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 横浜F・マリノスの優勝で幕を閉じた2019年Jリーグ。8日、Jリーグアウォーズで各賞が発表され、注目の最優秀選手賞(MVP)には仲川輝人(横浜FM)が輝いた。

 仲川は得点王(マルコス・ジュニオール/横浜FMと同点)にも輝いているので、ダブル受賞を果たしたことになる。ゴール前で構えるストライカー系ではなく、右ウイング(しかも通常、右に大きく張り出した位置で構えている)が得点王に輝いたことには、大きな意味がある。

 シュートはウイングの定位置からは狙えない。得点の確率は真ん中に寄るほど上昇する。しかし仲川は多くの時間、定位置を守っている。右ウイングのポジションを可能な限り維持しながら、機を見て中央に進出する。なによりそのタイミングとバランス感覚が秀逸だった。これは簡単にできることではない。貴重なセンスを仲川は備えている。

 当然のことながら、彼はベスト11にも選ばれている。日本代表にこれまで一度も選ばれたことがない選手が、ここまで脚光を浴びたことはあっただろうか。森保一監督は、10日から始まるE-1選手権の代表メンバーに仲川をようやく招集。「Jリーグで活躍すればその先には日本代表がある。国を背負って戦うことを経験する場があることを知ってもらいたい」とは森保監督の言葉だが、呼ぶのが遅いというのが率直な印象だ。

 それはともかく、優勝した横浜FMについて言及しようとすると、まず一番にくるのはその得点力であり、そのベースとなる攻撃的サッカーだ。仲川がその中心にいたことはまぎれもない事実。日本に数少ない貴重な右ウイングとして、その価値を認めないわけにはいかない。

 だが、そこばかりをクローズアップすると、このチームの他の魅力を語る場が奪われてしまう。



横浜F・マリノスの優勝に貢献したセンターバックのチアゴ・マルチンス

 同じくベスト11に選ばれた日本人選手、喜田拓也も忘れてはいけない存在だ。中盤の底として1シーズン34試合中33試合でスタメンを飾ったキープレーヤーだ。看板の攻撃的サッカーとは、ともすると関係の薄い存在に見える。しかし、170cmの小兵の動きはいかにもしぶとく、ボール奪取はもちろん、攻撃のリズム出しに強く関与していた。喜田を経由することでテンポが上昇。攻撃陣は一気に活気づくのだった。

 仲川とともに得点王に輝いたマルコス・ジュニオール、夏場からチームに加わったCF エリキ、左ウイングのマテウス。そして前半戦16試合の出場で11ゴールを奪い、チームがシーズン開幕当初から好位置をキープする原動力となったエジガル・ジュニオの存在も見逃すことはできない。アタッカーとしてチームを牽引したのは仲川だけではない。

 外国人の活躍についての言及は、とかく疎かになりがちだ。日本のサッカー報道が代表チームに寄りすぎる傾向があるからだ。今回発表されたベスト11にしても、外国人選手は4人だけ。個人的には7、8人選ばれてもおかしくないと思っている。

 そのベスト11に、横浜FM(4人)とFC東京(6人)以外から選ばれた選手はアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)だけ。その内訳は優勝争いに絡んだチームの選手に大きく偏っていることがわかる。チームとしての成績はともかく、個人として活躍した選手、とりわけ外国人の実力派は蚊帳の外に置かれている。

 活躍した選手とは? 

 解釈には様々な視点があるはずだ。最優秀選手賞しかり。何をもって最優秀とするのか。優勝した横浜FMで最も活躍が「目立った」選手はと言えば、仲川になるのかもしれない。横浜FMの攻撃的サッカーを支えた元気者を支持する人が多くを占めるのは自然なことだ。しかし、喜田のところでも触れたように、攻撃的サッカーはアタッカーだけで成立するものではない。

 優勝を懸けて争った最終節のFC東京戦。横浜FMの戦いぶりで最も目を引いたのは、GK朴一圭(パク・イルギュ)が退場になり、10人となった後のその最終ラインだった。一般的なチームであれば、その最終ラインは通常より低めに設定する。GKが朴(この選手もベスト11級だ)からJ1での経験が浅い中林洋次に交代し、またこれ以上、得点を必要としない状況にあるとなればなおさらである。

 しかし、アンジェ・ポステコグルー率いる横浜FMはそうしなかった。思い切り高い位置を維持しようとした。11人で戦っていた時以上と言いたくなるぐらいだ。もちろん、FC東京との比較でも上回っていた。

 攻撃的サッカーの真髄は、むしろそこに潜んでいた。主役はセンターバック(CB)の2人。畠中槙之輔とチアゴ・マルチンスになる。日本代表中心主義に基づけば、このところ代表に呼ばれ続けている畠中にまず目は向く。確かに彼は、この1年で急成長した。しかし、それは脇にチアゴ・マルチンスが構えていたからではないだろうか。それぐらい、このブラジル人CBは優秀だった。

 185cm76kg。ハードなストッパータイプではない。独特のステップワークと、滑らかな素早い動きで、敵の背後への進入を防ぐ、技と頭脳でボールを奪う知性に富むCBだ。ブラジル代表歴はないとのことだが、チャンピオンズリーグの上位クラブからいつ誘われても不思議はない、文字どおりの実力派である。

 もし彼がいなかったら、横浜FMは攻撃的サッカーに没頭できただろうか。自慢のアタッカー陣は活躍できただろうか。チームから最も欠けてほしくない選手は誰かという視点で最優秀選手を選ぶとすれば、仲川ではなくこのチアゴ・マルチンスになる。横浜FMは今季、失点が38あるが、このブラジル人CBがいなければ、失点の数は大幅に増えていたに違いない。おのずと、その攻撃的サッカーは粗野なものになっていたはずで、優勝争いさえ難しかったのではないかと推測される。

 イニエスタはともかく、知名度が低い実力派の外国人選手をないがしろにすべきではない。そんな意味も含めて、筆者はあえてチアゴ・マルチンスを最優秀選手に推すことにしたい。