チャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグ第5節。A組のレアル・マドリード対パリ・サンジェルマン(PSG)は、90分+アディショナルタイムがあっという間に経過した、優勝候補同士の対戦に相応しいハイレベルな一戦となった。 立ち上がりからペ…

 チャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグ第5節。A組のレアル・マドリード対パリ・サンジェルマン(PSG)は、90分+アディショナルタイムがあっという間に経過した、優勝候補同士の対戦に相応しいハイレベルな一戦となった。

 立ち上がりからペースを握ったのはホームのレアル・マドリード。先月、久保建英が所属するマジョルカに敗れたチームとは思えぬ高級なプレーを見せつけた。



PSG戦で2ゴールを決めたレアル・マドリードのカリム・ベンゼマ

 スタメンにはイスコの名前があった。国内リーグの試合には時々出場しているが、CL出場は今季初。若手のヴィニシウス・ジュニオール(19歳)、ロドリゴ・ゴエス(18歳)を抑え、エデン・アザール(左)とカリム・ベンゼマ(中央)とともに、右ウイングとしてFWの一角を占めたかに見えた。

 しかし、彼は以前からそうであるように、サイドに居心地のよさを見出せないタイプだ。そこがアザールとの違いでもあるが、気がつけば内に入り込み、トップ下あるいはインサイドハーフ的なポジションを取っていた。

 しかしこの日、レアル・マドリードの右サイドがサイドバック(SB)のダニエル・カルバハル1人になることはなかった。4-3-3の右インサイドハーフとして先発したフェデリコ・バルベルデが外寄りのポジションを取り、カルバハルの前方をカバーしたからだ。

 ルカ・モドリッチではなく、ウルグアイ代表の21歳をジネディーヌ・ジダン監督が先発起用した理由は、イスコの先発出場とセットになっていたと思われる。イスコとモドリッチが近距離で構えれば、お互いのよさは相殺される。と同時に、右サイドに穴ができる。そこで数的不利を招く。

 試合をレアル・マドリードが優勢に進めた理由は、イスコと同時にバルベルデも活躍したからだ。それを象徴するようなシーンが17分に挙げた先制点のシーンだ。

 まず、アザールが光った。左ウイングの位置でボールを受けると、相手の守備的MFマルキーニョスの激しいマークを、身体をローリングさせるように反転させながらかわすと、右で構えるバルベルデに展開した。その背後を走るカルバハルにいったんボールを預けたバルベルデは、その前方をそのまま走り、鼻先でリターンパスをもらう。

 そのマイナスの折り返しパスを受けたイスコがシュートに及び、ボールが左ポストに当たり跳ね返るところをベンゼマがインサイドで仕留める--という展開は、ベンチの狙いが現実化した瞬間だったと思われる。

 この一戦は開幕戦(第1節)のリターンマッチでもある。この時はホームのPSGが3-0で完封している。内容はスコアより競った関係にあったが、レアル・マドリードの状態はこの時より格段によくなっていた。

 アザールがチームに馴染んだことも見逃せないポイントだ。左にいい感じで収まることができている。かつてのアレッサンドロ・デル・ピエロを、さらに滑らかにしたようなその高級な動きが、ベンゼマの動きを楽にさせ、能力を発揮しやすくさせている印象だ。

 後半34分、レアル・マドリードが挙げた2点目は、マルセロのクロスに反応した、そのベンゼマのヘディングシュートだった。起点となったのはその2分前、バルベルデと交代でピッチに入ったモドリッチ。真ん中から右足アウトで浮き球をトップ下付近で構えるイスコに送球。これをイスコがヘディングで流して、マルセロにつなげたわけだが、この得点シーンには逆に危ういムードも潜んでいた。

 バルベルデとモドリッチが交代したことで、イスコとモドリッチが真ん中で縦関係に並ぶことが多くなったからだ。レアル・マドリードの右サイドは、カルバハル1人になっていた。

 少なくともここまでは、スコアこそ2-0ながら、3-0でもよさそうなレアル・マドリードの完全なペースだった。ところが嫌な予感は的中、その完勝ムードは瞬く間に打ち砕かれることになった。その2分後、後半36分、トマ・ムニエのクロスをGKティボー・クルトワトとラファエル・ヴァランがお見合いするような形になり、そのこぼれをキリアン・ムバッペに押し込まれ1点差にされる。

 ジダン監督はまさにその直後、イスコを下げて右ウイングにロドリゴを投入。崩れたバランスを立て直そうとしたが、いったんPSGに傾いた流れは止まらなかった。1点差に詰められた2分後、交代で入ったパブロ・サラビアに、同点弾を叩き込まれてしまう。

 そのサラビアにゴールをもたらしたのは、左SBフアン・ベルナトの折り返しだった。ベルナトが左サイドの高い位置に進出することができなかったことが、この試合ここまでPSGが苦戦した要因のひとつだった。その前方で構える快足ムバッペは孤立気味になり、満足な活躍ができなかった。レアル・マドリードの右サイド、バルベルデとカルバハルのコンビがよかったことを示す事象になる。

 両チームの差は基本的にはかなり接近した関係にある。80分までレアル・マドリードが2-0でリードしても、バランスが少し乱れると、それに乗じてPSGが本来の力を発揮する。間違いが一切、許されないムードが伝わってきたという意味で、この試合はハイレベルな一戦だった。そしてその関係が乱れると、一気に同点まで行ってしまう。これもまたハイレベルな試合だったことの証明になる。試合後、頭を抱えたのはジダン監督の方だろう。

 とはいえ、前節すでにグループ突破を決めているPSGに続き、レアル・マドリードもこの引き分けで突破を決めた。CL3連覇を達成し、ひと休みした感のある昨季より、期待は持てそうだ。

 一方、毎度優勝候補に挙げられながら、過去7年、最高位がベスト8に甘んじているPSGはどうなのか。その上を目指すなら、後半の頭から今季CL初出場を飾ったネイマールの爆発が欠かせない条件になる。この試合では1トップ下で出場したものの、プレーはいまひとつ。左サイドの方が適役ではないかと思うが、そこにはムバッペがいる。どこにどうきれいに収めるのか、注目したい。