逆転で全日本選手権4連覇を果たした宇野昌磨 専属コーチ不在のままシーズンインした宇野昌磨が、シーズン序盤の不振から見事な復活を遂げて、全日本選手権で4連覇を成し遂げた。羽生結弦に初めて勝った大会ともなった。 フリーの演技を終えた宇野は次のよ…



逆転で全日本選手権4連覇を果たした宇野昌磨

 専属コーチ不在のままシーズンインした宇野昌磨が、シーズン序盤の不振から見事な復活を遂げて、全日本選手権で4連覇を成し遂げた。羽生結弦に初めて勝った大会ともなった。

 フリーの演技を終えた宇野は次のように語った

「今日のフリーでよかったのは、失敗してもミスと思わず、演技に集中できたことと、ミスを最小限に抑えられたことです。今シーズンはいままでで一番つらいシーズンだったんですが、それを経験した中でうれしい結果が出たので、スケートをあきらめなくてよかったです」

 ショートプログラム(SP)の『グレート・スピリット』はすばらしい出来だった。冒頭の4回転フリップ、トーループの4回転+2回転の連続ジャンプ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は、いずれもキレのあるジャンプだった。十八番のクリムキンイーグルも見せ場となり、宇野自身が今季の目標にしていた「自分らしくプログラムを表現する演技」を披露。見終わったあとはしばらくの間、ドキドキ感が収まらなかったほどの演技だった。得点は105.71点とシーズンベストをマーク、首位の羽生とは5.01点差の2位発進だった。

 4年ぶりの出場となった羽生と、やっと同じ全日本の舞台で戦える宇野にとって、大会3連覇という過去の結果はあってないようなものだった。今年こそは真の全日本王者になるべく、羽生に勝って4連覇を飾りたいと密かに闘志を燃やしていたのではないか。

 2位で迎えたフリー『ダンシング・オン・マイ・オウン』は、プログラム前半の4つのジャンプが危なっかしい着氷ながらも耐えて踏ん張った。後半に連続ジャンプを3つ跳んだ中で、3連続ジャンプの最後のジャンプが1回転になったが、ミスを最小限に抑えた。フリーは1位の184.86点を出して合計290.57点。ジャンプミスを連発して合計282.77点の羽生を7.80点上回り、シニア転向後9回目となる羽生との対戦で、ついに初勝利を挙げた。

「全日本選手権までに時間があったので、たくさん練習してきたんですけど、体力が足りなくなってしまって、最後のアクセルであきらめながらも、フリップをつけなきゃと思ってシングルフリップをつけました。失敗も楽しむことができ、成功も楽しむことができた。本当に今シーズンはつらいと思う時間が例年よりも多かったので、久々に楽しむ練習、楽しめた試合ができました。演技はベストではなかったですけど、最後まで自分の演技を貫けた達成感というのはあります」

 今オフには、幼少時から師事してきた山田満知子コーチと樋口美穂子コーチのもとを離れた。新たなコーチと練習拠点を探していたが、シーズンが始まってもなかなか適任者が見つからなかった。そんな中で迎えたグランプリ(GP)シリーズは、初戦のフランス杯からつまずいた。SPもフリーも「ボロボロの演技だった」と本人が振り返るほどで、自己ワーストの総合8位。予想外の惨敗後、スイスに拠点があるステファン・ランビエールコーチのところに駆け込み、練習を見てもらった。

 続くロシア杯では臨時コーチとして大会に同行してもらい、アドバイスを受けたことで調子を取り戻して総合4位に。4年連続で出場していたGPファイナルへ進出することはできなかったが、調子は上向いていた。その後も、スイスで指導を受けながら、全日本選手権に向けて練習に取り組んできた。島田高志郎の専属コーチであり、日本でのアイスショーにも頻繁に出演している日本通のランビエールコーチは、「自らが求めていたコーチ像にぴったりだった」と言う。

「フランス大会が終わってから、そこで気持ちを切り替えられた。あのときのボロボロの試合が終わった時点で、そのときに自分が勝手に背負ったもの(『強くならなくてはいけない』『勝たなければいけない』という気持ち)を下ろしたというか。いま振り返ると、フランス大会が”あって一番よかった試合”でした。それがあったからこそ、この場所(全日本優勝)にいられると思っています。

 ステファンコーチのところで練習することになって、またスケートが楽しいと気づかせてくれたし、スケートを楽しみたいと思うようになりました」

 表彰台の真ん中に立った宇野は、神妙な面持ちで表情は硬く、ちょっと気恥ずかしそうでもあった。それは右隣りに、その背中を追いかけ続けてきた偉大な先輩がいたからかもしれない。メダリスト会見では「どうしても言いたいことがある」と、自らマイクを請い、こう切り出した。

「羽生選手がいない中で全日本選手権に3度優勝したんですけど、僕も、正直日本の誰も、僕が日本一に3度なったことは気づいていなくて、日本のスケートのレベルが高い中で優勝できたことは本当にうれしいことではあるんですけど、やはり僕の中でも、日本中のみなさんにも、『日本で一番うまいのはゆづくんだ』というのがあると思います。

 自分のスケート人生の目標として、一番はオリンピックだと皆さんは思っているかと思うんですけど、僕はそれ以上に、羽生選手にいつか同じ立場で戦って勝ってみたいという目標があった。それだけ僕にとって(羽生は)大きな特別な存在で、今回の結果は、偶然のところがたくさんあると思いますけど、今シーズン調子が悪かった中で、スケートを辞めずにやってこられて、いい結果を出せて本当にうれしかったです」

 羽生という「大きな特別な存在」に日本中が注目した全日本選手権で勝てたこの結果は、今後の宇野にとって大きな自信となるに違いない。新たな環境で飛躍の鍵を手に入れた宇野はどんな扉を開くのか。シーズン後半戦の戦いが楽しみだ。