横浜F・マリノスのラストスパートは、最後まで息切れすることなく、むしろ加速する一方だった。 1週間前のJ1第33節では…
横浜F・マリノスのラストスパートは、最後まで息切れすることなく、むしろ加速する一方だった。
1週間前のJ1第33節では、昨季王者の川崎フロンターレを4-1で葬り、今季最終戦となった第34節では、優勝争いのライバル、FC東京を3-0と蹴散らした。首位に立ったプレッシャーも感じさせず、難敵を立て続けに圧倒しての逆転優勝である。
優勝の可能性を残す2チームが雌雄を決する試合となったFC東京戦は、横浜FMの強さばかりが際立った。
試合序盤は、FC東京が前線からのプレスを生かして攻勢に出た。だが、横浜FMはその圧力に屈することなく、あくまでも奪ったボールを短くつないで、前へ運ぶことにこだわった。GK朴一圭(パク・イルギュ)や、センターバックコンビのDF畠中槙之輔、チアゴ・マルチンスさえも、ボールを前へつなぐことを優先に、リスクを承知でパスコースを作るためのポジションを取るなど、狙いはピッチ上の全員に徹底されていた。チアゴ・マルチンスが振り返る。
「今日も、何も変えず、しっかりと攻撃しようと思った。相手のプレッシャーはあったが、それを回避して前に(ボールを)つなげようとした」
すると試合は、徐々に横浜FMがボールを保持し、FC東京陣内で連続攻撃を続ける時間が長くなった。たしかにDFティーラトンの先制ゴールは、FC東京から見れば、「少しアンラッキーな部分があった」(FC東京・長谷川健太監督)。序盤のチャンスを生かしていれば、試合は異なる展開になっていた可能性もなくはない。とはいえ、90分全体の試合内容に照らせば、結果は妥当なものだろう。
横浜FMが優勝にふさわしいチームであることを、あらためて証明した一戦だったと言える。
極端にボールポゼッションを重視した横浜FMのスタイルは、昨季からすでに注目を集めていた。
しかし、極端なスタイルは相手チームにとっても対策しやすく、横浜FMの昨季順位は12位。リーグ2位タイの総得点56を叩き出しながら、総失点もリーグワースト3位の56と多く、せっかくの得点力を勝利に結びつけることができなかった。
今季からキャプテンを務めるMF喜田拓也も、昨季途中、「難しいことにチャレンジしている覚悟は持ってやっている」としつつ、「結果が出ていないと、説得力が増さない」と苦しい胸の内を明かしている。
ところが今季は、総得点では昨季から10点以上も上乗せし、リーグトップの68点を積み上げた一方で、総失点は38と昨季から20点近く減らしている。
とくに10勝1分けという怒涛のラストスパートを見せた最後の11試合では、総得点31という数字もさることながら、総失点を8まで減らしている。1試合平均に換算すると、それ以前の23試合がおよそ1.3失点であるのに対し、最後の11試合はおよそ0.7失点。ほぼ半減しているのがわかる。
では、なぜ横浜FMは、これほど大幅に失点を減らすことができたのか。
最大の要因は、攻撃時のバランスがよくなったことだろう。畠中は「去年はあまり試合に出ていないので、(去年と)比べるのは難しいが」としたうえで、こう語る。
「(攻撃時の味方同士の)距離感が近くなって、(ボールを)取られてもすぐにプレスをかけて奪い返すことができていた」
横浜FMでは、高い位置を取るDFラインの背後をカバーするため、あるいは、攻撃のビルドアップに加わるため、GKもペナルティーエリアの外まで出てプレーすることが求められる。だが、昨季はそのポジショニングがあだとなり、中盤でボールを失った瞬間、がら空きになったゴールめがけて、ロングシュートを狙われるシーンが多かった。
中盤でのボールの失い方が悪く、すぐに守備に切り替えてプレスをかけることができなかったからである。
しかし今季は、攻撃時のポジショニングがよくなったことで、効果的なパスがつながるようになったばかりか、それが、結果的に守備力を高めることにもつながった。チアゴ・マルチンスは言う。
「後ろの選手は、前の選手がいい形で攻撃に移れるように協力するし、ディフェンスも前の選手からのプレスで始まる。DFラインを高く上げ、コンパクトにすれば、(攻守両面で)全員が長い距離を走らなくて済む」
しかも、その練度は試合を重ねるごとに高まり、シーズン終盤では攻守に相手を圧倒する試合を続けた。チアゴ・マルチンスが誇らしげに続ける。
「日々の練習から、全員が努力を惜しまず走って作り上げてきたやり方が、試合に表れている」
いわば、その集大成が、最後の”優勝決定戦”だったに違いない。横浜FMは試合終盤、退場者を出し、ひとり少ない状況になったにもかかわらず、依然としてボールを保持して押し込む時間を作ることができていた。畠中が笑顔で語る。
「シーズンの最後に、優勝争いをしているチームを相手に、完封勝利できたのはうれしかった」
畠中が「(アンジェ・ポステコグルー)監督はブレないので、相手や時間帯でサッカーを変えない」と話すように、横浜FMの優勝の最大要因は、目指すスタイルがかなり特異なものでありながら、それをチーム全員で確立できたことにある。相手がどんなに対策を施してこようとも、自分たちのサッカーができれば、勝てる。そんな信念に基づいたチーム作りが実を結んだわけである。
とはいえ、15シーズンぶりのJ1制覇を語るとき、その要因となった失点減において、やはりふたりの選手の存在を特筆しないわけにはいかない。
GKの朴一圭と、センターバックのチアゴ・マルチンスである。

永井謙佑(左)の突破を阻止する朴一圭
前述したように、選手同士の距離を縮め、コンパクトな状態で攻守を繰り返す横浜FMのスタイルは、必然、DFラインの背後に広大なスペースを生み出す。いわば、特異なスタイルゆえの副作用である。
もちろん、そのスペースを相手に使われ、カウンターを受けるようなボールの失い方をしない、というのが、大前提ではある。
だが、人間のやることに絶対はない。試合のなかでは、少なからず背後のスペースを突かれるケースが生まれてくる。そのときに力を発揮したのが、今季新加入の朴一圭と、昨季途中に加入したチアゴ・マルチンスだったのだ。
朴一圭は、攻撃時のビルドアップに加わるのはもちろんのこと、守備に切り替わった瞬間には、自身の周囲に広がるスペースを狙った相手のパスを瞬時に察知して、的確に落下点に入り、ボールを処理。最後のFC東京戦でも、FW永井謙佑のスピードを生かすべく、DFラインの背後に入ってくる相手のロングパスを、素早い出足でことごとくカットした。
ペナルティーエリア外のファールで、退場処分を受ける結果にはなったが、本人も「自画自賛できる」と振り返るほど、スペースカバーは完璧だった。
また、チアゴ・マルチンスにしても、スピードある走力を生かし、DFラインの背後を広範囲にカバー。たとえスルーパスを通され、相手選手に一度は抜け出されたとしても、俊足の背番号13がボールを追い、力強く体を寄せ、簡単にはゴールを許さなかった。
チアゴ・マルチンス自身は、「個人的にも努力はしているが、ひとりではなく、チームメイトと一緒にいい仕事ができている」と謙虚に語るが、彼の”個”が際立つシーンは、シーズンを通して少なくなかった。
Jリーグ全体を見渡しても、これほど出足がよく、キックも正確なGKや、スピードに優れたセンターバックは、ほとんど見当たらない。その意味では、彼らは代えの利かない存在であり、横浜FMがスキのないチームになるため、そして、このスタイルを貫いて優勝するためには、欠かすことのできないピースだったのだ。
第21節からの3連敗で、一時は首位と勝ち点9差の5位にまで順位を落としながら、終わってみれば、2位に勝ち点6差をつける堂々のJ1制覇。自分たちのサッカーと、それを実現するためのピースがすべてそろった今、横浜FMは怖いくらいに強かった。