「ジャンプは全部、危なかったです。あれだけこらえるジャンプばかりっていうのはあまりない。でも、(それを)こらえられたのが、優勝の要因だと思っています」



全日本選手権で4連覇を果たした宇野昌磨

 取材エリアに出てきた宇野昌磨(22歳)は、清々しい顔で言った。

 2019年の全日本フィギュアスケート選手権、宇野は4連覇を成し遂げる形で制した。ショートプログラム(SP)は2位スタートだったが、フリーは184.86点で他を引き離しての1位。逆転での戴冠だった。

「今シーズンは、”スケートをやっていてつらいな”というのが、(今までで)いちばん多くて。(今回は)久々に練習から楽しめて、試合も楽しめて。自分の演技を貫くことができました」

 宇野はそう言って、とろけるような笑顔になった。

 王者はなぜ、”こらえられた”のか?

 12月22日、国立代々木競技場第一体育館。宇野は、フリースケーティングの当日練習、曲かけでことごとくジャンプを成功させていた。ただ、ジャンプを跳んだあとのステップやスピンは割愛。ジャンプをひと通り終えると、ヒザに手をついた。体力的に相当厳しいプログラムなのだろう。

 ただ、宇野の表情は、厚い雲が切れて日が差すようだった。

「(平昌)五輪の結果で、僕が思った以上のものを受け取ってしまいました。その(結果を求める)自覚で、”強くなろう”という思いが、”楽しむ”よりも大きくなってしまって。(グランプリシリーズ)フランス大会が(完敗という形に)終わったことで、むしろ気持ちが変化して。あの(苦い)経験で、勝手に背負っていたものを下ろすことができました」

 この日、フリーの演技に臨んだ宇野は翼を授けられていた。体よりも、心が解放されていたのか。

「失敗しても引きずらない、と思って入って。(冒頭の)フリップはすごくギリギリでした。でもそこで、(転ばず)よかった、という気持ちを(無理に)隠さず、顔に出しながら」

 宇野は訥々と克明に、自らの演技を振り返る。

「次のトーループもだいぶ危なくて、なんとか(こらえて)。次のアクセルは練習で失敗することはほとんどないので、いけると思っていたら、これもすごく危なくて。そしてループで失敗しましたが、滑っていて思わず笑いがこみ上げてきました。いつもは失敗を数えてしまうけど、後半は忘れていて。最後は体力がなかったので、(アクセル+オイラー+3回転フリップの連続ジャンプで)シングルフリップをつけようと。シニアの選手でシングルフリップを狙ってやるって、と思いながら」

 宇野はそう言って、自分に突っ込みを入れ、笑みすら洩らしていた。

「楽しむ」

 その境地に到達していたのだろう。しかし、それは「楽しむ」と口に出すだけでは、たどり着けない。苦しみに喘ぐなか、そこで逃げずに挑んで得たものだろう。今シーズンで言えば、コーチ不在でも果敢に大会へ出場し、できる限りのことをした。必死にもがく姿に、観衆の声援が沸き上がって、手を差し伸べる人も出てきた。矛盾しているようだが、苦しんで強くなり、楽しむ境地に達することができるのだ。

 おかげで、宇野は厳しいプログラムのジャンプも”こらえられた”。単なる原点回帰でなく、彼はグレードアップしていたのだ。

「トップレベルで戦えるのはうれしいですけど、そこで”頑張らなきゃ、やらなきゃ”ばかりになると苦しくて。(最近は)自分を見失っていました。強くあるべきアスリートとしては”自覚がない”と言われるのかもしれませんが、僕はスケートを楽しんでやっていきたい」

 宇野は実感を込めて言う。

「(平昌五輪後)2年まわって、スケートを楽しむ感覚が戻ってきました。スケートをやれる年数は、今までの年数よりも半分を切っているはずで。僕は、”スケートをやっていてよかった”と思えるスケート人生にしたい。今シーズンはつらかったですが、あきらめずにやってきてよかった。これからも楽しいと思える練習をたくさん積んで、(3月の)世界選手権も選ばれたら、また楽しむ気持ちで臨みたいです」

 大会後、宇野は全日本王者として、(2月の)四大陸選手権、世界選手権の代表選手に選出された。

「男子フィギュアも、最近はすごくうまい(若い)子が出てきて」

 そう語る宇野の左手には、高校生で全日本3位に入った鍵山優真が座っていた。

「自分もつい最近まで、あっち側だったんですけどね(笑)。追われるだけじゃなくて、一緒にうまくなっていきたいです。僕もまだ22歳なので、もっと上を目指して成長できるように」

 この1年、宇野は逆境を力に変えた。少し拗ねたような甘さのある表情に、苦みを含んだ男っぽさも滲ませるようになった。堂々の4連覇だ。