日本で初開催となったスーパーGTとDTMの交流戦 11月23日、24日、ヨーロッパで高い人気を誇るドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)のワークスマシンとドライバーが日本に上陸し、富士スピードウェイでスーパーGT勢 との夢の対決が実現し…



日本で初開催となったスーパーGTとDTMの交流戦

 11月23日、24日、ヨーロッパで高い人気を誇るドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)のワークスマシンとドライバーが日本に上陸し、富士スピードウェイでスーパーGT勢 との夢の対決が実現した。

 世界を代表する自動車メーカーが参戦する両シリーズは、2010年頃からマシンの規格を共通化させ、新たなグローバルイベントを開催するための話し合いを続けてきた。そして今年、マシンの規格がほぼ統一され、ついに本格的な交流戦がスタートした。

 まずは10月上旬にドイツのホッケンハイムで初めてのイベントが開催され、この時には日本からレクサス(トヨタ)、ホンダ、ニッサンの3メーカーの各マシンが1台ずつ送り込まれ、DTMのフォーマットに則って土曜日と日曜日の2日間にそれぞれ約1時間のスプリントレースが行なわれた。

「ホッケンハイムでの交流戦では日本のスーパーGT勢はお客さん扱いで、まともな勝負になりませんでした。でも今回の富士で、ようやくDTM勢と本当の意味で”交流”ができたと感じています。とくに僕が出場した日曜日のレースでは抜きつ抜かれつの激しいバトルがいたるところで見られ、派手なクラッシュもあり、エキサイティングなレース展開になりました。きっとお客さんは喜んでくれたと思います」

 そう語るのは、LEXUS TEAM KeePer TOM’Sの平川亮だ。2017年に史上最年少でスーパーGTのチャンピオンに輝いた平川はホッケンハイムで行なわれた史上初の交流戦にスーパーGTの一員として参戦した。

 しかし、日本勢は敵地ホッケンハイムで初めて使用するハンコック製のワンメイクタイヤに苦しめられる。さらにスーパーGTのマシンにはDTMが採用しているDRS(可変リアウイング)と、燃料流量を一時的に増やしてパワーアップする”プッシュ・トゥ・パス”のシステムが備えられていなかったこともあり、日本勢はホンダのNSX-GTをドライブしたジェンソン・バトン9位が最高位という惨敗に終わった。

 それでも日本勢はホッケンハイムでのデータを分析し、短い期間でタイヤの特性を理解し、マシンの調整をしてきた。その結果、今回の富士での交流戦では土曜日と日曜日の両レースともに日本勢が優勝を飾り、雪辱を晴らすことになった。

「ホッケンハイムでは事前にタイヤに関する情報がほとんどなくて、タイヤの使い方がわからない状態で予選を迎えることになってしまいました。DTMのタイヤはとにかく硬いし、サーキットのミュー(摩擦力)も低いので、タイヤが路面を全然グリップしてくれなかった。まるで氷の上を走っているようなイメージでした。

 でも、その苦い経験やデータをもとにチームが研究を重ねて、タイヤに合わせたマシンを作ってくれました。それに富士は路面のミューも高いですし、僕らにとっては庭のようなものです。また予選前に練習走行の時間がかなりあったので、タイヤに慣れる時間が十分にありました。



熾烈な争いのレースが次回も開催されるのか注目される

 おそらく現在の状態でホッケンハイムに行けば、10月のような一方的な結果にはならなかったと思います。もちろんDRSと”プッシュ・トゥ・パス”を使わないことが条件になりますが、DTM勢とかなりいい勝負ができると思います。ドライバーとしては、これからもDTM勢とガチンコの勝負をしたいですね」(平川)

 土曜日のレースを制した平川のチームメイト、ニック・キャシディも「スーパーGTとDTMのドリームレースが実現して本当にうれしい。交流を増やしてどんどん走り込んでいけば、それに伴ってタイムもどんどん接近し、バトルが増えていくと思う。DTMにはすばらしいドライバーとメーカーがそろっているので、彼らと一緒に走る機会がもっと増えていくことを願っているよ」と語っていたが、ドライバーたちからは今後もスーパーGTとDTMの交流イベントを続けてほしいという肯定的な声が相次いだ。

「同じルールで戦う自動車メーカーが増えれば単純にお客さんはいろんなマシンが見られて楽しいだろうし、スタートもすごく迫力があり、さらにシリーズの魅力が増えると思います。それで日本のドライバーたちが海外で戦う機会が増えれば、これからレーシングドライバーを目指す子供たちにとっても世界で活躍するという夢や可能性が広がっていくと思います。そのためにも両シリーズの交流をもっと深めていってほしい」(塚越広大/KEIHIN REAL RACING)

「日本とヨーロッパのドライバーがお互いにプライドをかけて臨んでいるので、僕自身もファンのみなさんも楽しめたと思います。ただ交流戦を経験して、あらためてスーパーGTのフォーマットはすごくよくできていて、楽しいと感じました。最上位のGT500と300クラスのマシンが混走しており、常にバトルがあります。さらに各メーカーによるタイヤの開発競争もあるので、レースの展開が大きく変わりやすい。やっぱりワンメイクタイヤだと、なかなか展開が動きづらいと痛感しました。でも、こういう交流はすばらしいと思いますので、これからも続けていってほしいです」(山本尚貴/TEAM KUNIMITSU)

 ただ、今回のレースに携わる全員が諸手をあげて賛成しているわけではない。あるチーム関係者からはこんな声が聞かれた。

「レースは面白かったと思いますが、メーカーやチームにはかなり負担がかかっています。正直、今回のレースはチームの持ち出しのような形になっています。例えばレース2では大きなクラッシュがありましたが、誰かがマシンを修理しないといけないんです。その費用を誰が負担するのか。全力で戦うからには、出場するメーカー、チーム、ドライバーにきちんとしたメリットや保証がないと続けられないと思います」

 もちろん、そのあたりの課題はスーパーGTとDTMのトップも十分に理解している。スーパーGTを運営するGTアソシエションの坂東正明代表は「今、我々はモータースポーツの新しい歴史を作っています。今回の交流戦が実現し、そのベースができましたが、あくまでも今日がスタートです。これからレギュレーションを含めていろんなものを決めて、しっかりとした形にしていかなければいけないと思っています」と語っていた。



握手を交わすスーパーGTの坂東代表(左)とITR社のベルガー氏

 一方のDTMを運営するITR社のチェアマンを務める元F1ドライバーのゲルハルト・ベルガーも「歴史的な一歩を記せたが、将来に向けての話し合いの必要がある」と素直に認めていた。

「今回の交流戦はスポンサーの協力なしでは実現できなかった。マシンやレース装備の輸送を含め、いろんな課題をひとつずつクリアしてレースの実現にこぎつけた。これは我々にとって第一歩であるが、まだまだ解決しなければならないポイントはたくさんあると理解している」

 スーパーGTとDTMが一緒になって世界規模の新たなGTカーのシリーズを立ち上げるという夢への第一歩が富士スピードウェイで確かに記された。そして日本とヨーロッパのドライバーとチームがすばらしいバトルと興奮をもたらし、大きな可能性を見せてくれた。来年の日程や開催場所などはこれから検討するとのことだが、「この夢の続きを見たい!」という多くのファンや関係者の思いが実現することを願ってやまない。