで挑戦してみました(笑)。見る方々がどう思うかはわからないですが、別の形で何かを伝えることで、自分も何かが得られるんじゃないかと。というわけで、よろしければ動画をチェックしてみてください」

【③ MLB式の戦術】

──シーズンの途中にも、日本ハムの守備シフトやオープナーについて伺いましたが、シーズンが終わって、あらためてどのような印象を持ちましたか?

「守備のシフトについては、それでアウトになった確率などのデータがないので球団の判断になりますが、オープナーは一定の効果があったんじゃないかと思います。日本ハムでいえば、オープナーの中心を担った加藤(貴之)のように活躍できる投手も増えました。『何回で交代する』とある程度決まっていることで、途中から代わる投手は、それまでの流れや前の投手の調子などを引きずらずに登板できる。故障明けの杉浦(稔大)なども、回数が決まっていたほうが調整しやすい部分もあるのでは、と感じました。

 ただ、セ・リーグのほうが導入をためらう球団が多いかもしれませんね。DHがないので投手の替え時が難しいですから。それでも、今季から両リーグとも『出場選手登録』の人数が1枠増えて29人(ベンチ入りの人数は25人で変わらず)になり、それをうまく駆使しようとDeNAなども模索していたので、今後いい方向で進みそうな気はします」

──より有効な活用法はあるでしょうか。

「現在は中継ぎ投手を継投させることが多いですが、打者の立場からすると嫌なんですよね。オープン戦の投手起用が似ているんですが、打席ごとに投手が変わるとその都度対応しないといけないので。だから大きく変える必要はないと思いますが、私個人の案としては、毎週日曜は先発型の投手2枚でやりくりをするのもいいんじゃないでしょうか。そのときだけ、ベンチにいる中継ぎ投手と『出場選手登録』されている先発投手を代えれば、理論上は可能かと思います。

 今のプロ野球では、中継ぎ投手が登板過多になる傾向があります。でも、移動日前の日曜の試合を2人の投手で乗り切れたら、ゆっくり休養することができる。そうして体と心をリフレッシュさせたら、火曜からの試合でのいいパフォーマンスにつながるんじゃないかと。そういったことは各球団も考えているでしょうし、日本ハムやDeNA以外に導入するチームが出てくるかもしれません。来季はそこも注目ですね」

【④ セ・リーグよりパ・リーグのほうが強いという論調】

──今年の日本シリーズでソフトバンクが巨人に4連勝したことで、パ・リーグのほうが強いという声がさらに大きくなりましたね。

「ソフトバンクは、2年連続で日本一になった経験から、『今回も勝てる』という気持ちで臨めたのが大きいと思います。反対に巨人は、昨季の広島のようにならないようにと意識しすぎてしまったのかもしれません。ともあれ、短期決戦は勝負がどちらに転ぶかはわかりませんよ。両リーグともどのチームが勝ち上がるかわかりませんでしたし、ソフトバンクがセ・リーグ6位のヤクルトと日本シリーズを戦っても必ず勝てるとは限りませんしね。選び抜かれたプロ同士なわけですから」

──しかし、交流戦でもパ・リーグのほうが勝利数は多くなっています。両リーグの野球の違いに関係があるのでしょうか。

「私の経験からのイメージですが、戦い慣れていない球団と試合をする場合、パ・リーグのチームが”どんどん行く”のに対し、セ・リーグは”様子見”という印象がありますね。私も現役時代は、最初の打席では2、3球を見逃し、追い込まれるまでボールを見ていこうという意識がありましたが、パ・リーグの打者は積極的に振ってくる選手が多かった気がします。

 でも、どちらの野球がいいというわけではないと思います。ここ何年かはパ・リーグの野球がハマっているだけかもしれないし、最初の何年かの交流戦で勝ち越したことが、先ほどの日本シリーズの話ではないですが、パ・リーグの各球団に自信を持たせてしまったのかもしれない。一度、過去のように、交流戦を撤廃してみてもいいとも思います。それによって両リーグの意識がフラットになれば、日本シリーズの結果も変わってくるかもしれない。それでもパ・リーグの球団が勝ち続ける結果になったら、セ・リーグの球団に変化をもたらすことにつながるでしょうから」

【⑤ メジャー挑戦者続出】

──いち早くタンパベイ・レイズへの移籍を決めた筒香嘉智選手(元DeNA)をはじめ、多くの日本人選手がメジャー挑戦を表明しましたね。

「資格がある選手ならば、どんどん挑戦してもらいたいです。私が選手だった頃とは何もかもが違いますから。私の場合は、”パイオニア”である野茂(英雄)さんが大学時代にメジャーに渡り、イチローさんが海を渡ったのもプロ入りして4年目くらい。だから私たちの世代は子供の頃の夢が『プロ野球選手』だったのに対し、今の若い選手たちは子供のときから『メジャーリーガー』を夢見ていた人が多いはず。それに従うのは自然のことだと思いますし、今後も増えていくでしょう」

── 一部の選手に対し、「メジャー挑戦に見合う結果を残していない」「通用しない」といったうしろ向きな声も散見されますが。

「それは周囲の人間がとやかく言うことではないですよ。ただ、軽々しい気持ちで挑戦を口にしてほしくはないですけどね。メジャー挑戦を表明したならば、あっちに骨を埋めるくらいの覚悟は持っていてほしい。たとえいい結果が残せずに日本に戻ってくることになっても、メジャーで何かしらを掴んでその後のキャリアに生かしてほしいです」

──まだ球団が決まっていない選手も多く、井端さんからのエールはありますか?

「打撃に関して、メジャーに行ってホームランが増えた例はないですよね。筒香には30本前後、秋山(翔吾/西武)であれば3割20本くらいの、プロ野球時代と変わらない成績を残してくれることを期待しています。とにかく、ここからメジャーに挑戦する選手たちすべての活躍を願っています」