ここ数年の男子プロテニス界は、ベテランたちの砦を崩すことができる若手の登場を待っていた。そして年度末を締めくくる「Nitto ATPファイナルズ」決勝で、21歳のステファノス・チチパス(ギリシ…

ここ数年の男子プロテニス界は、ベテランたちの砦を崩すことができる若手の登場を待っていた。そして年度末を締めくくる「Nitto ATPファイナルズ」決勝で、21歳のステファノス・チチパス(ギリシャ)が、26歳のドミニク・ティーム(オーストリア)と2時間半を超える激戦の末、栄冠を手にした。それは彼にとって、自身最高の勝利だった。

チチパスは、2001年に同大会で優勝した当時20歳のレイトン ・ヒューイット(オーストラリア)以来、最年少優勝者だ。攻撃的なテニスを持ち味とする彼は、満員の客席を前に最もエキサイティングな若手選手という評判に応えた。魅力あるキャラクターと揺れる長髪、ダイナミックなゲーム運び、年末の世界ランキングを6位で終えた彼は、将来の大スターになる要素を全て備えていると、英Independent紙が伝えている。

「Nitto ATPファイナルズ」で観客を魅了し続けたチチパスを、最終セットでは多くのファンがその名前を連呼して応援した。チチパスはその声援に対して試合後に、「素晴らしい応援をありがとう。皆さんのお陰でエネルギーが湧き、自信を持って試合ができたよ」と感謝の言葉を述べた。

チチパスとティームの決勝戦は、シーズンを締めくくるに相応しいものだった。圧倒的なパワー、プレッシャーがかかる場面での冷静さ、華麗なネットプレー、美しい片手バックハンドのストロークなど、すべてのチャンスに攻めた両者は、伝統的なテニスを支持するファンをも魅了した。

この年度末を飾った二人の大激闘は、新しい時代の幕開けと期待したい気持ちがある一方、実は以前にも似たようなことは起こっていたのだ。その結果を見ると、チチパスの勝利が必ずしも来シーズンの明るい展望へと繋がるかどうかは定かではない。「Nitto ATPファイナルズ」ではここ3年、毎年初優勝者を出している。2017年に優勝したのはグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)だったが、彼は2018年に1つも優勝できず、1年で世界ランキングを自身最高の3位から19位に落としてしまった。

2018年の優勝者は、現在22歳のアレクサンダー・ズべレフ(ドイツ)。ロジャー・フェデラー(スイス)とノバク・ジョコビッチ(セルビア)を破って優勝を決めた。しかし彼が2019年に獲得したタイトルは、ATP250大会の1つのみ。自分よりランクの低い選手に21回負け、トップ10プレーヤーとの対戦成績は1勝5敗だった(ファイナルズ戦績を除く)。

2019年は、チチパスを筆頭に、ティーム、ダニール・メドベージェフ(ロシア)、マッテオ・ベレッティーニ(イタリア)ら若い世代が、素晴らしい戦いぶりを見せてくれた1年だったが、年度末の結果を見ると、結局ベテランが上位を占める見慣れたランキングとなった。ラファエル・ナダル(スペイン)33歳がトップ、32歳のジョコビッチが2位、そして38歳のフェデラーが3位だ。この3人が年度末のトップ3を占めるのは、2007~11年、2014年、2018年に続き8回目である。

このランキングは、主としてグランドスラムでの戦績が大きく影響している。ジョコビッチは今年「全豪オープン」で7回目の優勝、「ウィンブルドン」で5回目の優勝。ナダルは「全仏オープン」で12回目の優勝、「全米オープン」で4回目の優勝を飾った。ビッグ3と言われている選手以外がグランドスラムを制したのは、2016年に「全米オープン」で優勝したスタン・ワウリンカ(スイス)が最後だ。

2020年は「ビッグ5」とも言われる5人がまたも活躍しそうな気配もある。長く膝の故障に悩んできたワウリンカが16位に浮上、アンディ・マレー(イギリス)は腰の大手術後、素晴らしい復帰ぶりを見せ、「ATP250 アントワープ」で2年半ぶりのタイトルを獲得した。

もし若い世代が彼らベテランたちに取って代わるとしたら、やはり注目すべきは今回「Nitto ATPファイナルズ」に出場していた5人の選手たちだろう。メドベージェフ、ベレッティーニ、ズベレフ、そして決勝まで勝ち残ったティームとチチパスだ。

ティームはここ3年間、クレーコートではナダルに次ぐ強さを発揮しているが、2019年にはハードコートでもトップで戦える強さを見せた。2月にニコラス・マスー氏をコーチに迎えてから、彼はクレーで2つ、ハードコートで3つのタイトルを獲得している。

一方、チチパスは「全豪オープン」でフェデラーを倒して準決勝に進出し期待値を上げたが、他のグランドスラムでの戦績は全くぱっとしなかった。だが優勝2回、準優勝3回、そして最後の最後に最高のタイトルを獲得した。それに加えて、見目良く明るい性格が、今後もファンを楽しませてくれそうだ。

(テニスデイリー編集部)

※写真はATPファイナルズ決勝のチチパス

(Photo by TPN/Getty Images)