「自分の年齢は自覚しているよ。ひたひたと引退の日は近づいている。それまでフットボールを楽しむことにする」 32歳になるリオネル・メッシは、史上最多6度目となるバロンドールを受賞し、家族や友人たち、ライバルを前にそうコメントした。 メッシ自身…
「自分の年齢は自覚しているよ。ひたひたと引退の日は近づいている。それまでフットボールを楽しむことにする」
32歳になるリオネル・メッシは、史上最多6度目となるバロンドールを受賞し、家族や友人たち、ライバルを前にそうコメントした。
メッシ自身、プレーヤーとして永遠ではないことを悟っている。だからこそ練習に打ち込み、今を大事にしているという。その結果、たとえばFKは精度が著しく向上した。今シーズン、セルタ戦では鮮やかなFKを2本、叩き込んでいる。
「バロンドールは欧州王者のリバプールの選手から選出されるべきだったのでは?」
そうした意見もあるだろう。しかし、リバプールはチームとして栄冠を勝ち取り、それだけにチーム内で票が割れた。ひとりとしてメッシを上回るスペクタクルを見せる選手はいなかった。
2018-19シーズン、メッシはチャンピオンズリーグとリーガ・エスパニョーラの得点王になっている。1試合1点以上の驚異的ペースで、カップ戦も含めると51得点を記録。そして今シーズンも、マジョルカ戦でクリスティアーノ・ロナウドの記録を上回る35度目のハットトリック(うち4回は4ゴール)を記録している。どのシュートも神がかっていた。
アルゼンチンの英雄はすでに伝説だ。では、これからのメッシに求められることとは何なのだろう。
前節はレアル・ソシエダと引き分けたバルセロナのリオネル・メッシ
「ロナウジーニョは恩人だ」
メッシはしばしばそう言う。デビューしたての彼にとって、ロナウジーニョにかわいがってもらえたことは、恵まれていた。ブラジル人スターが寛大だったおかげで、メッシは自由奔放にプレーすることができたのだ。
メッシはロナウジーニョのような役割を果たせるだろうか。
「お前はきっと俺を追い越すだろう。しかし、アンドレス(・イニエスタ)にはやがて追い抜かれるはずさ」
ジョゼップ・グアルディオラはバルサの選手としての晩年、若いシャビ・エルナンデスにそう告げたという。その”予告”どおり、シャビは司令塔としてエースの座についたが、イニエスタよりも先にチームを去っている。
ふたりはライバル関係とも言えるが、殺伐としたものではない。お互いが影響を与え合い、切磋琢磨し、そこで「系譜」が生まれる。
メッシの後を継ぐべき選手は、17歳のアンス・ファティだろう。
10歳の時からラ・マシア(バルセロナの下部組織)で育ったファティは、全身がサッカーセンスのような選手で、難しいプレーを簡単にやってのける。今年7月に契約し、移籍違約金は1億ユーロ(約120億円)に設定された。8月にはクラブ史上2番目の若さでトップデビュー。同月の試合でクラブ史上最年少得点を決めた。そして12月には契約を2022年まで延長し、違約金は1億7000万ユーロ(約200億円)にアップ。チャンピオンズリーグ、グループリーグ最終節では、メッシが不在の状況で、インテルの夢を打ち砕くミドルシュートを蹴り込んだ。
実はファティがデビューした日、メッシは抱擁をかわす写真をSNSにアップしている。アルゼンチン人スターがそうした行動に出ることは珍しい。もともと同じポジションの選手に対しては対抗心が強く、その自負心が彼の力の源泉でもあったのだ。
ファティはメッシの”庇護”を受けられるのか--。メッシがファティをかわいがる裏には、ファティの父親のコンサルタントとして、メッシの兄が契約していることも指摘される。メッシの兄がファティをバックアップするため、弟に助けを頼んでいても不思議はない。そのあたりの事情を揶揄する声も少なくない。
ただ、どんな理由であれ、ファティがメッシのサポートを受けられるなら、それは朗報だろう。
メッシの時代もいつかは幕を下ろす。冒頭のコメントにあるとおり、トップレベルではあと3年程度。バルサの英雄として誰かにバトンを渡す。それもレジェンドとして大きな仕事だ。
「(35歳で迎える)カタールワールドカップは、レオにとってひとつの指標となる。変わらずプレーできるなら、きっと続ける。でもスピードが落ちたら、続けることはない」
元バルセロナのリバウドの言葉である。
一方で、バルサのチームメイトであるセルヒオ・ブスケッツは言う。
「引退というフレーズは、文脈から抜き取ったものだろう。レオはまだまだいける。ピッチに立った時、いつでも試合を決めてのける。レオと一緒にプレーできるのはスペクタクルだよ」
ピッチを去る日が来るまで、メッシはサッカーファンに幸せを与えるだろう。彼のような選手はなかなか出てこない。クリスティアーノ・ロナウドのようなスーパースターと競い合ったこともあるが、シーズン50得点以上など、過去にはなかった数字だ。
12月18日のレアル・マドリード戦で、メッシはまたひとつ伝説を作るだろうか。クラシコでの得点数、メッシは26得点で歴代1位である。