日本男子ツアーの最終戦、日本シリーズJTカップ(東京都)を制したのは、石川遼(28歳)だった。賞金王の可能性こそ、前週の時点でなくなっていたものの、シーズン3勝は今季ツアー最多で、生涯獲得賞金は10億円を突破した。今季3勝目を挙げて、完全…

 日本男子ツアーの最終戦、日本シリーズJTカップ(東京都)を制したのは、石川遼(28歳)だった。賞金王の可能性こそ、前週の時点でなくなっていたものの、シーズン3勝は今季ツアー最多で、生涯獲得賞金は10億円を突破した。



今季3勝目を挙げて、完全復活を匂わせた石川遼

 首位と2打差の5位タイからスタートした最終日は、7バーディー、3ボギーの「66」でフィニッシュした。名物ホールとなる18番ショートホールをパーでしのげば優勝という状況にあったが、5番アイアンで放ったティーショットを右のラフに外し、そこからのアプローチを2mに寄せながら、パーパットを決め切れなかった。

 勝負は、ブラッド・ケネディとのプレーオフに持ち込まれた。

「最終戦ということもあって、(賞金ランキング1位の今平)周吾や、(同2位のショーン・)ノリスと優勝争いができていることが、純粋に楽しかった。72ホール目の18番で右に外した時点で、プレーオフは覚悟していました」

 勝負がつくまで、18番ホールで繰り返し行なわれるプレーオフは、パーをセーブし続けた両者が譲らずに3ホール目までもつれた。1ホール目も、2ホール目も、石川のティーショットは、本選の時と同様、右に流れ、寒さのせいか、いずれもショートした。

「プレーオフが決まって、同じホール、同じクラブ、同じ風の向きですから、必ずリベンジしようと思った。1ホール目(のティーショット)はいい感触で、ショットがピンを刺したと思ったんですけど、太陽(が逆光)でまったく(着弾点が)見えなかったんです。(キャディーに)訊くと、『右のバンカー』と言われて(苦笑)。そして、2ホール目も右に外して。身体が硬かったり、緊張もあったのかもしれない」

 3ホール目から、ピンがグリーン奥に切られた。これが、流れを変えた。

 クラブを4番アイアンに持ち替えた石川の、”3度目の正直”ティーショットは、ピン手前2.5mという絶好の位置につけた。ケネディが長いバーディーパットをショートしたあと、石川はこのバーディーパットを真ん中からねじ込んで、優勝を決めた。

「正直、『必ず勝てる』と思ってプレーはしていなくて、『チャンスはある』と自分に言い聞かせていた一日でした。勝てたことが、いまだに信じられない」

 今年の3月末、ゴルフ雑誌で石川のロングインタビューをする機会があった。米ツアーから撤退し、日本ツアーに復帰して2年目のシーズンとなる石川は、自身が置かれた状況を「どん底」と表現し、驚いたものだ。

「正直、自分の中では、今がどん底というか、非常に悪い状態というか、世界一が遠いというか……」

 この時は詳細を口にしなかったが、持病の腰痛がかなり悪化していたのだろう。石川は、話を聞いた直後に開催された国内ツアー開幕戦、東建ホームメイトカップの出場を回避。さらに、5月の中日クラウンズでは2日目に棄権し、それから約1カ月、戦列を離れた。

 日本ツアーに戻ってきてからも、石川が掲げる目標は「世界一のゴルファー」であることに変わりはない。目指すべきゴルフ人生を、石川はエベレスト登山に喩えていた。

「富士山に一度は登った経験のある僕が、エベレストに挑戦したんだけど、富士山に登った装備でチャレンジしてしまって、余りにも装備が足りなくて、叩きのめされた」

 そこで、一度下山し、再び富士山の頂を目指して歩み出したのが、「今の自分」だと話していた。

 そんな石川が、休養から復帰後、国内メジャーの日本プロ選手権(7月)で歓喜と涙の雄叫びをあげた。2016年8月のRIZAP KBCオーガスタ以来、3年ぶりの優勝となる復活劇だった。その後、8月には長嶋茂雄INVITATIONALセガサミーカップで今季2勝目を挙げた。

 しかし、完全復活とまではいかなかった。日本開催のPGAツアー、ZOZO CHAMPIONSHIP(10月)で51位タイに沈むと、ドライバーの不調に苦しみ、11月前半は2試合連続の予選落ちを喫した。

 まさしく山あり谷ありの2019年シーズンを送ってきたが、最後を優勝で締めくくるのは、なんとも石川らしい。

 日本シリーズJTカップの優勝会見では、 再び自身が現在取り組んでいるゴルフを、エベレスト登山になぞらえて話した。

「エベレストに登るためには、必要なものがある。他の山に登る時には必要がなくても、世界一の山を登る時に必要になるものがある。今は、そういったものを調達したり、身につけたりして、新しい技術的な登り方を試している段階。『行ける!』と思ってジャンプしたら、40mぐらい滑落するようなこともあると思うし、ケガせずに登り切るということはない。

 今年はケガから始まったシーズンで、全試合完璧な体調だったか、というと違う。やはり、無傷で山を登り切ることはできないのだろうな、と思う。それでも、(エレベストに登る=世界一になるために)必要なものを調べたり、身につけたり--(今の自分は)そういうことをしている状態にあると思います」

 現在の石川が、とりわけ試行錯誤を繰り返しているのは、ドライバーとアイアンの精度の向上だ。

「ドライバーとアイアンの兼ね合いというか……。世界では、ドライバーがいいだけでも、アイアンがいいだけでも、勝てない。自分の場合は、ドライバーがよくて、(同時に)アイアンもいい状態が4日間続く、ということが最低限必要なこと。そこに向けて、レベルアップしていかないと。理想のスイングは”生きる伝説”であるタイガー(・ウッズ)。一番強かった2000年〜2002年頃のスイングです」

 幼少期より抱く「海外メジャー制覇」の夢は、2019年の締めくくりには口にしなかった。その代わりに、具体的な目標として「東京五輪出場」を掲げた。

 そのためには、世界ランキングにおいて、今季賞金王に輝き、同ランク32位(12月9日現在。以下同)の今平周吾を、少なくとも逆転しなければならない。日本シリーズJTカップ制覇によって、石川の世界ランキングは今平に次ぐ日本人3番手の82位となった。

「(今回の優勝で)首の皮一枚つながった。1月のSMBCシンガポールオープンから(代表が決定する)6月まで、日本のツアーであれ、どこのツアーであれ、出場する試合すべてで優勝を目指します」

 石川が復活を遂げたシーズンは終わった。再び世界へと飛躍すべく2020年シーズンは、すぐに始まる。