今季J1の覇権の行方は、どうやらほぼ決着がついたようだ。 前節の勝利で今季初めて首位に立った横浜F・マリノスは、J1第…
今季J1の覇権の行方は、どうやらほぼ決着がついたようだ。
前節の勝利で今季初めて首位に立った横浜F・マリノスは、J1第33節、川崎フロンターレに4-1で勝利。その一方で、2位のFC東京は、浦和レッズと1-1で引き分け、両者の勝ち点差は前節までの「1」から「3」に広がった。
この結果、最終節の直接対決でFC東京が勝てば、勝ち点では並ぶものの、得失点差7をひっくり返すためには、FC東京には4点差以上での勝利が必要となった。
つまり、横浜FMは勝つか、引き分けならもちろん、3点差以内の負けでも優勝が決まる。そんな圧倒的優位な立場で、最終節では眼下の敵をホームに迎えることになったのである。
昨季、一昨季とJ1連覇の川崎に大勝し、タイトルを大きく手繰り寄せた試合を振り返り、MF扇原貴宏が語る。
「川崎に勝ってこそ、優勝にふさわしいチームだと思っていた。それを立ち上がりからプレーで示し、それが結果に表れた」
横浜FMはディフェンディングチャンピオンを相手に、しかも敵地での試合ながら、序盤から主導権を握った。
ボールを保持して攻撃を組み立てるだけでなく、中盤では力強い守備でボールを奪い、川崎が武器とするパスワークを寸断。前半なかばには川崎にボールを保持され、自陣でピンチをしのぐ時間もあったが、90分全体を俯瞰すれば、試合は完全に横浜FMのものだったと言っていい。扇原が続ける。
「中盤で相手を自由にさせず、一歩でも前に寄せることは、いつも以上に意識してやった。川崎相手に4-1は自信になる」
4ゴールという数字自体もさることながら、どれもが横浜FMらしい、非常に質の高い得点だったことも特筆すべきだろう。
試合開始早々の先制点は、自陣ペナルティーエリア内のGK朴一圭から、6本のパスをつないで左のオープンスペースにFWマテウスを走らせ、最後はゴール前のMF仲川輝人がワンタッチでクロスを押し込むだけ、という状況を作り出したもの。
2点目は、横浜FMのビルドアップを阻もうと、川崎の2ボランチが前がかりになった背後のスペースに、右サイドバックのDF松原健が潜り込んでボールを受け、FWエリキに絶妙なスルーパスを通したもの。
そして、3、4点目は、いずれも横浜FMが高い位置からの守備により、ボールを奪ったところに端を発したものだ。
「(試合や練習を)やりながら、自信や手応えを深めている」(扇原)というトリコロール軍団は、6連勝中の現在、昨季王者の川崎すら寄せつけないほど、J1でも別格の強さを見せている。FC東京にも数字上、逆転優勝の可能性が残っているとはいえ、客観的に見て、横浜FMがJ1制覇をほぼ手中に収めたと考えるべきだろう。

王者・川崎フロンターレに完勝した横浜F・マリノス
このまま横浜FMが優勝にたどりつけば、2004年以来、15シーズンぶりのJ1制覇。久しぶりの戴冠は、日本リーグ時代から数多くの栄光を手にしてきた名門復活を印象づけるとともに、ふたつの点において、エポックメイキングなものになるのではないだろうか。
ひとつは、横浜FMが、前述したようにボールポゼッションを重視したスタイルを志向していることである。
過去には、他クラブでもポゼッション重視を打ち出し、チーム作りをした例はあった。だが、なかなか結果に結びつけることができず、そうしたスタイルは、結果を度外視した理想主義と揶揄されることもあった。
ところが、横浜FMの場合、過去の例と比べても”極端に”ポゼッションを重視しながら、それでいて、これだけの結果に結びつけているのである。
ピッチ上の選手がバランスよくポジションを取り、テンポよくボールを動かすことができているから、ボールを失ったとしても、自然と守備への切り替えが速くなる。ボールポゼッションを高めたスタイルで勝利の確率を高めるためには、ボールを失った時に素早く守備に移り、相手のカウンターを許さないことが絶対条件だが、今の横浜FMは、まさにそれができている。
そんなスタイルのチームがJ1制覇を成し遂げるとなれば、同じような志向のチームには自信になるだろうし、正反対の志向を持つチームには、考え方を変えるきっかけになるかもしれない。いずれにしても、このサッカーでも優勝できると証明したことの意味は大きい。
しかも、横浜FMのスゴいところは、メンバーを固定することでチームの熟成を図ってきたわけではなく、シーズン中にケガで戦線離脱する選手や、調子を上下させる選手がいるなかで、メンバーを入れ替えながら、これだけ完成度の高いサッカーを作り上げてきたことである。
現在では左サイドバックに定着したDFティーラトンも、今季開幕当初はケガで出遅れ、今季初出場は第3節。その後も控えに回ることが多く、第10節までは3試合に出場したにすぎなかった。
だが、「ケガから復帰し、フィジカルが弱いと自覚していたので、フィジカルコーチが改善に力を注いでくれた。そのおかげで、そこからはチームのスタイルを日々学んで、フィットしていった」とティーラトン。メンバーの入れ替わりがありながらも完成度を高められたのは、選手全員にチーム戦術がしっかりと落とし込まれている証拠だろう。アンジェ・ポステコグルー監督の手腕は称賛に値する。
そして、もうひとつは、今季から拡大した外国人枠を有効活用しているということである。
今季からJリーグでは外国人選手の登録制限がなくなり、試合には5人まで出場できるようになった(昨季までは外国人選手3人+AFC加盟国選手1人)。
とはいえ、それをフルに活用できているチームはほとんどない。もちろん、外国人選手に頼らないチーム作りはあっていいが、実際のところは、目ぼしい外国人選手を獲得できなかったり、獲ってきた選手が期待したほど戦力にならなかったりして、本来なら使える枠を持て余しているというのが、多くのチームの実態だろう。
しかし、横浜FMは、川崎戦の先発メンバーを見ても、FWマテウス、FWエリキ、MFマルコス・ジュニオール、DFチアゴ・マルチンス、DFティーラトンと、外国人選手を5人起用。ティーラトンは、Jリーグ提携国=タイの選手のため、外国人枠がまだ1枠空いてはいるが、他チームに比べ、その活用率は高い。今夏、当時チーム得点王だったFWエジカル・ジュニオが骨折で長期の戦線離脱となったときにも、すぐにエリキやマテウスを獲得しており、今季からの規定変更を生かしたマネジメントが、チーム強化につながったと言える。
主力に外国人選手が多いという状況は、どうしても外国人頼みの印象が強くなり、必ずしも好意的に受け止められない面はあるだろう。実際、これまでには、外国人FWには守備の負担を免除する特権を与え、日本人選手が守って、外国人選手が点を取る。そんな”戦術”を採るチームがあったことも確かだ。
だが、横浜FMの外国人選手たちは、誰もがチーム戦術を守り、あくまでもチームのピースのひとつとして機能するなかで、それぞれが技術やスピードといった持てる武器を発揮している。マルコス・ジュニオールは「日々、チームとして積み重ねてきたものが結果に出ている」と言い、こう語る。
「(外国人選手が多いが)ブラジル人同士でポジション争いをしているとは思っていない。大事なのは、互いのことを思い、コミュニケーションをとって協力し合うこと。それをやれてきている」
ただ個人能力が高い外国人選手を集め、その力だけに依存したのでは、長期的なチームの強化という観点からすれば、意味がない。しかし、横浜FMは多くの外国人選手を抱えながら、あくまでも11人の選手がチームとして機能することを最優先している。つまり、外国人枠拡大の有効活用という点で他チームに先んじることで、横浜FMは今季、最高の結果を得ようとしているのである。
よくも悪くもチームごとの実力差が小さく、開幕前には優勝候補と目されたチームが降格の憂き目に遭う混戦リーグにおいて、いかにコンスタントに結果を残すか。その点において、今季横浜FMが示した戦略は、今のJリーグに一石も二石も投じるものになるのではないかと思う。