石川佳純の妹・石川梨良(4年)が主将として率いた青山学院大学女子卓球部は、令和元年度の秋季関東学生卓球リーグ女子1部で、優勝を果たした。平成12年度の秋季大会以来、実に38シーズンぶりに優勝旗を持ち帰ったことになる。エリートアカデミー出身の…

石川佳純の妹・石川梨良(4年)が主将として率いた青山学院大学女子卓球部は、令和元年度の秋季関東学生卓球リーグ女子1部で、優勝を果たした。平成12年度の秋季大会以来、実に38シーズンぶりに優勝旗を持ち帰ったことになる。

エリートアカデミー出身の石川や、四天王寺高校でインターハイ団体優勝の三條裕紀(3年)など、粒ぞろいのメンバーが揃うが、実は3年前まで青山学院大は3部リーグに所属していた。

この短期間で19年ぶりの1部リーグ優勝に至るまでには、チームにどういった成長や変化があったのか。次期キャプテンの熊中は「チームをまとめる石川さんの存在と、自由に楽しく卓球ができる“練習環境”があったから」と話す。

今回は、実際に練習場を訪問し、青山学院大の快進撃の秘密を探った。

優勝を狙える“自立した個”を生み出した「指導者のいない練習環境」




写真:練習風景。少人数で行われている。/撮影:佐藤主祥

青山学院大の練習場には、少人数(全11名)で課題に取り組む選手たちの姿があった。明るく楽しい雰囲気の中、コミュニケーションを取り合う場面も多く、室内に響き渡る笑い声からは、20代前後の大学生らしさが垣間見えた。

だが、取材を始めてしばらくした頃、次第に“その異変”に気付く。ふと、周りを見渡したが、どこにも指導者の姿が見えないのだ。

そのことについて、熊中は「ここ1年半ほど指導者はいません。監督兼部長はいるのですが、その方は教授で忙しく顔を出せないんです」と説明する。




写真:次期主将を務める3年・熊中理子/撮影:佐藤主祥

「指導者がいないので、強くなれるかどうかは自分たち次第。練習メニューは私たち自身で決めています。やる時はしっかりやる、楽しめる時はみんなで楽しむ、とメリハリをつけた練習ができているので、つねにチームの雰囲気はいいですね」。

平日は大学の授業があり、夜はアルバイトを行う部員もいるため、練習時間も限られてくる。唯一全メンバーが揃う土日にゲーム練習を取り入れたり、他大学の練習に参加することで、大会に向けて準備を進める。




写真:多球練習でやり込む熊中/撮影:佐藤主祥

熊中は「短い時間だからこそ一つひとつのメニューや試合に集中できている。秋季リーグの前も引き締まった雰囲気の中で練習に打ち込めたので、優勝という最高の結果に結びついたのだと思います」とリーグ制覇の要因を分析する。

指導者のいない練習環境が、一人ひとりが自ら率先して物事を考え行動する“自立した個”へと育て上げた。規律で縛られた集団ではなく、自立した者たちが同じ目標に向けて結束した集団だからこそ、優勝を狙える強さが身に付いたのだろう。

秋季リーグ優勝への気持ちを強めた、主将・石川梨良への想い




写真:関東学生リーグでの石川梨良/撮影:ラリーズ編集部

とはいえ、チームをまとめ上げるリーダー的存在は重要と言える。その役割を担っていたのが、キャプテンの石川だ。

石川が入学した2016年当時、まだ3部リーグに所属していた青山学院大学。この4年間で石川が1部リーグ優勝までチームを引き上げたといっても過言ではない。

キャプテンの背中を見てきた後輩たちも「リーグ優勝は梨良さんが私たちを引っ張ってくれたからこそ」だと声を揃えて言う。




写真:2年・村上奈々(青山学院大学)/撮影:佐藤主祥

3年の米倉愛は、石川について「お姉さんのような存在。試合や練習ではもちろん、プライベートでも色々な視点からアドバイスをしてくださった」と話し、2年の村上奈々は「一人ひとり相談に乗ってくれる。私と2人でディズニーランドに遊びにも行ってくれました(笑)」とエピソードを告白。石川が公私にわたってチームを支えていたことが分かる。




写真:2年・杉本恵(青山学院大学)/撮影:佐藤主祥

2年の杉本恵は「監督や指導者がいない中でキャプテンとして率先してチームの先頭に立ってくれた。最後は優勝して大学生活を終えて欲しかったので、いつもより勝ちたい気持ちが強くなった」とコメント。

チームの精神的支柱である石川を含めた4年生に「有終の美を飾って欲しい」と、一致団結して秋季リーグに臨むことができた。それによって、想い描いていた“優勝へのシナリオ”が現実化したのだろう。

受け継がれた“主将魂”。「仲の良さ」で来季も頂点





写真:ダブルス練習に取り組む秋山星(写真左)・宮崎翔/撮影:佐藤主祥

秋のリーグ戦では、中央大、早稲田大と優勝候補を連破。東京富士大との最終戦に勝てば文句なしの優勝が決まる状況で、彼女たちは決戦に挑んだ。

勝てば「38シーズンぶりの優勝」というプレッシャーがかかる中だったが、1番手の三條、続くキャプテン石川も勝ち、青山学院大が連取。3番手の熊中/三條は敗れたが、4番手の1年・宮崎翔が3-1で勝利して王手をかけた。




写真:関東学生リーグでの秋山(写真左)・杉本/撮影:ラリーズ編集部

そして、5番ダブルスの秋山星/杉本ペアが重圧に負けることなくストレートで相手を下し、優勝が決定。秋山は「試合前(杉本と)2人で『勝ったらどういうポーズする?』って話してて(笑)。それぐらいリラックスして臨めてたんですけど、気づいたらお互い抱き合ってました」と歓喜の瞬間を振り返る。

杉本は「試合後、梨良さんが一人ずつハグや握手をしながら『ありがとう』って言葉をかけてくれました」と、青山学院大にとって感動的なフィナーレを迎えていたことを明かしてくれた。

優勝直後は周りからの反響が大きく、各メンバーに祝福の連絡が殺到。宮崎は「姉からは『青学が優勝するなんて誰も思ってなかったよ』って言われて(笑)。奇跡が起こったのかな、と思った」と語る。

だが、秋季リーグを終え、石川ら4年生は引退。来季からは、新入生を加えた新体制でシーズンに臨むことになる。




写真:青山学院大学女子卓球部を引っ張る新キャプテン熊中/撮影:佐藤主祥

新キャプテンに就任した熊中は「石川さんが作ってくれたチームの雰囲気の良さを大事にしていきたい」と意気込むと、「私たちは仲の良さが武器。どんな時も団結力を発揮できるようにしたい。またこの優勝の喜びを味わいたい」とすでに来季を見据えている。

石川から熊中へと託された主将の座。1部リーグ優勝に導いた石川の功績を見れば、必要以上に重圧を感じてしまうこともあるだろう。

だが、現時点でも熊中に対するチームメイトの信頼度は間違いなく高い。それは彼女の3年間の努力や成績、そして優しさ溢れる人柄があってこそだ。

来季も、盛り上がりと活気に満ちた練習場での姿のように、新主将がチームの武器である「仲の良さ」でさらなる高みへと押し上げていく。青山学院大の快進撃の続編を期待したい。

取材・文:佐藤主祥