スペインで最も成功したサッカー選手の一人ジェラール・ピケの発案でフォーマットを変更し、論争を巻き起こした「デビスカップ」決勝ラウンド(スペイン・マドリード/11月18日~ 24日/室内ハードコ…

スペインで最も成功したサッカー選手の一人ジェラール・ピケの発案でフォーマットを変更し、論争を巻き起こした「デビスカップ」決勝ラウンド(スペイン・マドリード/11月18日~ 24日/室内ハードコート)に空席が目立つ。これについて、ピケは投資を約束した30億ドル(約3,260億円)がオウンゴールとならないことを願っていると、米ニュースメディアKOAM News Nowが伝えている。

新フォーマットを採用した「デビスカップ」について、「全仏オープン」ベスト4の経験を持つフィリップ・デブルフ(ベルギー)が、ガラガラの客席の写真と「こっち側の客席には15人しかお客さんがいない」というコメントをベルギー対コロンビア戦の前にツイートしたことに対し、ピケが反論。「本当に15人?」と大勢が映っている写真を、泣き笑い顔の絵文字を数個つけて返信した。

だが、話はそこで終わらなかった。女子の国別対抗戦「フェドカップ」で優勝したばかりのアリゼ・コルネ(フランス)も「ジェラール、あなたが本物の“デビスカップ”に行ったことがないって分かるわ!本物はそんなじゃないから」と話題に参入。「フェドカップ」も来年4月にブダペストで開催される大会から1週間のイベントに変更される予定になっている。

もはやデビスカップではない

「デビスカップ」新フォーマットに対し、最も強く抗議しているのはアレクサンダー・ズべレフ(ドイツ)だ。彼は「このフォーマットでは、もはや“デビスカップ”とは呼べない。ホーム&アウェイでこそ“デビスカップ”なんだ。分かって欲しいんだけど、“デビスカップ”は賞金とか賞品とかのためだけにやる大会じゃないんだ。100年以上続くテニスの歴史なんだ」と、「Nitto ATPファイナルズ」でレポーターに話していた。ズベレフは旧フォーマットと同じホーム&アウェイ方式の予選1回戦を母国のために戦ったが、決勝ラウンドへの出場は辞退している。

ゲームのジェンガのように

だが最も著名な反対者は、テニス界で最大の人気を誇るロジャー・フェデラー(スイス)だろう。彼は2015年以来「デビスカップ」に参加しておらず、出場予定もない。フェデラーは2018年の「全米オープン」で、記者達に「サッカー選手がやって来て、テニスビジネスにお節介を焼くのはちょっと変だと思ったよ」と話していた。

「“デビスカップ”は“ピケ・カップ”になってはいけない」とフェデラー。「僕はイノベーションには賛成する方だし、我々のスポーツ、テニスも既成概念から改革していくことは必要だと思うよ。でもそれは、ジェンガのように慎重にやるべきで、そうでないとビル全体を一気に倒してしまうようなことになる」

実はズベレフのマネージメントはフェデラーのマネージメント・カンパニー「チーム8」が行っており、2人はこのオフシーズンに一緒にエキシビションツアーに出場している。「チーム8」は「ヨーロッパ対世界」という形の団体戦「レーバー・カップ」をスタートさせた会社であり、そのイベントはファンから大きな支持を得た。「レーバー・カップ」の開催が9月というのは、タイミング的にも現在の「デビスカップ」決勝ラウンドの11月より好ましい。11月は10ヶ月以上に渡るシーズンがようやく終わり、選手達の目が半分休暇に向いてしまっている時期だからだ。

さらに、2020年1月初旬には賞金総額1,500万ドル(約15億円)の「ATPカップ」がオーストラリアで初開催される予定になっている。こちらは、テニスの予定がぎっしり詰まった一年の中で、「全豪オープン」への準備と位置付けできる悪くない時期を確保している。しかし、フェデラーはこれにも不参加を表明し、開催者に打撃を与えている。

「デビスカップ」と「ATPカップ」、短期間に似たような大会を2度行うのは、理想的とは言い難い。一ついいことをあげるなら、男子テニス界のレジェンドであり、最近は破産で話題になっているボリス・ベッカー(ドイツ)は「Nitto ATPファイナルズ」の場で、「多くの人がテニスに参入したがり、大会を開催したいと望み、莫大なお金が投じられている。これはいいニュースだよ」と語っている。

2つのイベントを1つに

ピケは「完璧な筋書きは、2つのイベントを1つにまとめることだろう。テニス界でこの2つのイベントを両立させることが可能なのかは分からないが、過去を見るとそれは起こりえる。前から言っているけれど僕の考えは、ATPとオープンに話し合って1つの合意にたどり着くこと。それが将来的に最も論理的なステップだと思うし、この1年彼らと真剣に交渉してきた」と、英Observer紙のインタビューで語っている。

彼は、ATP会長のクリス・カーモード氏が今年いっぱいでその職を退くことが交渉を難しくしていると付け加えた。カーモード氏は投票で辞任が決まっており、後任にはアンドレア・ガウデンツィ氏が就任する。ピケは「これは我々にとってチャンスとなるのではないかと考えている。新しい会長が就任すれば、また新たな話し合いをすることになるから。これはテニスの未来にとって最良のことなんだ」

その後、「デビスカップ」決勝ラウンドへの観客数は増加したようだし、ラファエル・ナダル(スペイン)率いる地元スペインチームが長く勝ち残れば、盛り上がりも増すだろう。四大大会を3度制したアンディ・マレー(イギリス)は英デイリーメイル紙のインタビューで語っている。「テニス界で変革を起こすのは簡単じゃない。でも僕はこれが成功すればいいと思う。選手もファンも、チャンスを与えて欲しい。この大会が終われば、もっとはっきりどうすべきかわかるだろう」

(テニスデイリー編集部)

※写真は「デビスカップ」で応援する観客

(Photo by Alex Pantling/Getty Images)