「Falso 9」(偽9番) それが、バルサBでの安部裕葵(20歳)のポジションだ。 4-3-3のフォーメーションでの3トップの中央。大きくて強さに利点のあるストライカーが任されることが多いが、俊敏でスキルが高く、コンビネーションに長け、そ…

「Falso 9」(偽9番)

 それが、バルサBでの安部裕葵(20歳)のポジションだ。

 4-3-3のフォーメーションでの3トップの中央。大きくて強さに利点のあるストライカーが任されることが多いが、俊敏でスキルが高く、コンビネーションに長け、そして得点センスもあるアタッカーが担当することで、チームとしてのポゼッションの強みを生かす。バルサでは、リオネル・メッシも偽9番でプレーしていた。

 安部は11月から偽9番のポジションで先発に定着し、着実にバルサBでの実績を積み上げている。



7試合連続で先発出場するなど、バルサBで実績を積み重ねている安部裕葵

 12月15日、本拠地ヨハン・クライフスタジアム。2部B(実質3部)リーグ第17節のラ・ヌシア戦で、安部は偽9番として躍動している。

 バルサBがボールを持って攻めるなか、前線で周りの選手を生かすような動きをしつつ、次第にボールを呼び込む。中でもMFリキ・プッチとの連係度は高く、体を入れてFKを取り、フリックパスからチャンスを作り出し、あるいはサイドへ流れ、左足でピンポイントクロスを上げて味方のヘディングに合わせた。

 まさに前線のプレーメーカーだった。しかし、偽9番の真価はそのあとだ。

 バルサBはCKから先制された直後、攻撃のテンポを上げる。前半36分、右サイドから何度も崩しかけると、エリア内に入ったアレックス・コジャードが右足でシュートを放つ。これがディフェンダーに当たって、そのこぼれ球だった。

 ペナルティアークで待っていた安部は、右足を振り抜いてゴール左隅に流し込んでいる。落ち着いた判断と高い技術。貴重な同点弾になった。

 そして後半9分にも、安部は偽9番の適性を見せている。カウンターの応酬からプッチがボールを受けた瞬間、安部はディフェンダーの背後を取っていた。足元に呼び込んだパスを、右足アウトサイドでコントロールすると、左足で豪快に一閃。GKの手が届かない、ゴール左上に突き刺した。

 この日の勝利でバルサは5位に浮上している(4位までが昇格プレーオフに進出)。

「安部のゴールで逆転勝利!」

 スペインの大手スポーツ紙『マルカ』は、安部のプレーを絶賛している。0~3の4段階評価で最高の三ツ星をつけた。三ツ星は他にひとりもおらず、マン・オブ・ザ・マッチと言えるだろう。

 安部は第11節のアンドラ戦から7試合連続で先発出場を果たしている。序盤は左右のアタッカーを担当することが多かったが、得点力が足りないチーム事情もあって、偽9番に抜擢されることに。その7試合で4得点し、チーム内での評価を高めた。チャンピオンズリーグ(CL)のインテル戦ではトップ招集も噂されたほどだ。

 順風満帆にも映るが、安穏とはできない。

 たとえばバルサBの中心選手であるプッチは、トップでのプレーを強く要求。果たされない場合は、「移籍も辞さない」という構えを示している。バルサBはあくまでステップアップの場、ずっと居続ける場所ではないのだ。

 バルサBは事実上「U-20バルサ」で、シーズン中もユースから有望な選手が引き上げられてくる。実際、ラ・ヌシア戦ではユース所属のアメリカ人サイドアタッカー、コンラッド・デ・ラ・フエンテが招集され、先発でプレー。トップ昇格できない選手は外に出され、認められた者だけがトップに上がる。17歳のアンス・ファティはすでにトップでプレーし、主力不在のCLインテル戦で決勝点を叩き込むなど、台頭は目覚ましい。

 バルサBは、チーム内の競争が熾烈を極める。約4億円の移籍金で獲得したオランダの新星MFルドヴィト・ライスでさえ、レギュラーを取り切れていないほど。実力だけがものを言う世界だ。

 安部とポジションを争う19歳のFWアベル・ルイスは、2017年U-17W杯ではスペインを決勝に導くなど、十代では欧州屈指のFWと言える。スペインU-21代表であり、昨シーズンの最終節にはトップデビューも飾っている。大柄な体を生かした柔らかいポストプレーが持ち味だ。

 しかし、ラ・ヌシア戦でアベル・ルイスは、終了間際での途中出場にとどまり、試合をクローズする役に回っていた。

 安部はそんな激しいポジション争いをしながら、チームの2部昇格を目指すと同時に、トップ招集をもくろむ。来年1月はまたとない好機となるだろう。スペイン国王杯では例年、主力選手を温存し、バルサBの若手を多く起用しているからだ。

 今年夏に鹿島アントラーズから入団して以来、安部は一歩ずつ前に進んでいる。チームメイトとの距離、トレーニングのリズム、スタジアムの空気。スペインでのプレーに適応しつつある。2部Bは、粗削りだが才能のある若手や、衰えたが経験豊かな1部経験者などの”たまり場”だ。武者修行には格好の場と言える。たとえば日本では無名のラ・ヌシアだが、指揮官はかつてアルバセテを1部に引き上げ、アトレティコ・マドリードを率いたセサール・フェランドである。

 バルサBで結果を残すことによって、安部のバルサデビューは近づくはずだ。