NHK杯フリーで3位となったアリーナ・ザギトワの演技

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ最終第6戦のNHK杯女子フリーはトリプルアクセル対決となった。結果は、今季シニアデビューしたロシアの新星アリョーナ・コストルナヤが初優勝を成し遂げ、昨季GPファイナル女王の紀平梨花が2位に終わった。そして、その2人に話題をさらわれた格好となったのが、平昌五輪女王のアリーナ・ザギトワ(ロシア)だった。

 失敗が許されないショートプログラム(SP)でジャンプミスをして4位と出遅れたザギトワは、同門の後輩コストルナヤの活躍を目の当たりにして、自身の不甲斐ない演技に気落ちした様子が見られた。SP直後の舞台裏では、険しい顔を見せながら、報道陣を前にこう話していた。

「(SPの演技は)アドレナリンが足りなかった感じです。こういった失敗は今までも、平昌五輪でもしてきました。同じような大きな失敗している私には(SPからの逆転優勝や挽回の)経験があります。フリーの『クレオパトラ』は見事に演じたいと思います」

 そのフリーでは公約どおり、見事な演技を披露して、スタンディングオベーションを浴びた。審判の評価では回転不足やレベルの取りこぼしはあったが、一見してその演技はほぼ完璧だった。それでも、ザギトワ本人は笑顔を見せず、キスアンドクライに座って得点を静かに待っていた。

 フリーの結果は、昨季まで世界最高得点だった158.50点(2018年ネーベルホルン杯2018で出した)の自己ベストに7.35点及ばない151.15点をマークして3位。合計では、こちらも昨季までは世界最高得点だった238.43点の自己ベストを20.44点も下回る217.99点で、総合3位にとどまった。

「フリーの演技はとても満足しています。SPで納得いかなかったので、フリーへうまくつなぐことができてとてもよかったです。もちろんSPのあとは、4位になったことでとても落ち込みましたけど、コーチの皆さんがとても温かい言葉を掛けてくださいましたので、気持ちを落ち着けて(フリーの)今日1日に取り組むことができました。そしてフリーでは、ひとつのエレメントからもうひとつのエレメントへと落ち着いて滑ることができたと思います」

 厳しい戦いとなったが、五輪女王としての自負がある17歳は、決してあきらめない強気を最後まで見せていた。

 ザギトワがシニアデビューしたのは、平昌五輪シーズンだった2017-18シーズン。まだ2年前のことだ。15歳で鮮烈なシニアデビューを飾ったザギトワは、当時のルールを最大限に活用した演技構成に挑んだ。SPもフリーも、すべてのジャンプを基礎点が1.1倍になる後半に組み込むプログラムで、GP2連勝をはじめ、GPファイナル、ロシア選手権、欧州選手権、平昌五輪と、出場したすべての大会を制覇。一気にスターダムにのし上がる大活躍を見せた。

 ルールが大きく改正されて、後半につくボーナス点が制限されることになった昨シーズンも、世界選手権では見事に初優勝を成し遂げた。五輪や世界選手権を制しても浮かれることなく、ストイックにスケートに取り組む若き女王の誕生に、ザギトワ時代が続くと思った人も多かったはずだ。

 だが、トップの座はあっという間にさらわれた。シニア3年目の今季、GPシリーズでは1勝もできなかった。ザギトワが指導を受けてきたエテリ・トゥトベリーゼコーチが率いる同門の後輩3人がシニアデビュー。トリプルアクセルの大技をひっさげた後輩コストルナヤに、フランス杯に続いて2大会連続で敗れたのだ。

 センセーショナルな活躍を見せる後輩たちを横目に見ながらも、自身がやるべき演技をぶれずに貫いていることは、演技構成の内容からもわかる。たとえばそれは、ザギトワの武器でもある連続ジャンプの2つ目のジャンプに3回転ループを跳ぶことだ。回転不足になるリスクが高い大技であるが、15歳の時よりも身長が伸び、体重も増えて体つきも女性らしくなっても、自分のプライドを保つようにプログラムに組み込んでいる。飽くなき向上心と勝利への貪欲さを垣間見せるこの姿勢には、感嘆さえ覚える。

 今季前半戦の2大会でのコメントから推察すると、おそらく、これからもザギトワが4回転やトリプルアクセルの大技ジャンプに挑むことはないだろう。だからこそ、ザギトワは自分が何を目指すべきかを明確に持ってスケートにまい進しているのだ。

 フリー『クレオパトラ』はプトレマイオス朝エジプトの最後の女王で、その美しさとオーラは今でも語り継がれている。ザギトワもそれを継承するかのように、細部にわたって気を遣ったメイクを施し、ゴージャスな黒のコスチュームには金銀などの装飾がつく。姿形はどこから見ても女王然としていた。

 NHK杯の演技内容について言えば、3回転ルッツ+3回転ループの高難度ジャンプを跳んでGOE(出来ばえ点)で2.02点の加点がつき、3回転ルッツにも2.11点の加点がついた。だが、コストルナヤと比べると技術的な難度が低いため、GOE加点もそれほど出ておらず、ステップとスピンのひとつで最高レベル4を取れずにレベル3にとどまるなど、取りこぼしも散見された。それでも、ただひとり演技構成点の5項目で9点台を並べて73.84点のトップだったのはさすがだった。

 これで3年連続GPファイナル出場を決め、2年ぶり2度目の優勝を狙うことになるザギトワ。コストルナヤをはじめ、スケートアメリカと中国杯を制したアンナ・シェルバコワ、スケートカナダとロシア杯を制したアレクサンドラ・トゥルソワという強敵3人との勝負が待っている。すでに国内選手権では敗北を喫しているが、どんな戦いを見せるのか。

「GPファイナルでの私の目標は、アリョーナ(・コストルナヤ)が言ったのと同じで、美しくきれいに滑ること、最大限持っている力を出すこと、そして観客を喜ばせること。もちろん、観客の皆さんは誰も、私たちが苦しむ様子を見たいとは思っていません。なので、みんなが楽しくなって、うれしくなって、幸せになるような演技をしたいと思っています。そして、軽やかに滑りたいと思っています」

 ファイナルへ向けての抱負をすまし顔で語ったザギトワの目に、静かな闘志がメラメラと燃えているように感じられた。