11月21日、札幌市内のホテル。グランプリ(GP)シリーズNHK杯開幕前夜、出場する日本人選手たちが壇上で記者たちの質問に答えていた。羽生結弦(24歳)、島田高志郎(18歳)、山本草太(19歳)の男子選手が横に並んだ。NHK杯のショー…

 11月21日、札幌市内のホテル。グランプリ(GP)シリーズNHK杯開幕前夜、出場する日本人選手たちが壇上で記者たちの質問に答えていた。羽生結弦(24歳)、島田高志郎(18歳)、山本草太(19歳)の男子選手が横に並んだ。



NHK杯のショートプログラムで7位の山本草太

――山本選手への質問で。羽生選手に昔から憧れていたそうですが、同じ舞台で戦うことについては?

 その後も、記者は続け、「羽生選手のどこに憧れ、何を学び、それについて羽生選手はどんな声をかけてあげるのか」など質問が少し長くなった。

 そこで羽生が「今は憧れていない?」というようなことを冗談で言い、その場に笑いの渦が生まれたあとだった。山本は何を聞かれたのかわからなくなって、「なんでしたっけ?」と答えに詰まる。緊張していたのかもしれない。それを横にいた島田が、小声で楽しそうに説明した。すでに海外を拠点に活動している島田は、そういう場所で話すことにも慣れているのかもしれない。

「そうですね、言い出したらきりがないですが……」

 山本は訥々と語った。真面目な性格なのだろう。

「試合で、あの構成を完璧にこなすのは難しいと思うし、どの試合でもそれをやって。(羽生は)すごい努力をしているんだと思います。自分は戦える立場ではない」

 島田はその話をニコニコとしながらも、頷くように聞いていた。

 そして羽生が、まだシニア経験の浅いふたりに諭すように語った。

「(シニアデビューの時は)控室で足が震えていました。4回転を初めて降りた思い出があったり、でも、(当時は)体力はなくて。シニアの試合だから感じることがたくさんありました」

 ふたりは、神妙に聞いていた。 彼らにとって、羽生という「巨大な星」は、目印になるのだろう。たとえ、それがあまりに眩しい光を放つ星だとしても。

 NHK杯、山本も島田も、ショートプログラム(SP)では納得のいく演技にはなっていない。首位に立った羽生には30点以上、水をあけられた。しかし、それぞれが自分の競技に向き合っているようだった。

 山本は4番目の滑走だった。冒頭、4回転サルコウ+3回転トーループの大技を成功。躍進の気配が漂った。しかし2本目の4回転トーループが2回転になって、得点がつかない。その後も、トリプルアクセルの着氷が乱れた。

「気持ちだけでは、どうにもならないことがあって。練習の平均的な内容がそのまま試合に出るんで。だから、練習からノーミスでできるようにならないと」

 山本は言葉を振り絞るように言った。

「演技全体は前向きにできていました。(冒頭で)サルコウがうまく入って、いい動きができていて、気持ち的には悪くなかったと思うんです。でも、4回転トーループは結果的にできていないので。トップの選手は、得点源のジャンプをパンクさせるようなミスをしない。(この舞台で戦うために)最低限のことができていないと思います。GPシリーズは2戦目で、まだまだ経験が足りないなと」

 74.88点で7位でのスタートになった山本は、そう言って反省しきりだった。あるいは自分を追い込み、気負いすぎているのか。しかし真剣に向き合うことは、彼の性質なのだろう。自分のスタンスで、技を極めるはずだ。

 一方、島田はショートの6分間練習では、動きが冴えていた。気持ちが入っていたのだろう。その勢いで、冒頭のトリプルアクセルを成功させ、GOE(出来ばえ点)も稼いだ。

 しかし、4回転トーループでは転んでしまう。それだけではない。終盤のステップで転倒。それはあまり見られない光景だった。

「”え、自分は何をしたんだろう?”というくらい予想外の転倒でした。(キス&クライでも)ステファン(・ランビエールコーチ)に、『なにしてんの?』って何度も肩を叩かれましたね」

 島田はそう言って、抑揚のある高い声で説明した。

「貪欲に上を目指していたので、正直、悔しいです。結果として、完璧には程遠い。練習が足りないですね。試合の緊張に負けてしまった。まだまだメンタルが弱いというか。トップの選手は、練習で5本ジャンプを跳んで、3本の成功したイメージを焼き付けられる。でも、自分は失敗した2本のほうが残ってしまって。そこはまだ課題だなと思います」

 得点は75.98点と6位でSPを終えた島田は後悔を口にしたが、明るく楽観的だった。そしてフリーに向けてこう続けた。



NHK杯のショートプログラムで6位だった島田高志郎

「みなさんに楽しんでもらえるように。そのためには、まず自分自身が演技を楽しまないといけない。とくに直すところはなくて、集中を高めていきたいです」

 にこやかに笑う島田は、少しの邪気もなかった。頬は赤く染まっていた。

 ふたりは、次世代のフィギュア男子を引き継いでいかなければならない。羽生という星までは遠いはずだが、ふたりにはふたりの歩み方がある。人生が投影されるスケーティングは、必然的に彼ら自身のものになるはずだ。

 11月23日、真駒内アイスアリーナ。フリーで、彼らは火花を散らせる。山本は第1組の5番目、島田は第2組のトップとなる7番目に滑走となる。