公式練習では4回転ルッツも成功させていた羽生結弦 12月5日からトリノで開催されるグランプリ(GP)ファイナル競技前日。「公式練習へ向けたウォーミングアップをする前に、会場を見てみたいとワクワク感が止まらなくなったけど、頑張ってその気持ちを…



公式練習では4回転ルッツも成功させていた羽生結弦

 12月5日からトリノで開催されるグランプリ(GP)ファイナル競技前日。「公式練習へ向けたウォーミングアップをする前に、会場を見てみたいとワクワク感が止まらなくなったけど、頑張ってその気持ちを抑えて練習に出てくる時まで待ちました」と話す羽生結弦は、2006年のトリノ五輪で使われたこの会場で初めて滑った感想をこう語った。

「会場自体にすごい大きなエネルギーがあると思いました、自分がすごくスケートにのめり込んでいた(子供の)時に五輪があった場所だということもあって、いろんな思いもあります。もちろん記憶としても思い出だけではなく、記録としてここに残っているものもあると思う。勝手な思いですけど、そういうものにすごく力をもらいながら演技をしたいなと思っていました」

 羽生は練習を開始すると、最初にステップの滑りを確認。5分過ぎから3回転ルッツを跳び、次の4回転トーループまでつないだ。さらに4回転サルコウを決めると、次は4回転ループ。そしてつなぎの滑りから始めながらも、ほかの選手の影響で少しタイミングがズレて4回転ループで転倒すると、もう一度やり直して余裕を持って4回転ループを跳び、次のジャンプの4回転サルコウまでつないだ。

 その後、2番目だったフリーの曲かけでは、最初の4回転ループで転倒して苦笑いを浮かべたが、次の4回転サルコウはきれいに決める。さらにステップを滑ってから間を取ると、単発の4回転トーループと、4回転トーループからの3連続ジャンプにつなぐ。そしてトリプルアクセルがパンクしてシングルになると、少し休んでからトリプルアクセルを2連発。全体的に余裕を持ちながら、要所はしっかり締めた練習だった。

「やるべきことはやったかなと思います。でも今日の感覚が明日に続くかといったら、そうでもないと思っているし。よくなっていくかもしれないし、悪くなっていくかもしれないので、そこはしっかり注意をして。いろんなことに注意をして、いろんなことを感じ取りながらこの試合を終えたいと思います」

 4回転ルッツを跳んだのは、「氷の感触がよかったから」だ。ループやサルコウのエッジ系のジャンプも、トーループやルッツのトゥ系のジャンプに関してもすごく感触がよく、「すごく好きだな」と思う氷だったと言う。

「氷はもちろん、このままの状態ではないとは思うけど、ただ1回目の感触がすごくいいというのは気分的にも何か…、滑る時にワクワクして『今日はすごくスケートが楽しいな』と思っていました」と笑顔だった。

 この大会に出場するにあたり、「一番重要」と話していたコンディショニングに関しては、自分で「どうかな」と思うような1週間ではあったが、かなりあった「NHK杯の疲れの回復に努められたのはよかったのではないか」と言う。

「疲れが取れてきて、ちょうどいい感じになってきているのではないかと、今は感じている」「今はとくに追い込むべき時でもない」と思うことで、精神的な焦りは生まれてこなかった。

「どちらかというと、今回は回復に専念して、締めるところだけ締めたという感じです。NHK杯で歴代世界最高得点を出したあとのファイナルの時は、どちらかというと体力がなくて、無理やりやって何とか降りていたという感じでしたけど、今回は無理やりではなく、割とコントロールしていろいろつかめている感じなので。あとは、試合までの間にどういう風に調整していくのか。コントロールだけではなくて、調整していくというのをしっかり頭に入れたいなと思います」

 4回転ルッツをきれいに決めたとはいえ、まだ「フリーで使うかどうかは決めていない」とも言う。それはあくまでも、エッジ系のジャンプが厳しいと思った時のオプションのひとつなのだろう。

「当日の氷の感覚もあるけど、あとはショートをやっての体力の状態とかを見て(判断する)。体の感覚は絶対に変わっていくので、それ次第だと思います」

 対応可能なオプションとして4回転ルッツを持っていることも、この日の落ち着いた表情のひとつの要因なのだろう。ネイサン・チェン(アメリカ)との一騎打ちへ向けて、羽生の準備は心身ともに整っているようだ。