近年、聞く機会も増えてきた「フレーミング技術」について、今だから言える審判目線の本音を書こうと思う。はじめに断っておくが、12年間プロ野球で審判をした私自身が感じたことであり、全ての審判員が同じように感じているわけではないと思う。では単刀…
近年、聞く機会も増えてきた「フレーミング技術」について、今だから言える審判目線の本音を書こうと思う。
はじめに断っておくが、12年間プロ野球で審判をした私自身が感じたことであり、全ての審判員が同じように感じているわけではないと思う。
では単刀直入にいうと「フレーミング技術」というのはやれば明らかにストライクゾーンは狭くなってしまう。
なぜなら審判員は、体やミットを動かす行為に関してはほぼ全てわかるのだ。審判員も人間なので際どい投球を動かされると「このキャッチャーはボールと思ってるな」となる。
すると、例えストライクの投球であってもボールの印象が強くなり、ストライクゾーンが狭くなるのだ。
人間は自信があれば堂々としているもの。つまりいくら際どくても自信をもってストライクだとキャッチャーが感じていれば、「ピタッ!」とミットを止めておくだけでいいのだ。自信があってもミットや体を動かしたのがわかれば、「ボールと思っているからストライクに見えるように動かした」「こいつは騙そうとしている」と思われ、ボールと判定されても仕方ないのだ。
では私自身が見やすい、またはストライクゾーンを広げられたなと思う捕手を紹介しよう。
ダントツで見やすく、かつストライクゾーンを広げられたと思うのは「元中日の谷繁氏」である。
谷繁氏は審判員がストライクと判定するゾーンと、谷繁氏のストライクと認識しているゾーンの狂いがほぼ無いのだ。
際どくてもボールだと思えば、「ボールですよ」と知らせてくれるように諦めて捕る。谷繁氏は無理にストライクに見せようとしないのだ。
逆にストライクの自信がある際どい投球に関してはきっちり止めて見せてくれる。とてもやりやすい選手だ。
さらに、谷繁氏のすごいところはここから。本人に確認したことが無いので絶対だとの補償はないが、イニング後半や、本当に大切な場面でボール4分の1個くらいストライクゾーンを広くしてミットを止めるのだ。審判員も人間なので、きっちりミットを止めて審判員が見やすいようにしていた選手が急に4分の1個広げてミットを止められると、「ストライクなのでは?」と疑心暗鬼になりストライクと思わずコールしてしまうのだ。
もちろん頻繁に使うと審判員との信頼はなくなり、「こいつ騙しているな」となるのだが、ここぞの時のみ使われると、逆にこっちが間違っているのではと錯覚を起こす時がある。それでストライクゾーンが広くなってしまうことがあるのだ。
動作で広げたり、1球ごとにキャッチングを変えるのではなく、1試合を通して審判をいい意味で利用するプロフェッショナルなキャッチングであった。
まったく隠すことなくどうぞ見てください、と見せてくれる親切なキャッチャーなのだ。
データなどでは出せない、プロ野球の楽しみ方や、プロフェッショナルな技術を今後も紹介していこう。
しかし文章が長くなったので2位以降の選手の話は次回に書くことにする。
文:元プロ野球審判 坂井遼太郎