文=神高尚 写真=Getty Images

チームオフェンスと噛み合うことで存在価値が高まる

開幕からここまで1試合平均25.5得点を稼いでいるデビン・ブッカー。昨シーズンも26.6点、2シーズン前も24.9点と、まだ23歳ながら得点ランク上位が定位置となっています。その非凡なシュートセンスのおかげで、ディフェンスがどんなに良い形で守ってもタフショットを決めてしまい、自分のリズムをつかんだらアンタッチャブルなスコアラーです。

しかし、その得点力はチーム成績にはあまり影響を与えず、NBA史上で6人しか達成していない1試合70点を記録した試合でさえチームは敗れました。

今シーズンは新ヘッドコーチに多くのチームから引き合いのあったモンティ・ウィリアムスを迎え、ポイントガードにはリッキー・ルビオを補強。デアンドレ・エイトンを出場停止で欠きながらも7勝4敗と開幕ダッシュに成功しました。過去2シーズンと同じように得点を奪っていますが、それがチームの成績に繋がるようになったのが変化です。

今シーズンのブッカーの最大の特徴は3ポイントシュート成功率が50%を超えていること。一見するとシュートの好調さで得点を奪っているようですが、高確率ながらアテンプト数は減っており、タフショットを減らしてオープンな状況を確実に決めるシュートチョイスの良さが目立っています。

これまでのブッカーは「自分がエースとして得点を奪う」という気持ちの強さゆえ、ボールを持ったらシュートを打つことを前提にプレーしていました。それは今シーズンも同じではありますが、大きく違うのは『まずはボールをもらってから⇒シュートに行く』から『シュートを打つために⇒ボールをもらう』への変化です。パスを受ける前にしっかりと自分に優位な状況を作る、チームオフェンスが機能しています。

そこには平均8.7アシストのルビオの存在が大きいのですが、実はルビオからブッカーへのアシストは平均1.6本と少なく、ガードコンビでの連携強化がブッカーの得点を伸ばしたわけではありません。むしろルビオは「ブッカーを囮にして他の選手を使う」ことでアシスト数を伸ばしています。オフボールでシュートチャンスを作ろうとするブッカーをディフェンスは警戒します。ルビオはその裏をかいて他の選手を使っていくので、守る側は焦点を絞ることが難しくなっています。エースの存在が他の選手を楽にし、空いた選手をポイントガードが的確に使っていく。これがサンズオフェンスの特徴になってきました。

これらの特徴は試合終盤になると顕著になっていきます。ルビオのゲームメークは、早々にブッカーにパスを出してアイソレーションさせる時と、ブッカーには全くパスを出さず他の選手との連携のみで攻めていくパターンに分かれており、「エースに任せる」のか「チームの連携を使う」のか明確な意思が見られます。それは試合終盤になってもエース一辺倒にしない形を作りながら、エースを信じて任せてもいるゲームメークです。

そしてブッカーはこれらの期待に応え、タフショットでもしっかりと決めていきます。その姿はこれまでと同じようでいて『チームを勝たせるエース』として仲間を信じながらも、「自分が決めるべきシュート」を強く意識しているようにも見えます。ブッカー自身が試合の中で強弱をつけられるようになってきたことも高勝率に影響しています。

シュート数が減り、自分が関わらないオフェンスパターンが増えたことは、ディフェンスで高い集中力を発揮することにも繋がっています。それが一因となり、毎シーズンのようにリーグ最低だったサンズのディフェンスは、リーグの平均を上回るレベルまで向上してきました。

もともとルビオとのコンビ結成はディフェンス面で不安があったのですが、ブッカーが劇的にディフェンス力を向上させたことで、オフェンス面のメリットを享受できています。チームの弱点をエース自身が埋めているわけですから、これは『勝てるエース』としての存在価値を高めています。

ここまで7勝4敗。シーズンは始まったばかりとはいえ、選手の個性をうまく組み合わせ、しかも弱点を改善させているため、その強さは一過的なものとは考えにくいです。これまではエースの爆発力頼みで勝利していたサンズとは別のチームと言ってもいいでしょう。ただし、負けた試合でのブッカーは3ポイントシュート成功率が23%と低くなっており、エースの不調はチーム成績に繋がっています。

『勝てるエース』となったブッカーが、『負けないエース』に成長を遂げれば、サンズは本当の意味で強いチームになったと言えそうです。