2018年2月。ヤクルトの高津臣吾二軍監督(当時)に、年齢の近い3人の高卒ピッチャーたちの将来について聞いたことが…

 2018年2月。ヤクルトの高津臣吾二軍監督(当時)に、年齢の近い3人の高卒ピッチャーたちの将来について聞いたことがある。その時、高津監督はこんなことを言っていた。

「年間を通して一軍で投げるという、みなさんの期待に応えられるのは東京オリンピック以降という感じです」

 その3人とは、高橋奎二(2015年ドラフト3位/22歳)、寺島成輝(2016年ドラフト1位/21歳)、梅野雄吾(2016年ドラフト3位/20歳)である。



来季よりヤクルトの指揮を執る高津臣吾新監督

 当時、3人とも一軍では未勝利で、その年の1月にはアメリカ・アリゾナ州のトレーニング施設に自主トレという形で派遣され、大きな飛躍を期待されていた。

「東京オリンピック以降と言いましたが、この3人とキャッチャーの古賀(優大/2016年ドラフト5位/21歳)のバッテリーで、ヤクルトを長く支えていってほしいと思っています。なにより3人のバランス構成がいいですよね。左腕がいて、パワーピッチャーもいる。チームとして本当に貴重な戦力です。

 もちろん、今後も新しい選手は入ってきますし、チームがどう変わっていくのかはわかりません。ただ、彼らが何年後かに投手陣の中心メンバーに入っていないと、スワローズの投手陣は苦しい時期が続くのかなと。それくらい期待させられる素材ですし、そうなることを楽しみにしています」

 高津監督は、こうも言っていた。

「全員、まだまだ育成段階です。松坂大輔やマー君(田中将大)は例外で、彼らはその世代のナンバーワンで、スーパースターでした。高卒投手は、順序よく段階を踏んで成長していくことが大事だと思っています。時間はかかりますけど、それが18~19歳の選手の育成だと考えています。そこが大学や社会人からプロに入ってくる選手と違うところで、我々も育成する選手への時間のかけ方や、練習内容を勉強しないといけません。指導者として、彼らと一緒に成長していけたらいいですよね」

 そして3人の育成プランについては、このように話してくれた。

「高橋は球速もありますが、真っすぐや変化球のキレで勝負できる投手だと感じています。ただ、プロに入ってからの2年はケガが続いています。年間25から30試合に先発し、180イニングを目標にしているのであれば、まずは投げるスタミナをつけることです。(龍谷大)平安という厳しい高校で練習してきたのですが、ちょっと甘ちゃんなところがあって、精神的な部分も含めて体力強化がおもな練習内容になっていくのかなと思っています」

 梅野についてはこうだ。

「人にないものを持っていますよね。スピードがあって、強いボールが投げられる。変化球やコントロールも必要ですが、今は球の力を伸ばすことを最優先すべきかなと」

 ブルペンで投げる梅野に、高津監督がかけた言葉が強く印象に残っている。

「その体の使い方ができて、なんで150キロしか出ないのか……。オレがお前だったら、160キロは出せる(笑)」

 寺島に関しては、「ドラフト1位の左投手なので大きく育ってほしいという期待はありますが……」と言って、こう続けた。

「去年(2017年)の春のキャンプでつまずいてしまい、それがすごく尾を引いた1年でしたね。結果的に夏から投げられるようになったのですが、それを考えるとやっとスタートラインに立ったという感じです。とはいえ、ひとつのシーズンを終えましたし、ウインターリーグ(台湾)、アリゾナの自主トレにも派遣しました。ちょっとずつ成長してほしいですが、育成にはまだまだ時間が必要だと感じています」

 この取材から、2シーズンが過ぎた。3人の一軍での成績を眺めれば、少しずつ階段を上がっているのは明らかだ。

高橋奎二

2018年 3試合(15回)/1勝1敗/防御率3.00/20奪三振

2019年 20試合(95.1回)/4勝6敗/防御率5.76/99奪三振

寺島成輝

2018年 1試合(2回)/0勝1敗/防御率27.00/奪三振2

2019年 3試合(4回)/0勝0敗/防御率2.25/奪三振0

梅野雄吾

2018年 29試合(26.2回)/3勝2敗/防御率7.09/奪三振25

2019年 68試合(67.2回)/2勝3敗4セーブ/防御率3.72/奪三振77

 2019年10月1日、ヤクルトは高津臣吾の一軍監督就任を発表した。11月の愛媛・松山秋季キャンプで、あらためて3人について話を聞いた。

「高橋と寺島は先発の中心に、梅野はリリーフの中心になってほしいですよね。そうなれば、現状の投手陣を考えれば、少なくともいい状態になるのは間違いありません。ただ、来年の東京オリンピックを区切りにするのは、ちょっとまだ厳しいかなと思っています」

 彼らに寄せる期待の大きさは変わらない。

「今回、梅野を久しぶりに見たのですが、160キロを出す可能性が近づいているなと。彼にはスピードと強さを追求してほしいですし、もっと真っすぐで勝負できるピッチャーになってほしいと思います。それは速い真っすぐを投げられる投手が追い求めていくことでしょうし、5年後、そして30歳になった時も継続できるか……ですね。それが梅野に対する僕の思いで、そこはブレないところです」

 高橋については、「育成計画どおりというか、この2年間、大きなケガをせずにできました。去年は二軍、今年は一軍で100イニング近く投げられることができた。いいペースできていると思います」と満足そうな表情を見せた。

「それに高橋は、投手として大事なカッと熱くなる一面を持っている。まあ、性格は相変わらず甘ちゃんですけど、甘え上手というか、母性本能をくすぐられるタイプなので(苦笑)。でも、全然悪い子じゃないですし、一生懸命練習するし、礼儀もしっかりできています」

 暗中模索の状態が続いている寺島には、「僕たちが期待しているところはすごく高いんです」と話した。

「力を発揮できずにいますよね。いい時の状態を継続できていないというか、ムラが出てしまう。このままではいけないというのは、本人もわかっているはずです。ただ、成長の速度は別として、20歳前後での後退は絶対にいけないことで、それを考えれば徐々にですが上向いています」

 一軍の監督として、3人を育成していく日が訪れることを想像していたかも聞いてみた。

「そうした気持ちはありました。これからの3年で彼らを野球選手として、人間としてもっと育てていきたいですし、僕自身も監督として成長していきたい。今回、奥川(恭伸/2019年ドラフト1位)も入ってきますけど、彼らはまず近くにおいて、その成長を見ていきたい希望はあります」

 高津監督からの期待を、3人はどう受け止めているのだろうか。

「高津監督には約2年間、ファームで見てもらいました。監督への感謝の気持ちじゃないですけど、一生懸命野球をして、僕の投げる姿を温かく見守ってほしいと思います」(梅野)

「3年間、チームのために本当に何もできていないので……ほんま、見捨てられてもおかしくないんですが、まだ話も聞いてもらえて……。ありがたいことですし、監督に使ってもらえるように、必死こいて練習していくしかないです」(寺島)

「高津監督には二軍でよくしていただきましたので、その期待を裏切りたくないというか……。それ以上の結果を出すことが目標です。あとはチームを勝たせること。なんとか監督を喜ばせることができれば、と思っています。そのためには来年も一軍の戦力として投げられるように、オフもしっかり過ごしたい」(高橋)

 この3人が、1年を通して一軍でしっかり投げることができれば、高津監督の期待に応えたことになる。松山キャンプでの高橋、寺島、梅野の練習する姿を見れば、実現するのはそう遠くないと思えるのだった。