完敗だった。25年ぶりの全勝対決も、早大は7-36で明大に敗れた。実力差は歴然。何より選手が力の差を実感しただろう。ロスタイム。5本目のトライを奪われた早大はインゴールで円陣をつくった。トライを許し、ガックリする早大と喜ぶ明大の選手た…
完敗だった。25年ぶりの全勝対決も、早大は7-36で明大に敗れた。実力差は歴然。何より選手が力の差を実感しただろう。ロスタイム。5本目のトライを奪われた早大はインゴールで円陣をつくった。
トライを許し、ガックリする早大と喜ぶ明大の選手たち
アカクロジャージの輪がぎゅっと縮まる。スクラムハーフ(SH)の斎藤直人主将がこう、声を発したそうだ。
「これが、自分たちと明治との差だ。きょうは本当にわかったと思う。絶対、次の対戦でリベンジするぞ」
12月1日。満員の2万3千人の観客で埋まった東京・秩父宮ラグビー場。試合直前、相良南海夫監督から「(この雰囲気を)楽しんでこい」と言って送り出された早大だが、そんな気持ちはすぐに吹き飛ばされた。
序盤、相手自慢の強力FW(フォワード)の押しに耐え切れず、立て続けにスクラムで反則をとられた。FWの平均体重が相手の105kgに対し、早大は102kg。とくに左PR(プロップ)の横山太一(177cm・107kg)が明大の右PR笹川大五(186cm・118kg)のウエイトをもろに受けた。
早大HO(フッカー)の森島大智が「ヒットでは負けていなかったんですが」と顔をゆがめた。実直、誠実な4年生。
「組んだ後の第二波というか、後ろからの重さで自分たちが落ちてしまった。こちらの1番(左PR)が相手の3番(右PR)と後ろの重さにやられていました」
早大はスクラムのコラプシング(故意に崩す行為)からの PK(ペナルティーキック)をタッチに蹴られ、そのラインアウトからの連続攻撃で明大LO(ロック)の箸本龍雅に先制トライを奪われた。ディフェンス、とくに密集サイドのタックルが甘かった。
もちろん、スクラムは修正していった。構える時、両FWの間合いを少し、短くした。森島が説明する。
「(相手との)距離を近くして、相手の当たりやすい距離ではなく、自分たちの姿勢をとりやすくして…。全体的に(相手の)重さでやられないように工夫しました」
だが、それでも明大FWのパワーは凄まじかった。勝負の分かれ目となった後半序盤の10分間。開始直後、パントキックの好捕からつながれてトライを加えられた。その後、自陣の中盤あたりでの早大ボールのスクラム。これを猛プッシュされ、またも左PRの横山太一がコラプシングの反則をとられた。PKをタッチに蹴られ、ラインアウトからのドライビングモールをごりごり押されて、ゴールラインを割られた。
ゴールキックも決まり、これでスコアは7-24となった。2トライ(&ゴール)以上の17点差。勝負の帰趨はほぼ決まった。
森島の父・弘光さんも元早大HOで、大学日本一となった清宮克幸氏(日本ラグビー協会副会長)と同期となる。森島は試合前、その尊敬する父から携帯でメッセージをもらっていた。<80分間、先手、先手で絶対受けるな。走り切れ>と。森島は言う。
「でも、きょうはディフェンスのところで受けてしまった。反省点がたくさんあるので、そこを改善して、また、明治とやりたい。リベンジしたいですね」
『タフ・チョイス』、これが早大のゲームスローガンだった。我慢の状況が続いても、タフな選択をし続ける。自分たちの強みであるディフェンスを生かし、粘り強く戦うつもりだった。だが、FW戦で圧倒され、SH斎藤-SO(スタンドオフ)岸岡智樹のハーフ団のプレーも精度を欠いた。
やはりタッチに蹴り出す時は確実に蹴り出せばよかった。岸岡は自分を責めた。
「率直に敗因としては、僕のキックコントロールの精度の悪さが一番響いたのかな、と思います。フォワードのスクラムだったり、モールの対応だったり、得点につなげられた原因はあったでしょうが、元をたどれば、僕のところの責任かなと」
もっとも、ポジティブにとらえれば、早大の収穫は「現在地」がはっきりしたことか。敗北の重みを実感できてチームは成長するのだ。「明大との差は?」と聞かれると、斎藤主将はしばし考え、こう答えた。
「アバウトになってしまうんですけど、ブレイクダウンだったり、パスのひとつだったり、すべての精度だと思います」
これはまた、昨季の大学選手権準決勝で明大に敗れた早大が痛感した部分だった。だから今季、春先からフィジカルアップに努め、とくにスクラムの強化に取り組んできた。ディフェンス、ブレイクダウン、セットプレーの精度アップも図ってきた。
だが、この日もディテール(細部)の確かさで劣っていた。加えて、ボールキャリー(ボールを持つ選手)の能力も、フィジカルの強さ、1対1のタックルの厳しさ、リアクションのスピード…。スクラム、ラインアウト、ブレイクダウンでこれほど圧力を受けては、早大らしい展開ラグビーは鳴りを潜める。コーナーに蹴り分けてエリアをとっていく戦略も機能しなかった。
攻撃のことを聞かれると、SH斎藤主将はボソッと漏らした。
「あまりアタックした覚えがないんですけど」
そうはいっても、早大にも光るプレーはあった。トライとなったSO岸岡の鋭利するどいラン、FB(フルバック)河瀬諒介のライン際の快走、窮地でのLO下川甲嗣のナイスセービング、途中交代で入ったPR久保優のワンプッシュ…。
さらに、あえて好材料を挙げれば、次の試合には大型センター(CTB)の中野将伍、ハードタックラーの1年生FL(フランカー)相良昌彦がケガから復帰してくる。
全国大学選手権では明大とは別ゾーン、関西1位で充実の天理大と同じゾーンにはいる。決勝戦(来年1月11日)の会場は、完成したばかりの新国立競技場となる。試合後、相良監督は、明大の田中澄憲監督から「国立を早明戦で満員に」と声をかけられたという。
「僕らは、決勝に行く責任があるなと思います。絶対、国立へ、行きますよ」
今季のチームスローガンは『For One』だ。何事にも勝つこと、一番になること、そのためにひとり一人が考え、全力を出すという意味が込められている。「フォアワンのワンは?」と聞けば、斎藤主将は短く、言い切った。
「優勝です」
課題はプレーの精度、接点、タックルの厳しさ、そして挑みかかる気概と多々ある。ここはひたむきにプレーして、一戦一戦勝ち上がっていくしかあるまい。捲土重来(けんどちょうらい)。早大にとって、いばらの道がつづく