12月13日から行なわれたW杯スピードスケート長野大会。初日の男子500m第1レースには、今季W杯第4戦目にして、世界記録保持者のパベル・クリズニコフ(ロシア)が参戦。そのなかでも、先手を取ったのは日本勢だった。W杯長野大会で日本人選手が…

 12月13日から行なわれたW杯スピードスケート長野大会。初日の男子500m第1レースには、今季W杯第4戦目にして、世界記録保持者のパベル・クリズニコフ(ロシア)が参戦。そのなかでも、先手を取ったのは日本勢だった。



W杯長野大会で日本人選手がワンツーを決めた。1位の村上右磨(中央)と、新濱立也(左)

 クリズニコフが第1組で登場し、リンク記録に迫る記録を出したあと、第5組に出てきたのが村上右磨(高堂建設)だった。昨季は2位1回、3位5回で、今季も第2戦で2位になっている。最初の100mを全選手最速の9秒51で通過すると、そこからの400mも25秒07で滑って34秒58のリンク記録でトップに立った。

 この夏は、弱点である最後の100mを強くするため、持久系の練習にも取り組んできた村上はその成果を今大会で発揮した。

「調子がよかったので、最初の100mは『遅くてもいいかな』という気持ちで滑っても、9秒51でした。コーナーの課題も徐々によくなっている中で、ラスト100mもしっかり氷を捕らえて体重移動ができたかなと思います」

 その記録を上回るかと期待されたのは、第7組の新濱立也(高崎健康福祉大)だった。昨季6勝でW杯総合2位になり、今季も第2戦で優勝している。だが、一度フライングをしてしまったために少し出遅れ、100mは9秒62で通過。それでも後半の強さを見せてラスト400mは25秒06で滑ったが、村上には届かない34秒67だった。

 そして、その後も今季1勝で世界ランキング1位のビクトル・ムシュタコフ(ロシア)や、今季1勝のキム・ジュンホ(韓国)は記録を伸ばせず、村上の初優勝と新濱の2位が決まった。

「村上さんのタイムがリンクレコードだと聞いて、34秒60以上を出さなければ勝てないのは、わかっていました。でも2回目のフライングをすると失格になるので、それも頭をよって少し出遅れてしまって。いつもより加速しなければいけないとバタついてしまい、100mからの加速もうまくいかなかった。最後100mで追い込んでいけるかなと思いましたが、最初のところで脚を使ってしまったので、いつもより追い込み切れなかったです」

 一方、村上は「2位や3位は何回も取ったことはありましたが、1位はなかったので本当にうれしかったです。今日は絶対に初優勝をしたい、という気持ちで挑めたのがよかったと思う」と言い、こう続けた。

「タイムは正直、新濱選手やクリズニコフ選手が万全であれば35秒4くらいはいくと思うので、2人がまだ本調子じゃないという状況かなとも思います。ただ、自分のベストレースかと言われれば、まだ細かい修正点はある。来年2月の世界距離別選手権へ向けて、発展段階だし、まだまだこれからという気持ちです」

 翌日の第2レースでは、ロシア勢の巻き返しに屈する結果となった。第2組で滑ったクリズニコフが、100m通過は、前日より0秒08遅い9秒76で通過しながら、そこからの強さを存分に発揮して24秒76のラップタイムで滑り、村上が前日に出したリンクレコードを0秒06塗り替える34秒52を出してきた。そして、第8組ではムシュタコフがそれをさらに上回る34秒50を出す、ハイレベルな戦いになった。

 最終の第10組で、村上がインレーンで新濱がアウトレーンでともに滑ったが、村上は前日と同じ9秒51で100mを通過。

「(ロシア勢)ふたりのタイムを見て34秒4台で滑ってやろうと思ってスタートラインに立ち、最初のコーナーの入りは攻めたし、第2カーブもうまく加速できたと思います。でも最後の100mがバラバラになってしまったのが敗因。最初のカーブのタイムは少し上がったけど、最後の100mはだいぶ遅くなった感じです」と、前日の記録を上回る34秒54で滑りながらも、3位だった。

 また、新濱も「ロシアのふたりのタイムを超えなければいけない、というのが頭にありましたが、村上さんも最初の100mがすごく速い選手なので、どうしてもそれにくらいついて行かないといけないというところで焦ってしまい、そのあとのコーナーの入りで失敗してしまいました。その割に慌てずいけたので、昨日よりラスト100mでは持ち味の追い込みができて、あのタイムに持っていけたのだと思います」と、34秒57で4位に食い込んだ。

 新濱が「村上との同走で焦りが出た」というように、村上も新濱との同走は「けっこうプレッシャーがかかるので、本当は嫌なんです」と苦笑する。この組み合わせになったのも、この敗戦に若干影響しているのだろう。ともに前日は500mのあとにチームスプリントも滑っていて、その疲労もあった。そんな状態の中でも、従来のリンク記録より速く滑れたということは、敗れたとはいえ力のあることを証明するものだ。

 27歳になったばかりの村上は、W杯フル参戦は3シーズン前からと遅咲きの選手。「今日は50mから100mにかけては昨日より伸ばせたと思いますが、第2カーブの入りをもう少しきれいにすれば、もっとタイムを伸ばせたかなと思う。それができなかったのが、ムシュタコフ選手に届かなかった要因」とこの大会で課題は明確になった。

 また、世界歴代2位の33秒79を持つ新濱も「今季は2月の世界距離別選手権に照準を合わせているので、ここはあくまでも通過点。課題のコーナーに関しても10月より手ごたえを感じているし、少しずつ成長している。あとはメンタルの問題なので、練習の時から常にレースをイメージしていくことが大切だと思う」と話す。

 W杯ランキングは、ともに第3戦を欠場しながらも、新濱が2位で村上が4位という状況。世界との勝負はこれからしばらくないが、2月のW杯第6戦で再開され、そのあとの世界距離別選手権、スプリントとオールラウンドが同時開催になった世界選手権、W杯ファイナルへと続く。そこでのロシア勢との対決を制するためにも、12月26日からの全日本選手権をしっかり滑り切り、次へ向かって準備していく段階に入る。