アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の女子シングルス1回戦。 試合後の記者会見で、22歳のユージェニー・ブシャール(カナダ)は手をねじり、下唇をこすり、左腕を締めつけた。会見での…

 アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の女子シングルス1回戦。

 試合後の記者会見で、22歳のユージェニー・ブシャール(カナダ)は手をねじり、下唇をこすり、左腕を締めつけた。会見でのメイン・トピックが、1回戦で負けたことではなく、現在進行中の、大会との訴訟になっていたとき、彼女のボディランゲージは不快さを訴えていたが、言葉のほうは慎重だった。かつてのライジング・スターは、すべての質問に答えた。

 一年前のフラッシング・メドウで、ブシャールは、会場で転倒して脳しんとうを起こし、4回戦をプレーする前に棄権。それから、シーズンの残りのほとんどを棒に振ることになってしまった(ロッカールームで滑って転んだと言われる)。彼女は10月、ブルックリンの地方裁判所で、全米テニス協会(USTA)を相手に訴訟を起こし、裁判はいまだ係争中であるため、今週のブシャールは、自分が告訴している相手が開催する大会でプレーするという、奇妙な立場に身を置くことになった。

 「座ってじっくり考えてみると、確かに奇妙な状況だわ。でも、それはここまで私の心の片隅に隠れていることで、毎日考えたりはしない。私には弁護士や、それを引き受けて働いてくれている人々がいるから」とブシャールは言った。「だから、私自身が大いに考えていることじゃないの。当然ながら、ここに来れば、そのことが頭をよぎりはする。でもそれを除けば、私の日常とは何も関係はないわ」。

 グランドスラム大会で3回戦まで進んだことが一度しかない、世界72位のカテリーナ・シニアコバ(チェコ)に対する3-6 6-3 2-6の敗戦で、ブシャールは46本ものアンフォーストエラーをおかした(彼女は、試合の途中で足の靴ずれの治療を受けた)。これはブシャールにとって、このところ頻発している早期敗退の最新のものだ。彼女は2年前に3度グランドスラム大会の準決勝に進んだが、以降一度も、同様の成績を挙げることができていなかった。

 彼女が絶頂期で、シードのつく選手だったときには、ブシャールの早期敗退は報道価値のあることだった。しかし、アップダウンが激しかった2015年と2016年のせいで今や状況は変わった。最高5位にまで上がった彼女は、今や39位なのだ。

 ブシャールは、2015年全米オープンに先立つ17試合のうち14試合で負けたが、少しの間、ジミー・コナーズ(アメリカ)に指導を仰いだあと、全米で4回戦に進出し、上昇気流に乗ったように見えていた。ところがそこで、滑って転び、脳しんとうと診断された例の事件が起きる。そして彼女は、結果的に準優勝したロベルタ・ビンチ(イタリア)との試合を棄権しなければならなくなったのだ。

 その上、ブシャールはそのせいで、今年1月までフルタイムではツアーに復帰できなかった。

 「コート上で、かつていた場所まで戻ったとは感じていなかった」とブシャールは言った。つまり、本人の感触では、2016年の開始時には、彼女のプレーレベルはピーク時のそれではなかったということだ。

 「でも肉体的には、今年の初めから、いい状態だと感じてきた」

 USTAのスポークスマン、クリス・ウィドメイヤーは、この訴訟の内容についてコメントはしないと言った。「しかしながら、彼女の事故の一年後に、彼女の注意がいまだ、ベストの能力を発揮してプレーすることではなく、ほかのことに集中しているというのは、真に残念なことです」と続け、ブシャールの弁護士が、裁判の一年の延長を申し出ているのだと言った。

 ウィドメイヤーは、USTAには「常に準備があり、それが示談によるものであれ、法廷で最後まで戦うことを通してであれ、この訴訟をできる限り迅速に終わらせることができるよう望んでいます」と言い添えた。また、「訴訟は、ユージェニー(ブシャール)の全米オープンでの扱いに何のインパクトも与えていません」という言葉で、裁判沙汰ゆえに、彼女が冷遇されるようなことは決してあり得ない、と確言した。

 ブシャールのコーチであるニック・サビアノは、彼女のテニスの能力は、訴訟によって生まれた気を散らしかねない雑念の影響を受けているか、と聞かれ、こう答えた。

「それについてはどうとも言えない。彼女はここにやって来たとき、よい精神状態にあった。彼女にはプレーする準備ができていたが、ほかの選手もいいプレーをした、ということだ」(C)AP