アメリカ・ニューヨークで開催されている 「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の女子シングルス準々決勝で、第2シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)が第7シードのロベルタ・ビンチ(イタリア)を7-5 6-0で破り、…

 アメリカ・ニューヨークで開催されている 「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の女子シングルス準々決勝で、第2シードのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)が第7シードのロベルタ・ビンチ(イタリア)を7-5 6-0で破り、準決勝へ進んだ。  第1セットで4-4となったとき、ケルバーは上空を通り過ぎるジェット機の大きな轟音を聞いた。彼女はショットをミスしてポイントを失い、上空を睨みつけた。さらに、それに3本のアンフォーストエラーが続き、彼女はサービスをブレークされてしまう。  これが過去だったら、この一連の出来事は彼女が破滅する原因となっていたかもしれない。気を散らされ、欠点が出て、相手がそこに乗じる……しかし、今は違った。

 ケルバーのテニスはもちろん向上したが、彼女のプレー中の態度もだ。この試合の彼女はそれ以降、1ゲームも落とすことはなかった。  世界ランク2位からさらに上へ、そして、2016年2番目のグランドスラム・タイトルを獲るために、ケルバーは最後の9ゲームを連取して、昨年の準優勝者であるビンチを倒した。  「自分が誰をも倒すことができることは、知っているわ」とケルバー。「私に多くの自信とモティベーションを与えているのは、その自覚なの」。

 ケルバーはこの大会後にセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)を抜き、ナンバーワンに浮上するチャンスを手にしている。彼女は1月の全豪オープン決勝でセレナを下し、7月のウィンブルドン決勝では敗れている。  今年3度目のグランドスラム大会の準決勝に進出したケルバーは、木曜日にカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)と対戦する。2009年と2014年に全米で準優勝しているウォズニアッキは、アナスタシア・セバストワ(ラトビア)を6-0 6-2で破って勝ち上がった。  一方、この準々決勝で敗れたビンチはケルバーのメンタルについて「厳しい時間帯では、気持ちが重要な鍵となるわ」と言った。

 2015年にビンチはセレナに対して驚きの勝利を収めることで、初めてグランドスラム大会の決勝に進出した。その勝利は25年以上もなされていなかった年間グランドスラム(同一年に4つのグランドスラム大会のすべてで優勝すること)の達成を目指すセレナの挑戦に、残酷な終止符を打つものだった。  しかし今回、第7シードのビンチはケルバーに対して5-4、30-30と、第1セットを奪うまであと2ポイントと迫りながら、まずい具合にたじろいだ。彼女はフォアハンドをアウトし、それからバックハンドをネットに引っかけて、ブレークを許してしまう。そしてそれは、彼女の崩壊の始まりとなった。

 5-6とリードされてサービスゲームで0-40となったとき、ビンチはファーストサービスをフォールトし、そして、セカンドサービスでフットフォールトを言い渡された。つまり、結果的にダブルフォールトとなり、セットを失ったのである。コートサイドのベンチに戻っていく際のビンチは、フットフォールトのコールをした線審を見て皮肉っぽく微笑み、彼に対して親指を突き出すと、ラケットで拍手する仕草をした。

 「審判がフットフォールトをコールしたなら、きっと私はそれをやっていたんでしょうね」と、のちにビンチは言った。

 グランドスラム大会で、特に勝負を分ける重要な瞬間にそのような判定が下されるのは稀なことである。とはいえ、もっとも有名なフットフォールトのコールは、数年前にこの同じコートでなされた。  2009年の全米準決勝でセレナも同様のコールに腹を立てていた。そのフットフォールトによってダブルフォールトとなり、彼女の対戦相手だったキム・クライシュテルス(ベルギー)のためのマッチポイントにつながったのだ。セレナはラケットを振り回し、線審に向かって喚いた。(それ以前にすでに警告を受けていたセレナは)ペナルティとしてポイントを失い、それが試合を終わらせることになったのである。  今回はそのフットフォールトのコールが、準々決勝でのビンチの競争力を失わせた。彼女は試合の残り38ポイントのうち、10ポイントしか取ることができずに終わった。  ビンチは背中と左のアキレス腱を痛めており、左のふくらはぎにはVの字を描く黒テープを巻いていた。それでも、スライスやドロップショット、ネットラッシュを織り交ぜた彼女のテニスの多彩さが、第1セットの大部分でケルバーを苦しめた。  「私は彼女よりいいプレーをしていた」と33歳のビンチは言った。また、試合後の記者会見では、シーズンの終わりに引退するか否かを決めると口にしている。  反対にケルバーは踏みとどまり、2011年以来となる全米の準決勝に進出した。「私はよりポジティブな部分を見つめているし、自分のテニスを信じているわ」とケルバー。「今の私はこのような試合に勝つことができる選手なのよ」。(C)AP