湿っぽい展開をすかっと変えた。 スクラムでの反則が響き序盤を0-6とリードされていたNTTコムにあって、前半34分、お家芸の扇の攻撃システムが連動する。 敵陣10メートル線付近左中間を起点に、各所に散らばる面子が守備を引きつける。自然とで…

 湿っぽい展開をすかっと変えた。

 スクラムでの反則が響き序盤を0-6とリードされていたNTTコムにあって、前半34分、お家芸の扇の攻撃システムが連動する。

 敵陣10メートル線付近左中間を起点に、各所に散らばる面子が守備を引きつける。自然とできたひずみを突くのは、SO小倉順平だった。 

 接点から最初にボールを受けるや、瞬時の閃きで突破。身をくゆらせ、すいすいと駆け上がる。

 右斜め後ろを並走するLOアイザック・ロスにバトンを渡すと、CTBブラッキン・カラウリアヘンリーがトライを決める。

 直後のゴールを決めたSO小倉は、ファンタジスタ然と述懐する。

「プレーのこと、聞かれてもわからないです。感覚、というか」

 クラブを下位層から1季で中位層に押し上げたロブ・ペニー ヘッドコーチは就任3季目を迎える。

 グラウンドの端から端までパスをつなぐ攻撃組織は、個々の判断力向上で機能性を高めたか。

 今春に初の日本代表入りを果たしたCTB石橋拓也は、「周りがよく見えるようになった」。局面ごとの敵と味方の人数を把握し、それに応じたプレーの選択肢を司令塔に伝える。

「話すべきことを選手が話していたので、私はその意見を最後にまとめるだけ。規律、ボール保持のコントロール、ディフェンスを、と」

 ボスがこう見たハーフタイムの後、NTTコムはさらに加速する。

 SO小倉が蹴った自軍キックオフをCTB石橋が上空でタップ。青いジャージィが左右に陣形を作り、相手防御の薄くなった左端へ展開する。

 WTB菊池功一郎、CTBカラウリアヘンリーと順にパスがつながると、右への折り返しにFL栗原大介が応じる。ここでもゴールを決めてスコアを14-6としたSO小倉は、こうも続けたのだった。

「コミュニケーションがいい。僕がやりたいことを伝えて、皆がそれをわかって、それで僕が活きている」

 黒いジャージィのリコーは、SOとFBに並べたキック力のある選手を頼りにエリアを取り、外国人FWによる簡潔なぶちかましに活路を見出したかったか。しかし、プラン遂行の前提となる陣地獲得に難儀する。

 何故か。敗れた神鳥裕之監督はこう観る。

「相手のアタックが素晴らしくボールを獲れなかった」

 守っては2人がかりのタックルも貫いたNTTコムは、17分、自陣10メートル線付近右のスクラムからまたも協奏曲を奏でる。

 ハーフ線付近左中間での2フェーズ目でCTB石橋がその走りで複数のタックルを引きつけると、反対側のスペースで5人対2人と文句なしの数的優位ができる。

 その先頭に立つSO小倉がデジャブを示すランを繰り出し、最後はCTBカラウリアヘンリーが止めを刺した。ゴールも決まり、21-6。ここで勝負は決まったか。

 今季初黒星のリコーに対し、NTTコムは今季初勝利。人気者のNO8アマナキ・レレィ・マフィも、足早に帰路につくさなかに言った。

「これからタフ(な対戦が続く)。もっと、レベルアップしたいです」(文:向 風見也)