スポルティーバ・新旧サッカースター列伝 第13回ドリブルはサッカーのプレーのなかの一つだが、そのドリブルのすばらしさでフ…
スポルティーバ・新旧サッカースター列伝 第13回
ドリブルはサッカーのプレーのなかの一つだが、そのドリブルのすばらしさでファンを熱狂させ、喜ばせてきたスターがいる。自分の得意の型で相手DFを抜きまくった、名ドリブラーたちを紹介していく「ドリブル王選手権」。3回目は、フェイントといえばこれ、の「シザーズ」の使い手たちが登場する。
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<シザーズ王選手権(外→内またぎ)>
シザーズはハサミのこと。サッカーのフェイントのシザーズは、足を外側から内側へ動かしてボールをまたぐものと、逆に内側から外側へまたぐものがある。近年は内→外のシザーズがほとんどだが、1970年代ごろまでは、ボールをまたぐフェイントといえば外→内のほうを指すことが多かった。

シザーズを混ぜた絶妙のドリブルが魅力だったルイス・フィーゴ
外→内またぎのシザーズといえば一択。ロベルト・リベリーノしか思い浮かばない。ブラジル代表として1970年メキシコ大会、74年西ドイツ大会、78年アルゼンチン大会の3度のワールドカップ(W杯)で活躍した名プレーヤーだ。
ほかにもこのフェイントを使う選手はいたが、リベリーノほど効果的な選手は当時も今も見たことがない。テレビで見ても引っかかるような印象だった。左足のインサイドでボールを抱え込むような動作からボールをまたぎ、直後、素早く左足アウトで左へボールを持ちだしていく。リベリーノのシザーズはほかの選手とはキレが段違いだった。もう比較の対象がないぐらいである。唯一、比べるとすれば田嶋幸三を挙げたい。
現在の日本サッカー協会の田嶋会長だ。若いファンには彼が選手だったことを知らない人もいるかもしれない。浦和南高校のキャプテンとして全国高校サッカー選手権で優勝、筑波大学を経て古河電工サッカー部という当時のエリートコースを歩んでいる。
早々にコーチの道を歩んでいて、全盛期は高校から大学の時期だった。田嶋はリベリーノ式のシザーズの名手で、中学校時代に混雑する休み時間のサッカーで身につけた技だったそうだ。
リベリーノ方式のシザーズは、とにかくキレが命。リベリーノはボールが右足の前にあるときに使っていた印象がある。右足の前にあるボールを左足のインサイドで触ると見せて、鋭くボールの前方を通過させてまたぐ。
相手の心理を読む能力もかなり関係があるだろう。「左足で後方へ(マイナス方向へ)切り返す」と、相手が思い込むような状況で仕掛けないと効果は半減する。「左足で触る」と思って相手が足を伸ばそうとした瞬間に、キレキレの動作で一気に逆を突く。
リベリーノは1970年メキシコW杯優勝のヒーローのひとりだ。この大会では偉大なペレの陰になった感があるが、ペレがゲームから消えかかるとリベリーノが中盤を仕切ってゲームメークしていた。卓越したボールコントロールは史上最高クラス、左足のキックは強烈かつ正確、さらに多彩。
標高が高かったメキシコW杯では、CKの時に足を滑らせてしまったのだが、蹴られたボールは逆のコーナーまで飛んでいった。足はそれほど速くないと思うが、瞬間的な1、2歩の速さは図抜けている。典型的な天才肌で、才能でいえば史上最高クラスだろう。
エラシコ(アウト→インの連続タッチによる切り返し)の発明者ともいわれ、足裏を使った引き技も抜群。技のデパートみたいな名手だった。
<シザーズ王選手権(内→外またぎ)>
90年代あたりから、内→外またぎのシザーズが一気に一般化した感がある。ブラジルはとくにそうで、多くのアタッカーがシザーズを使いこなしていた。中でも圧巻だったのは左利きのウイング、デニウソン(98年フランスW杯、02年日韓W杯で活躍)だ。W杯途中出場通算11試合という変わった記録の持ち主である。典型的なドリブラーなので、流れを変えたいときに起用されることが多かった。
デニウソンのシザーズは連続技である。もう、相手がうんざりするぐらいまたぎ続ける。日本の三浦知良も当時は連続シザーズのFWだったが、デニウソンはいつ終わるのかというぐらいすごかった。
02年日韓W杯準決勝のトルコ戦では、デニウソンの時間稼ぎのドリブルに対して、トルコの選手4人が隙間なく並んだままタッチラインへ逃げていくデニウソンを追いかけていくシーンがあった。そうでもしないと奪える気がしなかったのだろう。
デニウソンの連続シザーズは、ロビーニョ(06年ドイツW杯、10年南アフリカW杯で活躍、現バシャクシェヒル/トルコ)に引き継がれている。2人とも細身で軽やか。
逆に重厚型のシザーズではロナウド(94年アメリカW杯メンバー、98年、02年、06年W杯で活躍)に凄みがあった。体が大きいので迫力がある。一瞬で置き去りにするキレも抜群だった。ただ、ロナウドの場合はシザーズなしでもスピードだけで抜けるんじゃないかという疑惑もぬぐえないので、シザーズ王はデニウソンとしたい。
<複合シザーズ王選手権>
内→外、外→内、2種類のシザーズを組み合わせた複合技。さらに足裏での引き技も組み合わせた、難度の高いフェイントを得意とする選手がいる。
最近はあまりやらなくなったが、クリスティアーノ・ロナウドは複合技をよく使っていた。キレ味が凄まじく、正直何をしているのかよくわからないぐらいだった。曲芸のようで、C・ロナウドが踊り出したら対面の相手はとりあえず静観するしかない。
ただ、それで抜くというより、とりあえず相手の動きを止めてからスピードでちぎるために使っていた感じではあった。複雑すぎて対面の相手が止まってしまう。つまりフェイントに反応しないので、それ自体の効果では抜いていないケースが多かった。
ロナウジーニョ(02年、06年W杯で活躍)は何でもできた。結果的に複合技になっていることがあり、シザーズのキレもスケールも桁違いである。体格は「フェノメノ(怪物)」のロナウドとほとんど変わらず、抜いたあとに相手に体を当てられても、はじき飛ばしてしまうパワーも秘めていた。
サーカスみたいなロナウド、ロナウジーニョに比べると、同じ複合系でもルイス・フィーゴ(ポルトガル/バルセロナ、レアル・マドリードで活躍)は枯淡の味わい。派手さはないが実質的だった。
対峙する相手との間合いのとり方、ずらし方がすばらしく、抜き方そのものはほぼ何もしないでスッと抜けていく。シザーズやマシューズ型を複合させるのは相手の体重を操作するためで、抜こうとする瞬間にはもう抜けているといった名人芸だった。すでに相手の体勢が崩れている、「オマエはもう死んでいる」という北斗神拳である。
複合技としてはシンプルだが、このジャンルで独自のフェイントを確立したという点で、オーガスティン・"ジェイジェイ"・オコチャ(ナイジェリア/94年、98年、02年W杯で活躍。パリ・サンジェルマン、ボルトンなどでプレー)に複合シザーズ王を進呈したい。
得意の「オコチャ・ダンス」は、引き技と外→内またぎの組み合わせ。右足裏で引いたボールを、左足でまたぐ技だ。けっこう身体能力を使う力技だが、それもまたアフリカらしくていいのではないか。