横浜F・マリノスが、ついに首位を捉えた。 J1第32節、前節終了時点で首位に立っていたFC東京が、湘南ベルマーレと…
横浜F・マリノスが、ついに首位を捉えた。
J1第32節、前節終了時点で首位に立っていたFC東京が、湘南ベルマーレと1-1で引き分け。その一方で、2位の横浜FMは、松本山雅に1-0で勝利した。
この結果、勝ち点3を手にした横浜FM(勝ち点64)は、勝ち点1を加えるにとどまったFC東京(勝ち点63)をかわし、今季初めて首位に立った。

仲川輝人(中央)のゴールで勝利した横浜F・マリノス
「すばらしい試合だった」
横浜FMを率いるアンジェ・ポステコグルー監督が口にした賛辞は、大袈裟でも何でもない。横浜FMは終始ボールを支配して試合を進め、ボールを失っても、素早い守備への切り替えと力強いプレスで、すぐにボールを奪い返した。松本に攻撃らしい攻撃をさせない理想的な試合展開を振り返り、ボランチのMF扇原貴宏が語る。
「(相手を敵陣に)押し込めていたし、(選手同士の)距離感もいいので、ボールを失う場所がよかった。(攻撃から守備へ)切り替えやすかった」
松本の反町康治監督も、「(選手は)最後までファイティングポーズをとってやってくれた」と選手を称えつつ、「だが、最終的にゴール近くまでいける回数が多かったかというと、そうではなかった」と、完敗を認めるしかなかった。J1優勝を争うチームと、J2降格を免れることに必死なチームとの間に、埋めがたい力の差があったのは間違いない。
しかしながら、実力差がそのままスコアに表れるとは限らないのが、サッカーの面白さであり、怖さである。
シーズン終盤まで優勝を争うほどのチームであれば、下位チーム相手に互角以上の内容で試合を進めること自体、それほど難しいことではないだろう。だが、最終的に勝利を手にできるかどうかは、また別の話だ。
事実、FC東京は、J2降格がちらつく湘南を相手に得点が奪えず、苦しんだ。終了間際の同点ゴールでどうにか追いついたが、勝ち点1を確保するのが精いっぱいだった。
また、3位につける鹿島アントラーズにしても、サンフレッチェ広島から1点が奪えず、スコアレスドローに終わっている。
勝ち切るためには、ゴールが必要。さりとて、優勝争いのプレッシャーがかかる試合で、ゴールするのはたやすいことではない。いかに優勢に試合を進めようとも、決め手に欠ければ、勝利を手にすることはできない。
その点――決め手があるか否かにおいて、今の横浜FMの力は、優勝を争うチームのなかでも抜きんでていると言っていい。
その決め手とは、言うまでもなく、FW仲川輝人。彼の決定力は現在、J1最強と評してもいいほどだ。”奪首”を遂げた松本戦で勝負を決めたのも、またしても小柄な背番号23だった。
キックオフ直後の2分、仲川は右サイドに開き、DF松原健からのパスを高い位置で受けると、中央へ向かってドリブルを始めた。端から突破を狙ったものというより、相手の出方をうかがうような、ゆったりとしたドリブルだった。
ところが、「松本は(守備にかける)人数が多い分、誰が(ボールへ)いくのか、はっきりしない。マルコス(・ジュニオール)も動き出してくれるので、相手も迷う」と仲川。背番号23がスルスルとペナルティーエリアに近づいていくのに合わせ、FWマルコス・ジュニオールがDFラインの裏を狙って走り出すと、仲川も小さなキックフェイントで、スルーパスをちらつかせる。
はたして、狙いを定められない松本DFの足が止まった瞬間だった。仲川は目の前に開けたシュートコースを見逃さず、左足をひと振り。ボールはきれいにゴール左スミへ吸い込まれた。
「早い時間だったので、シュートで終わろうかな、と」
仲川はこともなげに話していたが、開始早々にして松本に引導を渡す、電光石火の一撃だった。
今季14ゴール目を決めた仲川は、これでJ1得点ランキングでも2位タイに浮上。ポステコグルー監督も「ウイングでありながら、あれだけのゴールを奪える。いいゴールを決めてくれた」と称える快速FWは、チームメイトにしてランキングトップのマルコス・ジュニオールに1ゴール差と迫った。今、Jリーグで最も旬な男は、チームの優勝とともに、自身の得点王獲得も射程圏内に捉えている。
とはいえ、彼らが目指すものは、チームとしての優勝以外にはない。得点王への最短距離にいるマルコス・ジュニオールも、「チームプレーだけを意識している。チームのためにプレーしたい」と言い、「まだ何も決まっていない。地に足つけて、次の試合に集中することが大事だ」と、気を引き締める。
チームとしての約束事を最優先に、選手それぞれが自分たちの役割を完遂する。その姿勢が、結果として個々の活躍をも際立たせる。そんな好循環が、今の横浜FMには生まれているようだ。
これで、チームは5連勝。15シーズンぶりのJ1制覇へ向け、ラストスパートは加速する一方だ。
もちろん、今季初めて首位に立ったことで、少なからず心理的な変化が生まれるだろう。追うものの強みは、FC東京の手へと移った、とも言える。
「まだ誰も満足していない。次の試合に向けて、最高の準備をするだけ。(首位に立っても)何も変わらない。変なプレッシャーはない」
キャプテンのMF喜田拓也は、そう言い切る。だが、はるか15年前の歓喜など知る選手は一人もいないチームだけに、こればかりはやってみなければわからない。まして、最終節ではFC東京との最終決戦が待っている。残る2試合は、これまでの32試合とはまったく異なる空気に包まれるはずだ。
それでも、極端なまでにボールポゼッションに偏ったスタイルを貫いてきた指揮官が、考えを変えることはない。
「自分たちのサッカーができるかどうかのプレッシャーはあるかもしれないが、優勝争いは関係ない。自分たちのサッカーをすることに集中している」
シーズン途中には、主力選手を負傷で失うこともあった。その一方で、新たに移籍加入する選手もいた。選手が入れ替わるなかで、フォーメーションも「アンカー+インサイドMF2枚」から「2ボランチ+トップ下」へと、中盤の構成に手が入れられた。シーズンを通し、常に攻撃の中心的役割を担ってきたマルコス・ジュニオールが振り返る。
「(選手が入れ替わるだけでなく)システムが変わり、戦い方も変わっていくなかで、難しさはもちろんあった。だが、順応するのは早かった」
それが可能になったのは、ポステコグルー監督が一貫した哲学で築いてきた、ベースがあったからだろう。
自分たちのサッカーができているか――。目指す目標さえ最後まで見失わなければ、望むタイトルは自ずと手中に収まるはずである。