今年10月、スペイン代表がユーロ2020本大会出場を決めた。 かつて、スペインはシャビ・エルナンデス、アンドレス・…

 今年10月、スペイン代表がユーロ2020本大会出場を決めた。

 かつて、スペインはシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタという2人の「ボールの魔術師」を擁し、世界を席巻した。ほかにも、GKにイケル・カシージャス、DFにカルレス・プジョル、ジェラール・ピケ、カルロス・マルチェナ、ジョルディ・アルバ、MFにマルコス・セナ、シャビ・アロンソ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス、そしてFWにダビド・ビジャ、フェルナンド・トーレス……。ユーロを連覇(2008年、2012年)したメンバーには、相応の豪華さがあった。

 しかし、いずれもすでにスパイクを脱ぐか、代表引退を表明している。はたして、時代を継ぐ新鋭選手は育っているのか?



ユーロ2020出場を決めたスペイン代表の主力、ミケル・オヤルサバル

 10月のサンセバスチャン。レアル・ソシエダのエースとして、背番号10をつけたミケル・オヤルサバル(22歳)が躍動していた。

 オヤルサバルは2016年5月、19歳で代表デビューを飾っている。ロシアワールドカップ後に発足したスペイン代表では、すでに主力のひとりだ。ユーロ出場を決めたスウェーデン戦でも2トップの一角として先発してフル出場。チームを牽引している。

「LUCHADOR」

 現地では、そう評される。「闘士、努力家」。それは戦いを挑む者を意味するが、勤勉なことだけがキャラクターではない。

 オヤルサバルは左利きで、ひらめきを感じさせるプレーヤーと言える。スモールスペースでのコンビネーションに優れ、ダイレクトで局面を変えるパスも繰り出せるし、自らドリブルで切り込むスキルも持っている。あり余る才能を持ちながらも、勤勉に走ってスペースを作り、勇敢に体をぶつける。その落差が、人々の尊敬を集めるのだ。

 そして戦術的に、際立って優れている。

 この日、ベティスに3-1で勝利した試合でも、1点目は相手を誘い込むボールキープから敵ゴール近くでFKを取り、それが得点につながった。2点目は右からのクロスに対し、左サイドから対角線でニアに走りこみ、背後のスペースを作り、ウィリアン・ジョゼのゴールを”アシスト”した。そして3点目は、マルティン・ウーデゴールと呼吸を合わせ、エリア内深くに走って深みを作り、ゴールに背を向けてボールを落とし、ポルトゥのだめ押し点を演出した。

「左利きで自らボールを運び、フィニッシュもできるが、集団的なプレーで周りを輝かせ、自らも輝ける選手」

 以前、レアル・ソシエダの育成部門を取材したとき、関係者はいずれも「コレクティブな才能」を称賛していた。

 所属クラブのあるバスク地方では、「振る舞い」が重視される。仲間のために戦えるか。その点、オヤルサバルは理想的なキャラクターと言える。チームのために犠牲を払えるし、勝利への責任感も強い。今シーズンは22歳にして、キャプテンを任される。

 3、4年前だったか。トップチームでプレーしていた18歳の彼が、試合の翌日、まだBチーム、Cチームにいる同年代の選手の試合を観戦するため、スタンドに訪れる姿があった。謙虚さを失わず、仲間を大事にする――。それが彼のコミュニケーション力の高さにつながっているのだ。

 ベティス戦でも、左サイドを主戦場にしながら、時間帯によってトップに入り、右サイドにも流れている。ゼロトップとして前線でチャンスメイクしながら、ストライカーのようにも振る舞うことができる。”戦闘中”はいつでもどこでも高い集中力を保ち、必要なプレーに応じられる。特筆すべきは、敵陣左サイドでタッチラインをボールが割った瞬間の判断だろう。素早く反応し、スローインをバックラインの裏に流し込み、決定的なシーンを作った。攻守の境がなく、”笛が鳴るまでプレーできる才能”がある。

 オヤルサバルは、ファンタジスタにありがちな脆さがない。ハイボールに対して前線でディフェンダーと競り合い、勝てる高さもある。ポジションを先にとって、胸でコントロールする技術は白眉。高さだけでなく、速さも十分ある。スプリンターとして、裏をつくプレーも得意とする。

 その昔、レアル・ソシエダでエースを張り、ロシアワールドカップではフランス代表として優勝したアントワーヌ・グリーズマン(バルセロナ)と似た系譜の選手と言えるかもしれない。試合を決めるプレーを、どんな戦術、システムの中でもやってのける。レアル・ソシエダは今シーズン、上位争いを続けるが、勝利への渇望も共通しているだろう。

 そこで、レアル・ソシエダでプロデビューを飾り、スペイン代表としてユーロ、ワールドカップを制したシャビ・アロンソ(現在はレアル・ソシエダのBチーム監督)に尋ねた。

――オヤルサバルはグリーズマンのように、世界制覇をもたらすスペイン人選手になれるか?

「ミケル(オヤルサバル)はピッチの上で中心になることで、重要な役割を担い、それを果たすことで成長を続けている。チームメイトと共にプレーすることができるし、個人で崩すプレーもできる。誰かと比較せず、これからを見守りたい。コンプリートな選手だよ」

欧州、世界を制した男の言葉である。スペイン代表は11月15日にマルタ、18日にルーマニアと戦う。