王者の明大が苦しんだ。自慢の強力フォワード(FW)が劣勢に回りながらも、関西学院大を22-14で何とか下した。試合後、明大HO(フッカー)の武井日向(ひなた)主将は疲れ切った顔に安ど感を漂わせた。



主将としてチームを鼓舞した武井日向

「ほんと、勝ち切れたことがよかったかなと。関西学院さん、シンプルに強いなと感じました。大きな経験になったと思います」

『Ruthless(ルースレス)』。容赦しない、冷酷な。

 これが明大のゲームスローガンだった。武井主将が説明する。「明治のスタンダードをしっかり示して圧倒するイメージでした」と。だが、逆に関学大の圧力に押され、ゲームの主導権を握れなかった。

 武井主将は声を落とした。「ルースレス、なれなかったと思います」

 21日の東京・秩父宮ラグビー場。前半10分。約1万3千人の観客で埋まったスタンドがどよめいた。明大ゴールライン前の窮地での関学大ボールのスクラム。ぐいぐい押し込まれ、コラプシング(故意に崩す行為)の反則のアドバンテージをとられたまま、バックスに回されて関学大CTB(センター)の山本悠大にポスト下に走り込まれた。

 ゴールも蹴り込まれ、5-7と逆転された。明大がスクラムでやられた。その後の前半17分の関学大ボールのスクラムも、前半26分の明大ボールのスクラムも、立て続けにコラプシングの反則をとられた。相手3番(右PR=プロップ)に内側に押し込まれ、明大1番(左PR)の安昌豪(あん・ちゃんほ)側が落ちたように見えた。

 明大FWが3連続コラプシングとは…。信じられないスクラムの光景だった。確かに関学大のFWは低くて8人がまとまっていた。押す方向もガチッと一致していた。だが明大は組み負け、とくにフロントロー(PRとHO)が窮屈な姿勢をとらざるをえなかった。これでは押される。

 スクラムをリードするHO武井主将が冷静に述懐する。

「関西の組み方というか、関東では経験できない組み方だったと思います。低くまとまってきた相手に対し、自分たちはバラバラに組んでしまった。各々が違う方向に組んでしまっていました。方向を統一してまとまることを意識して、徐々にいいカタチに修正してはいったんですが」

 関西の組み方とは、要は基本に忠実、早くて低いセットからの鋭いヒット、8人結束のねちっこい押しか。だが、明大FWも意地を見せた。前半の終盤。ゴール前5mラインアウトからドライビングモールを組み、スローワーの武井主将がそのモールの後ろに付いて、FWをうまくコントロールした。

 時計回りに動かす格好でなだれ込み、武井主将が左隅にトライした。ゴールも決まって12-7と逆転した。「全員でモールを押し込む意識がありました」と主将は言い切った。

「今年1年、そこ(モール)はこだわって練習してきたところだったので。全員、自信を持っていた。そこで、1個(のトライ)をとれてよかったなと思いました」

 この日、バックスの主力、SO(スタンドオフ)の山沢京平に代わり、1年生の齊藤誉哉が入ったことも影響したかもしれない。が、やはり明大はスクラム、ラインアウト、ディフェンスでリズムを作らないと苦しくなる。もっとも、勝って反省できるのは理想だろう。スクラム、プレーの精度、挑みかかる気概…。武井主将はこう、言った。

「この経験が、次につながると思います」

 そういえば、ラグビーワールドカップの後、武井主将の母校・国学院栃木高、明大の先輩にあたる日本代表の田村優選手が明大キャンパスでトークイベントを開いた。イベントには練習で出席できなかったが、武井主将は関係者を通し、質問を頼んだそうだ。「大舞台で緊張しないためにはどうすればいいのでしょうか?」と。

 武井主将が説明する。

「緊張しないためには、最高の準備、完璧な準備をすることが大事だと話してくださったそうです。高校、大学の先輩がワールドカップで活躍しているというのは、ほんとにいい刺激になりました。その先輩の言葉で、改めて準備の大切さを感じました」

 身長170cm、体重97kgの武井は真面目な頑張り屋だ。好きな言葉が「覚悟に勝る決断なし」。誠実、実直、ほかに言葉が見つからない。高校時代はナンバー8だったが、サイズのこともあり、明大に入ってHOに転向した。「覚悟を決めてHOになったんです。スクラム、(ラインアウトの)スローイング、随分、苦労しました」と振り返る。

 田中澄憲監督はこう、武井を評する。

「キャプテンになる前からもですが、きっちりやる子なので、普通に自然に成長しているなと思います。とくにセットプレー(スクラム、ラインアウト)のところは、2年生の頃から随分、成長しましたよ」

 この日、秩父宮ラグビー場近くの新国立競技場では完成記念イベントが開催された。そこは、大学選手権決勝の舞台となる。その話題を振られると、武井主将は「先を見すぎると足元をすくわれるので、一戦一戦、がんばっていきたい」とまずは1歩先のことを見すえ、言葉に力を込めた。

 次の年明け2日(秩父宮)の準決勝の相手は、やはりスクラムに自信を持つ東海大。

「スクラムをもう一回、見直すべきだと思います。チーム全員がひとり一人の役割を確認し、練習で、一日一日、丁寧にやっていくことが大切になります」

 今季のチームスローガンは『真価』。重圧をはねのけ、今季も優勝できるのかどうかで明大の真価が問われるということだろう。苦戦を良薬とし、武井主将率いる王者が連覇へ、一歩一歩近づいていく。