秋の学生野球のビックイベント・明治神宮野球大会。高校の部は中京大中京(愛知)、大学の部は慶應義塾大が制して11月2…
秋の学生野球のビックイベント・明治神宮野球大会。高校の部は中京大中京(愛知)、大学の部は慶應義塾大が制して11月20日に閉幕した。
6日間の大会日程のうち5日は高校と大学が同日に試合をするため、高校野球ファンと大学野球ファンが神宮球場にやってくる。とくに大学の部目当てのファンは、服装でわかる。日が落ちて晩秋の寒風にさらされても耐えられるように、厚手のアウターで「完全防備」をしているからだ。
高校に比べると注目度が低く感じられる大学の部だが、それでもスタンドをざわつかせた個性派選手は数多く登場した。今回はとくに目立った、3年生の3選手に絞って紹介していこう。

日本代表の4番を目指したいと語る東海大札幌の主砲・赤尾光祐
近年、強力なチームを作り上げてくる東海大札幌(札幌学生リーグ)で異彩を放ったのは、主砲の赤尾光祐(あかお・こうすけ)である。身長181センチ、体重92キロの厚みのある肉体から、強烈なスイングを繰り出す右の強打者だ。
名門・東海大相模(神奈川)出身だが、2年夏に全国制覇した際は背番号18で甲子園での出場機会はなし。高校3年時に東京六大学の名門大のセレクションに落ち、「前監督の高橋(葉一)さんに『ウチで(落とした大学を)倒そう』と言ってもらったので」と北海道に渡ることを決意した。
3年秋までにリーグ通算11本塁打を放ち、大学日本代表候補合宿には2年冬、3年春と2回招集され、今冬の招集も決まっている。
明治神宮大会では初戦で大阪商業大と対戦。先発した大西広樹(ヤクルト4位)のフォークに反応してレフト前に先制タイムリーを放つと、2番手の橋本侑樹(中日2位)にはチェンジアップで2三振を奪われたが、最終打席で内寄りのカットボールをうまくとらえてセンターへのタイムリーヒットを放った。プロに進む投手が相手であっても「やってきたことをやれば打てると思いました」と、ひるみはなかった。赤尾の2打点を守り切った東海大札幌は、初戦を突破した。
赤尾の打球は音からして違う。インパクトの瞬間に大きな爆発音が球場に響き渡る。意識していることは「体のなかで打つこと」。自分の間合いまでボールを呼び込み、赤尾の言葉を借りれば「上半身と下半身で逆の動きをして、雑巾を絞るみたいなイメージ」でスイングする。このスイングを身につけるため、関節の柔軟性や下半身の筋力を高めてきたという。
存在感を示した初戦とはうって変わって、続く2回戦・慶應義塾大戦では赤尾は3打数0安打2三振と沈黙した。試合後、赤尾は「完全に力負けです」と完敗を認めた。2年前の大学選手権準決勝では立教大にも敗れており、「六大学との力の差を痛感しました」と肩を落とした。
それでも、赤尾にとっては11月末から愛媛・松山で開かれる大学日本代表候補合宿という勝負の舞台が残っている。報道陣から合宿への意気込みを問われた赤尾は、決然とこう答えた。
「大学ジャパンの4番になることは、大学に入ってずっと目標にしてきたことです。日の丸の4番になった選手が、高い確率でドラフト上位指名を受けてプロに進んでいるのを見てきているので」
北国の大砲・赤尾は3度目の候補合宿でも、力強いフルスイングでアピールするつもりだ。

高速チェンジアップが武器の城西国際大のエース・中島隼也
今春の大学選手権ではベスト8、秋の明治神宮大会ではベスト4と躍進したのは、城西国際大(千葉県大学リーグ)である。立役者はエース右腕の中島隼也だ。
中島は決して驚くような速球を投げるわけではないが、巧みな投球術で相手打線をかわしていく。とくに効果的なのは、速い球速帯ながら大きな落差で沈むチェンジアップ。もはや大学球界では「中島といえばチェンジアップ」というイメージが定着しつつある。
千葉市シニア、仙台育英と通じて1学年先輩だった郡司裕也(慶應義塾大→中日4位)と大会期間中に対面した際、中島は「高速チェンジアッパーの中島じゃん」と声をかけられたという。
チェンジアップは高校3年春から投げ始めたが、空振りが取れるまで威力を増したのは、大学に入ってからだという。
「握りは人差し指と薬指で挟んで、中指は軽く添えるだけ。握りは高校時代から変えていないんですけど、今までテークバックで右ヒジが下がりがちだったのを上げるようにしたら、よく落ちるようになりました」
明治神宮大会では初戦の広島経済大(広島六大学リーグ)戦に先発登板。だが、チェンジアップを警戒され、さらに「ストライクからボールになる球を投げたかったのに、最初からボールだった」と制球に苦しんだ。最終的に完投勝利をあげたものの、球数は182球も要してしまった。試合後、中島は「さすがに球数が多すぎて疲れました」と苦笑いを浮かべた。
課題はストレートの球威だと自覚している。それでも、今年に入ってから体重を約6キロ増やし、「スピードは上がってきています」と手応えを深めている。さらに球威がアップすれば、チェンジアップの効果もさらに増す。
最終学年に一皮むければ、高速チェンジアッパー・中島はドラフト戦線に名乗りをあげるはずだ。

唐津商時代には甲子園を経験している九州産業大の谷口優成
大会2日目(11月16日)、九州産業大(福岡六大学リーグ)対金沢学院大(北陸大学リーグ)の6回裏、マウンドに上がった右腕が投球練習を始めると、にわかにスタンドがどよめき始めた。
九州産業大の谷口優成はセットポジションから上体を一塁側に大きく反らして投球動作に入る。キアヌ・リーブスも驚くであろう「マトリックス投法」から最速143キロを計測する変則右腕なのだ。
唐津商(佐賀)時代の3年夏には、エースとして甲子園に出場している。ただし、当時は上半身というより、軸足の右足を急に伸ばす動きのほうが特徴的で「ピクピク投法」「カクン投法」などと言われた。当時、唐津商の吉冨俊一監督は谷口のフォームについて、こう語っている。
「谷口はもともと伸び上がるクセがありまして、伸び上がることを『我慢しろ』と伝えていたのですが、どうしても右ヒザが伸びることが改善できませんでした」
大学進学後、谷口は自分のフォームを変えようと考えていた。「変則ではなく、自然な形にしたかった」という谷口だったが、九州産業大の大久保哲也監督から「そのままのほうがいい」と助言を受ける。変則フォームを自分の特長として生かすべきだと説かれたのだ。
それ以来、谷口は「フォームについて考えないようになりました」という。だが、本人も無意識のうちに、フォームはどんどん大胆に変容していった。いつしか、上体を大きく反らす今のフォームに行き着いた。打者からは「タイミングが取りづらい」と評されたが、谷口としてはその効果は「狙ったわけじゃない」という。
「本当はもっと違うふうにしたかったんですけど、うまくできなくて……。それでどんどん変わっていったという感じです」
チーム内やリーグ内では、もはや谷口のマトリックス投法は日常的な光景になっている。だが、全国大会ともなるとそうはいかない。今春の大学選手権は東京ドームで、明治神宮大会では神宮球場で、谷口がマウンドに立つたびにスタンドは騒然となった。谷口は登板後、「(スタンドの反応は)投げづらさはありましたけど、気にしないようにしました」と苦笑交じりに打ち明けた。
金沢学院大戦はわずか1イニングの登板で、チームも敗れた。にもかかわらず、試合後には多くのメディアが谷口を取り囲んだ。質問攻めを受けながら、谷口は終始困惑した表情を浮かべているように見えた。なにしろ、谷口としては狙って変則投法をしているわけでも、目立とうとしているわけでもないのだ。
今春の大学選手権では142キロをマークしたものの、神宮大会は「本調子になる前に(出番が)終わってしまいました」と本来のスピードは出なかった。来季は厳しい競争を勝ち抜き、主力投手として長いイニングを投げられるか。谷口は「まだ体重が軽いので、もっと増やして球速を上げたい」と課題を語った。
大学野球といえば歴史のある東京六大学リーグが花形だが、全国各地でさまざまな個性を持った大学野球選手が熱戦を展開している。柳田悠岐(ソフトバンク)は広島経済大、菊池涼介(広島)は中京学院大、秋山翔吾(西武)は八戸学院大の出身。いわゆる「地方リーグ」で腕を磨いた個性派だった。そんな未来の逸材予備軍を発掘しに、大学野球の試合に足を運んでみてはいかがだろうか。
そして来年の明治神宮大会を観戦しようと考えている野球ファンには、ぜひ厚着をして夜まで野球観戦することをお勧めしたい。