今年で98回目を迎える全国高校サッカー選手権。令和最初の勝負が12月30日に幕を開ける。いくつかの元号を通して行なわれ…

 今年で98回目を迎える全国高校サッカー選手権。令和最初の勝負が12月30日に幕を開ける。いくつかの元号を通して行なわれ、さまざまな高校が歴史を紡いだ冬の檜舞台。過去の大会を振り返ると、いくつかのチームが一時代を築いてきた。



今年度高校サッカー選手権、優勝候補筆頭の青森山田。武田英寿に注目が集まる

 戦後以降、昭和中期に大会を席巻したのは埼玉県勢だ。1959、60年度に大会を連覇した浦和市立や75、76年度連覇の浦和南が、この全国の舞台で結果を残した。昭和の終期に入ると、古沼貞雄監督の下で6度の選手権制覇を果たした東京都の帝京や、大滝雅良監督が率いて3度の戴冠に輝いた清水市商(現・清水桜が丘)や清水東、東海大一(現・東海大付属静岡翔洋)などの静岡県勢が台頭。

 そして、忘れてならないのが長崎県の国見だ。小嶺忠敏監督の指導で力をつけると、昭和ラストイヤーの87年度に初制覇し、平成で黄金時代を迎えた。新たな元号を迎えると、国見とともに高校サッカー界を牽引したのが千葉県の市立船橋だ。布啓一郎監督の下で94年度に選手権を初めて制すると、平成では2度の監督交代を経験しながら5回も頂点に立った。

 98年度に3冠を達成した福岡県の東福岡や、この選手権で2度凱歌をあげた鹿児島県の鹿児島実なども全国舞台で結果を残しており、平成初期から中期を彩った強豪校を挙げれば、枚挙にいとまがない。

 こうしてさまざまな高校が盛衰していく中で、高校サッカーの在り方も時が進むに連れて大きく変わった。とくにJリーグが1993年に開幕すると、高校年代のサッカーは転換期を迎える。Jクラブが下部組織を持つようになり、選手の所属先が多様化したのだ。それまでのように一線級のプレーヤーが必ずしも高校に進む流れではなくなり、戦力の分散化が進んだ。

 そのため、平成中期をすぎると、状況が一変。これまで全国を席巻してきた高校が絶対的な存在ではなくなった。2005年度から14年度までを振り返ると、11年の市立船橋以外はすべてが初優勝校。どこが勝ってもおかしくない群雄割拠の時代を迎えた。

 こうした流れに終止符を打ったのが、2011年に創設されたU-18高円宮杯プレミアリーグだ。Jユース、街クラブ、高体連(高校)が、同じ大会でしのぎを削る高校年代最高峰の戦い。この全国リーグの普及で高体連のレベルが引き上げられ、全国優勝経験のある強豪校に選手が集まる傾向が再びできあがってきたのだ。

 15年度の選手権は、プレミアリーグWESTに所属する東福岡が17年ぶりに制覇。翌年も同EASTに籍を置く青森山田(青森県)が大会を初制覇し、昨年度も埼玉スタジアムでカップを掲げた。

 再び、強豪校が制する流れとなった高校サッカー。その点を踏まえ、12月30日に開幕する今年の大会を展望していくと、やはりプレミアリーグに籍を置くチームが主役を担う可能性が高い。決勝までの組み合わせを考慮したうえで、優勝候補の筆頭は青森山田と市立船橋になる。

 今季の青森山田も、例年と同じく勝負強いチームに仕上がった。昨冬の優勝をピッチで経験した選手は、 MF武田英寿(3年/浦和入団内定・U-18日本代表)とDF藤原優大(2年・U-17日本代表)しかいないが、チーム全体は1年を通じてプレミアリーグを経験して大きく成長した。その筆頭が、中盤の底で攻守を支える古宿理久(3年/横浜FC入団内定)だ。今季に入ってからレギュラーの座を掴み、球際の激しい守備や正確なパスでチームを牽引する存在へと成長を遂げた。

 また、伝統の堅守やセットプレーの強さは今年も健在。サブメンバーにも流れを変える切り札を多数用意しており、今年も強さに揺るぎはない。12月15日、プレミアリーグWESTとEASTの王者が日本一を懸けて戦うプレミアリーグファイナルでも、名古屋グランパスU-18を下し、高体連では史上初となる2度目の戴冠となった。

 ただ、懸念材料もある。それが組み合わせだ。青森山田が入ったブロックを見ると、名だたる実力校がずらり。抽選会では他校の監督から、「包囲網だね」「ベスト8まで毎試合準決勝(レベル)以上の相手」といった声も聞こえてきたほどだ。

 実際に青森山田は初戦となる2回戦で米子北(鳥取県)と対戦する。昨年までプレミアリーグに所属していた山陰地方屈指の強豪は、伝統の堅守速攻で虎視眈眈と王者撃破を目論む。「初戦にすべてをぶつけられる」と中村真吾監督が話すとおり、したたかに挑んでくるのは必至。大分入団内定で188センチの大型CB高橋祐翔(3年・U-18日本代表)を中心とする守備網をこじ開けられなければ、青森山田はひと泡吹かせられても不思議ではない。

 そこを突破しても、以降も一筋縄ではいかない相手が続く。3回戦では今季夏のインターハイ準優勝の富山第一(富山県)、MF山田真夏斗(3年/松本入団内定)を要する立正大淞南、一昨年の王者・前橋育英(群馬県)、鹿児島の技巧派集団・神村学園のいずれかが待ち構える。ここを突破できても、準々決勝では近年力を付けてきた昌平(埼玉県)や興國(大阪府)、大会屈指の攻撃力を持つ國學院久我山(東京都B)と戦う可能性が高い。

 さらに準決勝も侮れない。トーナメント隣の山はFW晴山岬(3年/町田入団内定・U-18日本代表)、MF谷内田哲平(3年/京都入団内定)に注目が集まる帝京長岡(新潟県)がいる。神奈川県の日大藤沢は、FW西川潤(3年/C大阪入団内定・U-17、U-20日本代表)を擁する夏のインターハイ王者・桐光学園を予選決勝で撃破した。

 青森山田は激戦区を勝ち抜けるのか。連戦の疲労を乗り越えながら状況に応じた戦いを見せることが、ファイナルまで勝ち上がるポイントになるはずだ。

 対する反対のブロックに入った市立船橋は状態がいい。インターハイは予選準決勝で姿を消したが、夏以降は復調。プレミアリーグEASTでは下位に低迷していたが、9月にキャプテンのMF町田雄亮(3年)がケガから戻ると、14節の尚志戦から4連勝を果たした。中盤での素早い攻守の切り替えやボール奪取で、攻守のバランスが改善され、技巧派FW鈴木唯人(3年/清水入団内定・U-18日本代表)もチャンスメークやフィニッシュの役割に専念できるようになった。

 また、今大会唯一のU-17ワールドカップ出場組で、右SB畑大雅(3年/湘南入団内定・U-17、U-18日本代表)、Jクラブが注目する左SB植松健斗(3年/U-18日本代表)の攻撃力も生かされ、アタックの破壊力は春先と比べ物にならないほどレベルアップ。



攻撃の破壊力が増した市立船橋。SB畑大雅は持ち前のスピードを生かす

 課題だった守備陣もCB石田侑資(2年)を中心に安定感を増しており、大量失点を喫する試合が激減した。「精神的支柱の町田が戻ってきたのも大きい。チームとしてこれまでやってきたことが、身になって少しずつ形になってきた」と、波多秀吾監督も手応えは十分。2011年度以来の優勝も射程圏内だ。

 ただ、4強までの道のりで侮れないのは京都橘(京都府)だ。夏のインターハイで4強入りを果たしている古都の強豪校は、前線にタレントを揃えており、大会を制する力はある。機動力に長けたFW梅村脩斗(3年)と屈強なFW梅津倖風(3年)は、今大会注目の2トップ。右サイドに入る期待のアタッカー・FW西野太陽(2年・U-17日本代表)も含め、どこからでも得点が奪える陣容に隙はない。また、夏以降に控え組が力をつけたのもプラスの要素。「交代枠を気にせずに起用できるようになった」と米澤一成監督が自信を見せるように、選手層の拡充で短期決戦向けのチームに仕上がった。

 隣のブロックで力があるのは、世代屈指のドリブラー・MF松村優太(3年/鹿島入団内定・U-18日本代表)がいる静岡学園(静岡県)。また、昨冬ベスト4の尚志(福島県)は負傷でFW染野唯月(3年/鹿島入団内定・U-18日本代表)の不在は痛いが、穴を埋める役者に事欠かない。得点力に長けた10番のFW山内大空(3年)に加え、染野の代役を担う185センチのFW阿部要門(2年)が急成長。準決勝まで勝ち残る可能性は大いにある。

 令和最初の選手権を制するのは、果たしてどこか。プレミアリーグ勢が順当に勝ち上がるのか、それとも新たな王者が誕生するのか。決勝は1月13日。新時代の旗手となるべく、48の代表校が埼玉スタジアム2002を目指す。