東京パラリンピックの出場枠もかかったパラ陸上の世界選手権が11月7日から15日まで、アラブ首長国連邦・ドバイで開催された。14日には、注目の新種目「4×100mユニバーサルリレー(UR)」が大会史上初めて行なわれ、大きな盛り上がりを見せた。障がいの異なる男女4選手がつなぐ、多様性に富んだレースは、「ザ・パラスポーツ」ともいえる魅力と可能性にあふれていた。



非常にタイミングが難しい、立位の選手と車いすの選手のタッチ

 URは「視覚障害」「切断・機能障害(立位)」「脳性まひ(立位)」「車いす」の障がいカテゴリー順にトラック1周(400m)をリレーする。男女2人ずつなら、どのカテゴリーに起用してもよいが、各カテゴリーで最も軽度な障がいの選手は4人のうち2人しか走れないというルールもある。

 バトンは使わず、手や背中にタッチして次走者につなぐ。陸上競技の中で唯一の国別団体戦であり、今大会の参加国数など条件が満たされれば、東京パラリンピックでも採用の可能性が高く、今大会4位までに入ったチームには同大会の出場枠も与えられることになっていた。

■URの面白さと難しさ

 16チームがエントリーし、14日午前に4チームごと4組に分かれて予選が行なわれた。「東京パラで金メダル」を目標に掲げる日本は、予選2組に登場。ほかに、ロシア、ナミビア(タイは欠場)がスタートラインに並んだ。号砲とともに、1走の澤田優蘭(視覚障害)が塩川竜平ガイドと並び、力強くブロックを蹴ってスタート。軽度弱視の男子選手が単独で走るロシアに先行されるも、塩川ガイドが手を伸ばし、2走の井谷俊介(義足)の手にタッチ。反応よく飛び出していた井谷はスムーズな加速でロシアの女子選手をとらえ、3走の竹村明結美(脳性まひ)にトップでタッチした。

 竹村も懸命な走りで粘り、タッチゾーン内でアンカーの生馬知季(車いす)の背に手を伸ばした。だが、なかなか追いつけない。生馬も一瞬手を緩め、後ろを振り返ったが2人の差は縮まらず、生馬はそのままゴールへ。結局、タッチミスと判定され失格となり、決勝進出を逃した。

 タッチワークはURの醍醐味であり、難所でもある。一般のリレーとは異なり、性別や障がいの違いにより、助走からトップスピードに乗るまでの時間が異なる。とくに難しいのが車いす選手へのタッチだ。漕ぎはじめはゆっくりだが、一度スピードに乗ると一気に加速するのが特徴で、タッチ合わせのために急な減速や停止も難しい。

 また、姿勢も低いため、3走は体を少しかがめてタッチしなければならない。個々の走力では海外勢に及ばない日本はち密さと器用さを武器に、このタッチワークで対抗しようと合宿を重ね、精度向上に努めてきた。

「攻めた結果の失格」という無念のレースを終え、澤田は、「走りはこれまでで一番よかった。日本チームは世界で十分戦える」と自信を見せ、井谷も、「スタートからスピードに乗り、後半も失速が少なく、3走に渡せた」と手ごたえを示した。竹村は、「出だしはよく、スピードにも乗っていたが、タッチできなかった。今後の練習でがんばりたい」と話し、アンカーの生馬は「タッチを受け取れず、申し訳ない。練習では安定していたが……」と悔しさをにじませつつ、「精度をもっと高めて、東京パラリンピックで悔しさを晴らしたい」と前を向いた。

 実は少し不安もあった。5月に日本記録(48秒14)をマークした時の3走は高松佑圭(ゆか)が務めたが、今大会は直前のケガで欠場となり、竹村が起用された。竹村は4走の鈴木朋樹につなぐチームで起用されることが多く、タッチも安定していた。

 ただ、鈴木は今大会、個人種目で400mから1500mまで全5レースに出場し、疲労も心配されていた。日本パラ陸上競技連盟強化委員でUR担当の高野大樹コーチはレース後、連係の安定かスピードを取るかで「かなり悩んだ」と明かしたが、結局、短距離を専門とするスプリンターの生馬をアンカーに選んだ。

 高野コーチによれば、前日練習で竹村と生馬のつなぎをはじめ、チェックマーク(前走者が到達したら次走者がスタートする目印)の適切な位置を精査し、当日になって選手の体調や天候(風向き)などから最終的なマークの位置を指示したという。「選手はみなマークどおりスタートを切っていた。届かなかったのはすべてスタッフの責任」と分析したうえで、今後に向け、「各走者がスピードに乗った状態でいかにタッチできるか。コツコツ練習するしかない」と、さらなる進化を誓った。

 予選レースはその後、盛り上がりを見せた。3組でアメリカが中国の持つ世界記録(47秒57)を上回る47秒08をマークするも、4組では中国が46秒35をたたきだし、再び世界記録保持者に返り咲く意地を示した。決勝には、タイム上位の4チームが進むことになっていたが、ビデオ審議の結果、好タイムを出したドイツ、フランス、イギリスも失格になり、結局、スペイン(予選タイム49秒45)、2組のロシア(同47秒88)、アメリカ、中国が決勝に駒を進めた。

 決勝では、金メダリストを揃え、「個の力」で優位に立つ中国が優勝を万全にしようと予選から一部選手を入れ替え、女子、男子、男子、女子という独特の選手編成で仕掛けてきた。層の厚いアメリカも、ベストメンバーで対抗。レースは中国が先行したが、最終車いす区間で男子を起用したアメリカが、中国の女子選手を抜き去り、世界選手権初代王者の称号を手にした。

 勝利に沸くアメリカ選手からは、「リレーは高校以来。大声援を受けて楽しかった」「多様で速いメンバーが協力してつなぐのは楽しい」「急増のチームだが、うまく連係できてよかった」「来年の東京大会が楽しみ」といったコメントが聞かれた。

 この日1日で、URの世界記録は一気に1秒22も縮まった。チーム編成の事情からか、2チームが欠場し、日本を含む4チームがタッチミスで失格した。進化の可能性と難しさ--まだ発展途上の種目であることを示したが、アメリカチームのコメントにもあるように、「パラスポーツならではのおもしろい種目」として、選手にも観客にもアピールできたのではないだろうか。

■悲願のメダルに向け、進められる強化と対策

 URは障がいや性別のルールもあり、選手をどう起用するかの戦略が重要だ。また、幅広い障がいクラスでの強化が欠かせないため、総合力も問われる。日本は今季から本格的に強化を進め、各走順2人ずつの計8人を強化選手に指定。数回の合宿を実施し、タッチワークの精度向上などに努めてきた。メンバー間の走力差があるのも特徴で、速い選手から遅い選手へ、あるいはその逆にも難しさがある分、工夫次第で強みにも変わる。タイムロスの少ない最適なチェックマークの位置を根気よく探る努力が続けられている。

 タッチ技術の向上も不可欠だ。日本は今、タイムアップを目指し、立位の選手は肩や背中に触れるのでなく、互いに手と手を伸ばすタッチ練習も始めている。できるだけ走りに影響しないよう、「手を伸ばすのは一瞬だけ、パンパンとできれば」と高野コーチは期待する。塩川ガイドは「タッチワークは日本の武器」、井谷も「ベースはできてきた」と手ごたえを語る。

 選手たちにはURに寄せる別の期待もあるという。「さまざまな障がいのある選手が一緒に走るパラ陸上の象徴」「URが、多様性を認める社会のきっかけになれば」など社会に向けたメッセージ性だ。

 さまざまな可能性を秘めたUR。日本チームの成熟とともに、今後の発展に大いに注目したい。