初めての試みとなるパイロット版のFIFA/AFC女子クラブ選手権(韓国・龍仁)で、日テレ・ベレーザが初代アジアクラブ女王に輝いた。日本以外はオーストラリア、中国、韓国から昨シーズンのリーグ優勝チームが参戦した。



アジアでも強さを発揮した日テレ・ベレーザ

 急遽降って湧いた大会だっただけに、対戦相手の情報収集など間に合うはずもなく、何よりベレーザには超過密日程が課せられていた。国内ではすでに皇后杯が開幕しており、ベレーザは皇后杯2回戦を戦った11月23日から、順調に勝ち上がりを想定した場合、16日間で海外遠征3試合を含む6試合の連戦になる。

 さらに、主力11名は9日からEAFF E-1女子選手権開催のため、なでしこジャパンとして再び韓国へ遠征する強行日程。それでも選手たちは、ベレーザとして海外チームと対戦する舞台を待ち望んでいただけに、初代アジアクラブ女王のタイトル奪取への高揚感を抱いての参戦だった。

 初戦の江蘇蘇寧足球倶楽部(中国)戦では、アフリカ・マラウイ出身のスピードアタッカー、タビサ・チャウィンガにカウンターから早々に失点をするという想定外のスタート。すぐさま田中美南のゴールで試合を振り出しに戻すもマンツーマンでマークにくる相手に手こずり、スコアは動かず。ドローに終わったこの一戦は選手たちにとって、そのあとに戦った仁川製鉄レッドエンジェルス戦(韓国/2-0)、メルボルン・ビクトリー(オーストラリア/5-0)の完封勝利よりも印象に残ったようだ。インサイドハーフとして出場した長谷川唯はこう振り返る。

「マンツーマンでマークにきて、最後はブロックで守る相手に対しての崩し方はまだまだアイデアが足りない」

 失点して初めて相手のスタイルを把握し、同点にしてからは、リスクを冒してまでボール奪取に来ない相手に対して膠着状態になった。ピッチ上で長谷川はわずかな時間を見つけては近くの選手たちと話し合っていたが、突破口が見出せなかったことを悔いる。

 それでも続く2戦目、3戦目では、持ち前のポジショニングのよさと的確なパス配球に手応えも掴んだ。

「球際が強い仁川が相手でもボールを取りにいって、ショートカウンターにつなげる得意なプレーはできた」(長谷川)

 長谷川は、ユース年代から何度も対戦を重ねたことで、友人となった選手たちが仁川に多く、その選手たちから「ベレーザは強いチームだね」と言われたことで、「やってきたことは間違っていなかったと自信を持つことができた」という。

 一方、今大会で最終戦のハットトリックを含む4ゴールを挙げた田中は、一層気を引き締めたようだ。田中個人としてアジア勢と対戦するのは、なでしこジャパンとして戦った昨年8月のアジア競技大会以来。代表として対外試合をこなしてきたからこそ「もっとゴールへの迫力を持たせることが必要」(田中)と、自身への評価は厳しめだ。

 それでも代表としての国際経験に加えて、「国内では感じられないようなパワーやスピード感、プレッシャーをベレーザとして感じられたことがすごくよかった」と今後への期待感も滲んでいた。

 今大会で興味深かったのは、永田雅人監督が試合ごとに異なるメンバー構成で臨んだことだ。当然ながら主力選手はしっかりと起用するも、総力戦ということもあり、その配置・起用にも一戦一戦に明確な”挑戦”があった。とくに若い選手を積極的に使い、なおかつ質を落とすことなく展開させるトライは、永田監督ならではの信頼と我慢の采配だったと言える。

 初戦は後半の勝負どころで中央に若手の菅野奏音を投入、優勝を左右する首位の仁川との直接対決では松田紫野、下部組織のメニーナから後藤若葉を抜擢。最終戦でスタメン起用された伊藤彩羅は左サイドバック、左右サイドハーフと時間を追うごとに3つのポジションを担い、それぞれで効果的な動きを披露して、得点もマークした。指揮官の期待に大いに応えた。

 特筆すべきは第2戦の後藤の覚醒だ。本職のCBではなく、右サイドバックでの起用に前半は慌てた。スピードのある相手に有効なマークに行けず、オーバーラップのタイミングも見失っていた。心が折れるかと思いきや、後半に後藤のプレーが一変した。

「申し訳ない前半でした……。迷惑をかけちゃダメだって縮こまってしまって。でもその考え自体がマイナスに動いている。意図のあるミスだったらみんな声をかけてくれるので吹っ切れました」(後藤)

 交代することなく引き続きピッチに立った後藤は果敢にドリブルで攻め上がり、守備でも体を張って相手を捕らえて奮闘した。

 各試合で若手が見せる大奮闘に、「ああいう姿を見せられると刺激になる」(有吉佐織)、「自分がメニーナだった頃では考えられない」(田中)、「メニーナはこういうことができる。今後が楽しみ」(長谷川)と主力選手たちも大絶賛だった。

 これらの若手選手たちはU-19女子代表の主力でもある。11月はじめにAFC U-19女子選手権で優勝という形でワールドカップ行きを決めたばかりの選手たちだ。アジアのトップレベルのクラブチームとの真剣勝負で、新たな経験を積み、大会中にもプレーの幅は大きく広がった。経験豊富な選手たちで構成された今のベレーザは、大きく崩れることがない。だからこそ立つことができたアジアの頂点だった。それでも、すべてを出し切ったとは思えない。

 そのことは、永田監督の次の言葉が象徴している。

「手応えというものはとくにはない。今までしてきたことを1プレー1プレー出したかった。若い選手が出ても新しいものが見つけられるように、質の高くなるチャレンジができるようにしただけです」

 初めての国際大会でも永田監督は通常運転。常に”世界”を意識して彼女たちは研鑽を積んできた。今回のような急な参戦であっても、ベレーザの準備は整っていた。参加チーム中、ベレーザが頭ひとつ抜けていたのはこうした世界基準のメンタリティが備わっていたことも大きい。

 パイロット版のAFC大会が開かれたということは、この先にはFIFAのクラブワールドカップという道が開きつつあるということ。そこには熊谷紗希が所属する誰もが認める世界最強のチームであるフランスのオリンピック・リヨンの存在がある。

「今のベレーザではリヨンとやるにはまだまだ力が足りない」と田中が言うように、リヨンの名が挙がるほど世界を現実的なものとして捉えていることがわかる。

 なでしこジャパンとして戦う目線と、ベレーザとして海外チームと対戦する目線は異なる。しかし、その双方からの視野が合わされば、これまでとは一味違う世界が広がるはずだ。今大会でベレーザが得た実感は、今後のベレーザ、メニーナのみならず、なでしこジャパンやU-19女子代表にとっても、大きな財産になるに違いない。