全日本選手権フリーで2位となり、総合でも2位となった樋口新葉 樋口新葉が心と体を磨いてぎゅっと絞り、全日本選手権で見事な復活劇を演じた。SP4位と出遅れたが、フリーではほぼ完璧な演技を披露して2位に順位を上げ、合計206.61点と、200点…
全日本選手権フリーで2位となり、総合でも2位となった樋口新葉
樋口新葉が心と体を磨いてぎゅっと絞り、全日本選手権で見事な復活劇を演じた。SP4位と出遅れたが、フリーではほぼ完璧な演技を披露して2位に順位を上げ、合計206.61点と、200点超えの高得点で、3年ぶりの表彰台となる総合2位になった。
今季前半戦のグランプリ(GP)シリーズでは、スケートアメリカとフランス杯でいずれも6位に終わった。ただし演技内容を見ると、樋口自身も納得がいく出来で、少しずつ手応えをつかんでいた。そして全日本には「ジャンプが失敗しても続ける練習、あきらめない、気持ちで折れないような練習をたくさん取り組んできた」と、自信をつけて臨んだ。
「落ち着いてあきらめないでやることを意識して、試合でそれを実践できました。ここ2、3カ月、全日本に向けて頑張ってきたので、その成果を出せたことはよかった。ここまでの練習の中で気持ちが折れかけそうになったこともあったけど、やっぱり頑張らないと結果がついてこないので、踏ん張って頑張りました」
ジュニア時代からスピードに乗ったスケーティングを武器に、ダイナミックなジャンプを跳んでいた樋口は、将来有望なホープとして注目を集めてきた。ジュニア1年目の2014-15シーズンにはジュニアGP大会で初優勝すると、ジュニアGPファイナルではSP5位からフリーで巻き返して総合3位に入った。ジュニアGPファイナルで日本人女子が表彰台に立つのは、09年の村上佳菜子以来5年ぶりだった。
そのシーズンは全日本ジュニア女王にもなり、推薦枠で初出場した全日本選手権では表彰台の一角を占める総合3位と大活躍。中学2年生での表彰台は、2004年大会の浅田真央以来だ。その勢いのまま挑んだジュニア世界選手権ではSP、フリーとも自己ベストを更新して銅メダルを獲得した。
ジュニアで実績を残してシニアに転向したのが3シーズン前のこと。平昌五輪シーズンはGP2大会でも結果を残してGPファイナル初出場も果たしたが、大事な試合でケガに見舞われる不運も重なって結果を残せず、念願だった五輪代表を逃すことになった。
不振に陥った一番の原因は、シニア転向後に、体が一気に大きくなって体重増加に苦しんだからだろう。滑り全体にキレがなくなり、ジャンプでも失敗が多くなった。取り組みたいと言っていた大技のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)は、練習さえしない状態だったようだ。
甘いものが好きで、チョコレートやアイスクリームが好物だという18歳は、育ち盛りで太りやすい体質。ここ1年半ほどは体重のコントロールに気を配るあまり、ストレスもたまっていたようだ。しかし今季は、オフシーズンから食事調整などでうまく体重コントロールができるようになり、ここにきてようやくその取り組みの成果が出てきた。
「体重を減らしたり、筋肉を増やしたり、体脂肪を減らしたり、体重コントロールをすごくしてきました。トレーニングではケガをしないように、弱い部分、痛くなりそうなケガにつながるような部分の筋力や腱を強くしていきました。
食事面の調整もそうですけど、練習量も増やして、トレーニングも増やしてという感じでした。1週間でバーンと何キロも減らすというより、3カ月かけてだんだん落としていく感じだったので、あまり自分では体重変化を感じることはなく減らしていけたので、すごくいい練習ができたと思います」
さまざまな取り組みが、ようやく実を結び始めたようで、以前のようなストレスもなく、厳しい練習にも耐えられる心の余裕も生まれた。記者から「この3カ月で何キロくらい減らしたのか?」と質問を受けると、「それは言えないです(笑)」と明るく答えていた。
フィギュアスケートでは体重が重いより軽いほうが有利であることは言うまでもない。体重の軽減はどんな作用をもたらせたのか。樋口は実感を込めてこう語る。
「ケガが少なくなったというか、ゼロになった。自分では最初あまり実感がなかったのですが、ふとしたときに、軽いことでジャンプも跳びやすくなったし、体力ももつようになったなと思います」
不振だった昨季のシーズン後半戦は、大舞台の国際大会に出ることができなかった。だから、今年は世界選手権などの代表選考会を兼ねた全日本選手権で是が非でも結果を残して、代表切符を勝ち取るという目標を掲げていた。
「全日本につながるようにしっかりトレーニングをしてきて、練習の内容も息が上がることばかり多くて、きつかったんですけど、先生や友達、親とかから、『全日本が目標だから、ちゃんと頑張らないと後悔するよね』と話し合いをしてきて、自分の意識もシーズン初めよりもいっそう強くなってきた。練習にも成果が出てきたし、今回の試合でもしっかり発揮できました」
今春から大学生となり、生活面でも自律ができるようになった。たとえば、これまでは白米のない夕食は考えられなかったが、この2カ月は炭水化物を抜いて、タンパク質と野菜サラダ中心の食事にした。
「白いご飯が好きなので、夜に食べられないで練習するのが一番きつかったです。本当に夜ご飯に炭水化物が食べられませんでした。今シーズンは実験的な感じでいろいろ取り組んできて、(結果がしっかり出るかどうかどうか)不安なところも少しあったんですけど、結果が出て自信にもつながったので、新しい発見をしていくことも大事だなと思いました」
一時中断していたトリプルアクセルの習得にも本腰を入れるようになった。11月下旬にはホームリンクでの練習中に、トリプルアクセルを完璧に決めている。高さと幅のある豪快なジャンプで、これを試合で組み込めるように確率を上げてくれば、ロシア勢にも対抗できる大きな武器になるはずだ。