テニスの大会中のガットの張り替えには、多くの選手が1本最高20ドル(約2170円)ないし20ユーロ(約2415円)という低料金で利用できる、大会会場のガット張り職人を活用している。ほとんどの選…

テニスの大会中のガットの張り替えには、多くの選手が1本最高20ドル(約2170円)ないし20ユーロ(約2415円)という低料金で利用できる、大会会場のガット張り職人を活用している。ほとんどの選手にとってこのサービスは十分満足のいくものだが、一部の選手はどんなことでも運に任せるのを避け、いつも同じ調子のガット張りを好む。ロジャー・フェデラー(スイス)もその1人だと、ウェブメディアPerfect Tennisが伝えている。

このように一貫性を求める選手がいることで、専属ガット張りという隙間市場が生まれた。中でも最も有名な会社はプライオリティ・ワンだろう。フロリダに拠点を置くこの会社は、フェデラー、ピート・サンプラス(アメリカ)、スタン・ワウリンカ(スイス)、アンディ・マレー(イギリス)、ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)らをはじめとするトップ選手たちに長年サービスを提供してきた。

フェデラーの専属ガット張り職人ロン・ユー

過去15年間、プライオリティ・ワンのガット張り職人ロン・ユーが、フェデラーのガットを自ら張り続けてきた。ナチュラルガットとルキシロンのアルパワーラフを組み合わせて、試合のたびに9本のラケットに張る。これらは全て、フェデラーが希望する張力に調整され、白いオーバーグリップテープ、ウィルソンのステンシルマーク、ストリングセーバー、パワーパッドを付けて仕上げられる。

フェデラーはガット張りにいくら支払っているのか?

この特注サービスにフェデラーはいくら支払っているのか。「ATP500 バーゼル」期間中に、スイスのテレビ局SRFがユーにインタビューを行い、フェデラーが利用しているサービスは年間4万ドル(約434万円)であることが明らかになった。この料金で、フェデラーは出場する4つのグランドスラム、マスターズ1000大会、ドバイ、ハレ、バーゼルなどいくつかのATP 500大会でサービスを受けることができるという。

2019年にフェデラーが出場した17大会すべてでプライオリティ・ワンがガット張りをしていたと仮定すると(「レーバー・カップ」には対応していないと思うが)、1大会あたり2,350ドル(約25万5,000円)かかった計算になる。賞金に占める割合で考えると、フェデラーは2019年に871万6,975ドル(約9億4,666万円)の賞金を獲得したので、コート上での収入の0.5%をガット張りに使ったことになる。

プライオリティ・ワンのサービスの一貫性や質は、フェデラーの試合に0.5%以上貢献しただろうか。多分、したと言っていいだろう。選手にガットの重要性をパーセンテージで表してもらうとすれば、誰もがこれよりもずっと大きな数字を答えるだろう。となると、プライオリティ・ワンの職人たちはもっと料金を上げるべきだろうか。

見出しを飾るには小さな数字だが、彼らは市場を熟知しており、この種のサービスは値段を付けづらいものなのだ。専属ガット張り職人を使う選手と、専属契約をやめて大会会場の職人を使うようになる選手の間には、紙一重の差しかない。

また、2019年シーズンの獲得賞金額がトップクラスのフェデラーは、あまりいい例ではないだろう。同じ会社の他の顧客、例えばジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)は賞金の3.7%をガット張りに費やし、ラオニッチは3.1%を費やした。この2人は共に平均を大きく上回る100万ドル以上の賞金を獲得しているが、フェデラーの0.5%より少しは現実的な数字と言えるだろう。

また、このパッケージに含まれておらず別請求となるサービスが何なのかはわからない。優勝したら、ボーナスが出たりするものなのか。あるいはハレのようにフェデラー以外誰もプライオリティ・ワンの顧客が出場しない大会では、ガット張り職人らの旅費や宿泊費もフェデラーが支払うのだろうか。

こうしたことを踏まえて、専属ガット張りのビジネスに参入したいと思うか?私ならやめておく。ガット張りは指に負担がかかるし、同じことを繰り返す大変な仕事だ。また、時間と引き換えに報酬をもらうことになるので、価値も測りづらい。つまりガット張り機から離れた瞬間、稼ぎがなくなるのだ。

選手10人を相手に年間40万ドルを稼ぎ、そこから1年間の旅費全てを支払うと考えても、悪くはない。しかし、年間200日を旅の空で過ごさなければならないうえ、税金を差し引けば決して特別裕福になれる仕事ではない。とは言え、折に触れて特典があるのも事実だろう。なんといっても、フェデラーの関係者席に座ることができるのだから。

※為替レートは2019年12月12日現在

(テニスデイリー編集部)

※写真は2018年「全米オープン」でガットを見つめるフェデラー

(Photo by Cynthia Lum/Icon Sportswire via Getty Images)