常勝軍団相手に大健闘を見せるも、ベスト4敗退。V・ファーレン長崎の快進撃がついにストップした。 第99回天皇杯準決勝。…

 常勝軍団相手に大健闘を見せるも、ベスト4敗退。V・ファーレン長崎の快進撃がついにストップした。

 第99回天皇杯準決勝。J2クラブとして唯一ベスト4へ駒を進めていた長崎は、鹿島アントラーズに2-3で敗れた。もしもJ2から決勝進出となれば、第94回大会のモンテディオ山形以来となる快挙だったが、その夢にはあと一歩及ばなかった。

 試合序盤は、完全に鹿島ペースだった。

 鹿島はパスをつないで相手を押し込み、敵陣で常に試合を進めることができていたばかりか、開始早々の4分に早くも先制ゴール。MF三竿健斗が放ったミドルシュートが偶然、FW伊藤翔に当たり、はね返ったボールがMFセルジーニョへの絶好のパスとなったのだから、運も鹿島に味方していた。

 しかも、前半23分に生まれた鹿島の追加点は、長崎のオウンゴール。ようやく長崎の選手が落ち着きを取り戻し、少しずつ鹿島陣内で試合を進められるようになっていた矢先の出来事だけに痛恨だった。

 番狂わせを狙う長崎にとっては、ロースコアで試合の流れを引き寄せ、鹿島の焦りを誘いつつ、どこかで一太刀浴びせる。それが理想のゲームプランだったに違いない。それを考えれば、試合は最悪の展開で進んでいたと言っていい。

 ところが、瀕死の長崎は、ここから鹿島に必死で食らいつく。最終的なスコアだけを見れば、極めて妥当な結果ではあったが、地力に勝る鹿島が長崎を突き放そうにも突き放せなかった試合は、最後までどう転ぶかわからなかった。



鹿島アントラーズ相手に善戦したV・ファーレン長崎

 長崎はJ2のリーグ戦が終了して以降、この試合に照準を合わせ、徹底して鹿島対策を講じてきた。

 まずは、メンバー選びである。チームを率いる手倉森誠監督が語る。

「リーグ戦(J2)とカップ戦(天皇杯、ルヴァンカップ)でターンオーバー(メンバーを入れ替える)するなかで、リーグ戦で出場機会のない選手たちが、ここまで勝ち上がってきてくれた。リーグ戦が終わり、トレーニングを3週間やってきて、(リーグ戦とカップ戦のメンバーの)ミックスでやることによって、鹿島に『誰が出てくるんだろう』と思わせたかった」

 それと同時に、「鹿島はリーグ戦終盤、3バック(のチーム)に手を焼いていた」と、手倉森監督。リーグ戦での主戦システムだった4-4-2から、3-4-3(4列表記なら3-4-2-1)へと、フォーメーションにも変更を加えた。

 4-4-2の鹿島に対し、意図的にミスマッチを作り出すシステム変更と、その戦術に適した選手選び。長崎の鹿島対策は、見事に功を奏した。

 長崎は3-「4」-3の「4」の両サイド(ウイングバック)に起点を作り、そこから斜めに打ち込むクサビのパスを合図に、攻撃をスピードアップさせた。左ウイングバックのDF亀川諒史が語る。

「(長崎の)ウイングバックに対し、(鹿島の)サイドバックとサイドハーフのどっちが(マークに)出るかで戸惑っていて、そこが空いた。分析どおりだった」

 前半37分に長崎が返した1点目のゴール--右サイドでのつなぎからバイタルエリアでボールを受けたFW吉岡雅和が、DFラインの裏へ飛び出した右ウイングバックのMF米田隼也へスルーパスを通した--は、とりわけ鮮やかに、長崎の狙いがハマったものである。

 長崎が1点ビハインドで迎えた後半は、「鹿島が思ったより引いてくれた」と、3バックの中央を務めたDF角田誠。角田はあたかもボランチのごとく、積極的に高い位置まで進出し、攻撃に加わることで厚みを作り出した。長崎は後半28分、CKから先に3点目を失うも、直後の後半31分にMF澤田崇のゴールで再び1点差に。その後も連続攻撃を仕掛け、何度も鹿島に冷や汗をかかせた。

 結果的に、長崎は常にリードを許し、一度も追いつくことなく、試合は終わった。だが、鹿島に悠々と逃げ切られたわけではない。亀川は、「練習で準備したことを90分間出せたのではないか。相手も焦っているように見えたし、『もしかしたら』というところまでは来ていた」と話していたが、その言葉も強がりには聞こえなかった。

 長崎の狙いはある程度までハマっていた。それだけに、「3失点はちょっと取られ過ぎた」(手倉森監督)。不運もあったとはいえ、序盤の2失点があまりにもったいなかった。

 とはいえ、試合後、長崎の選手たちの表情に暗さはなかった。むしろ、そこに色濃く表われていたのは、”やれることはやった”という充実感である。角田が語る。

「(鹿島が相手で)僕らのほうが、気持ちが入っていたのは間違いない。それが天皇杯の醍醐味。鹿島が相手だからできたとは思うが、これだけのメンタルで来年のリーグ戦もできればいい。負けて楽しいというのも変だが、みんな楽しかったと思う」

 36歳のベテランDFの言葉に引っ張られるように、ボランチのMF磯村亮太もまた、「(アウェーながら多くの長崎サポーターも駆けつけ)こんなすばらしい雰囲気でやれるのは幸せ。やっていて楽しかった」と振り返った。

 もちろん、J2クラブにとって、シーズン最大の目標はJ1昇格。それが達成されてこそ、充実のシーズンだったと胸を張れる。手倉森監督は、「崩されたわけではないが、それでも3点取るのが20冠を取っている鹿島。我々が新興勢力となっていくためには、そういう鹿島を倒さなければいけない。その可能性を示す戦いはできたのかなと思う。選手たちが来季への可能性は示してくれた」と語るが、天皇杯での勢いが、そのまま来季J2に続く保証はどこにもない。

 しかしながら、長崎が天皇杯で手にしたものは、単にベスト4進出という結果だけではなかったようだ。角田が語る。

「久しぶりに(J1クラブと対戦した)この雰囲気が楽しかったし、ここに戻りたいという気持ちになった」

 長崎が1年でのJ1復帰を目指した今季、ほとんど昇格争いに加わることなく、J2で12位に沈んだ事実は動かしようがない。だが、したたかに鹿島に勝ち切られたこの試合が、選手たちの心に火をつけるきっかけとなったなら、シーズンの締めくくりとしては決して悪くなかったはずである。