ついに、その瞬間がやってきた! 2019年12月27日に開幕した第99回全国高等学校ラグビーフットボール大会。開会式が行なわれたばかりの東大阪市花園ラグビー場の第1グラウンドで、埼玉県立浦和高校(通称・浦高)が、花園での初勝利を挙げた。 …

 ついに、その瞬間がやってきた!

 2019年12月27日に開幕した第99回全国高等学校ラグビーフットボール大会。開会式が行なわれたばかりの東大阪市花園ラグビー場の第1グラウンドで、埼玉県立浦和高校(通称・浦高)が、花園での初勝利を挙げた。

 相手は、2年連続3回目の出場で、前回はベスト16に入った岡山代表の玉島高校。

 その玉島高校のキックオフで開始された試合、風上に立ち、前半から主導権を握りたいと考えていた浦高は、得意なフォワードからのアタックだけでなく、バックスのパスまわしを織り込んだプレーで、敵陣深くに切れ込んでいく。

 これに対し、玉島高校のディフェンスが浦高の反則を誘い、あと一歩でトライというところでチャンスの芽が潰され、逆に一瞬の隙を突いて、玉島高校がゴールラインへと迫ってくる。

 そんな一進一退の戦いの中、0対0で前半の30分間が終了。後半に入る直前、浦高ラグビー部の三宅邦隆監督は、今度は自分たちが風下で不利になることを見越して、「腹をくくって、思い切りやろうよ!」と選手たちを鼓舞し、グラウンドに送り出す。

 後半も両校の攻守が激しく入れ替わる展開。見れば見るほど、浦高と玉島高校の、徹底的に鍛えられたディフェンスの堅守から攻撃の糸口を見つけ出していこうとするプレースタイルは瓜二つ。どちらの高校が流れを引き寄せることができるのか、まったくわからない。

 すると後半の15分、浦高にチャンスが訪れた。

 ゴール前5メートル地点で、フォワード陣が中心になり得意のモールをつくり、両校の選手たちが入り乱れる中、ナンバー8の松永拓実キャプテン(3年)が、自ら倒れ込み、トライを決めた。

 この直後のコンバージョンはポールに嫌われ失敗したものの、浦高がようやく手にした主導権を手放すことはなかった。5対0で、勝利の女神は最終的に浦高に微笑んでくれたのだ。



浦高が得意とするモールから、ナンバー8の松永キャプテンがトライを決めた

* * *

 ノーサイドの笛が第1グラウンドに鳴り響くと、スタンドの一角を埋め尽くした浦高の大応援団は歓喜の渦に包まれた。

 浦和高校は、東大合格者数でみると全国の公立高校では第2位(2019年は41名)という超進学校だ。生徒たちは全員がハイレベルの難関入試を突破して入学しており、当然ながらスポーツ推薦などの優遇制度はない。それだけに、ラグビー部の花園での1勝には大きな価値がある。



花園に詰めかけた浦高の大応援団。各界で多くのOBが活躍している

 思えば、この初勝利までは、3度の出場を経なければならなかった。

 1度目の出場は第39回大会(西宮球技場で開催)。

 当時は埼玉県予選で優勝しても、それがイコール全校大会出場とはならなかった時代。浦高は埼玉県代表として北関東地区予選に出場し、決勝で新潟商業を破ってようやく全国大会にコマを進めた。しかしながら、1960年の元旦に行なわれた1回戦で、浦高はこの大会でベスト4に入った大阪代表の四條畷高校に3対11で敗れてしまう。

 2度目は2013年の第93回大会。

 埼玉県予選の決勝で頸椎を損傷する大ケガを負ってしまったチームメイトのために、花園での初勝利を持ち帰ろうと臨んだ1回戦。だが、ラグビーに力を入れ、全国大会の常連校の仲間入りを果たそうとしていた滋賀県の光泉高校に跳ね返され、12対22のスコアでまたもや初勝利を逃してしまった。

 そして、3度目となる第99回大会。浦高に3度目の正直がもたらされた。

 それは浦高が初めて全国大会を決めた昭和、2度目の平成、今回の令和という3つの時代をまたいだ、花園での初勝利だったのである。

* * *

「浦高はフォワードで点を取りにいかないと始まらないですから。それと、今回はボールに向かっていくのではなく、自分たちの穴を埋めて戦うことも意識しました」

「勝った瞬間は、とてもうれしい気持ちでいっぱいになりました。今までのラグビー部OBのみなさんたちが積み重ねた上に、新たな1ページを開くことができました」

 今回の花園での初勝利について、そう語ってくれた松永キャプテン。しかし、キャプテンとして、勝利の余韻だけに浸ってばかりはいられない。

 三宅監督は、次の2回戦で当たる青森山田高校について、初出場だが、けっして侮ることはできないチームと分析する。

「青森山田には、トンガからの留学生が2人と、日本人にも速い選手がいるんで、彼らをどうやって止めていけるかがカギになる。でも、お互いにこれまで試合もしたことがないチーム同士なので、ウチとしては、また、腹をくくって思い切りやるだけなんですけどね」

 松永キャプテンも、「低いタックルで、(自分たちは)体は大きくはないけれど、相手にプレッシャーをかけていくような、泥臭い、浦高らしいプレーで向かっていきたい」と、青森山田戦に向けての意気込みを語ってくれた。

 三宅監督は、玉島高校戦の試合中に生徒たちの成長を実感できたという。

「玉島戦の前半が終わった後、僕が指示を出さなくても、『モールが真っ直ぐにいき過ぎた』『少しずつ、ずれていこう』とか、彼らだけでハーフタイムに話をして、それが後半、修正され、後半でのモールからのトライにつながっていったんですよ。彼らの成長はヤバいですよ。僕も負けないように成長していかないと!」

 今回の花園での初勝利で、大会間に目指していた「一流の文武両道」を証明したみせた浦高ラグビー部。

 12月30日の15時15分から、第3グラウンドになっている東大阪市花園中央公園多目的球技広場での青森山田高校との2回戦。

 センター試験より前に、彼らにはまだまだ負けられない戦いが待っている。



悲願の花園初勝利を喜ぶ浦和高校ラグビー部