神野プロジェクト Road to 2020(38) MGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)のあと、神野大地は2週間のオフを取った。 MGCファイナルチャレンジ(3試合)に挑戦するのか。今後、プロランナーとしてどう活動していくのか。…

神野プロジェクト Road to 2020(38)

 MGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)のあと、神野大地は2週間のオフを取った。

 MGCファイナルチャレンジ(3試合)に挑戦するのか。今後、プロランナーとしてどう活動していくのか。何を目標にするのか。自分のなかから自然と湧き出てくる何かを待ちつつ、マネージャー兼コーチの高木聖也と話をしながらその答えを導き出した。



来年の東京マラソンには出場したいと語る神野大地

—— 今後、どうしていくのか、結論は出ましたか。

「結論から言うと、もう1回頑張ろうという気持ちになりました。今までやってきたことは無駄じゃなかったし、間違いじゃなかった。ただ自分のなかで、納得いく結果が出ていない段階でプロランナーとして引くわけにはいきません」

—— MGCのファイナルチャレンジに挑戦するということ?

「(来年3月の)東京マラソンには出る予定です。ただ、現実問題、派遣設定タイムの2時間5分49秒を突破するのは、周囲の人も僕自身も厳しいと思っています。もちろん、何が起こるかわからないし、自分の力以上のものが出るかもしれないけど、このレースがすべてという感じでは臨みません。東京五輪をあきらめているわけじゃないですよ。でも、今の僕が目指すのはファイナルチャレンジで設定タイムを越えることじゃないです」

—— では、何を目指すのでしょうか。

「プロランナーとしての成功を目指していきたいと思います」

 神野は、少し高揚した声でそう言った。

 プロランナーとしての成功——それは単純に考えればレースに勝つことであり、日本記録などのタイムを出すことだろう。陸上の世界ではタイムがすべてであり、レースで勝った者が評価されるからだ。だが、そういう世界を目指すのであれば、今までと変わらないし、あえて「プロランナーとしての成功」ということを宣言する必要がない。

—— プロランナーとしての成功とは?

「正直、まだ何が成功なのか明確にはわかっていないです。やっていくなかで見えてくるものかなと。ただ、たとえば今までは東京五輪に向けて、そのためだけにガチガチにやってきたけど、もうそういうやり方はしません。少しでも速く走るために練習をしていくけど、その途中にファイナルチャレンジがあるという感じです。だから、それが終わったら『4年後のパリ五輪に向けてやります』というのもないです。身近な目標をクリアしていって、パリ五輪の直前になって戦える状態にレベルアップできていれば、パリが目標になるかもしれないですけど」

—— 目標を縮小化するということですか? でも、東京五輪という大きな目標があったからこそ、苦しい練習に耐えてこられたし、レベルアップできたのでは?

「たしかに、東京五輪があったから自分のレベルを上げられたと思います。でも東京五輪は、いま振り返ると僕にとって2段階、3段階上の飛び級の目標だった。2時間10分台の選手が世界選手権や五輪を狙うというのはやっぱり違うかなと。2時間7~8分の記録が出た時、次の目標が出てくると思うんで、まずは現実的に狙えるところを目標にやっていきます。僕の陸上人生は小さな目標をクリアして成長してきた。その原点に返る感じです」

 大きな目標を立てず、地に足をつけて地道にレベルアップを図るということは理解できた。そういう意識で高校、大学と徐々にレベルアップしてきたことを考えれば、「原点回帰」が神野のリスタートになるのだろう。

 また、マラソンランナーとしての成功を目指すと、あえて宣言したのは結果だけにとらわれない様々な活動を考えているからだろう。それは陸上界では異質かもしれないが、プロの世界では別に珍しいことではない。たとえば、サーフィンやスノーボードなどは、コンペティターとライフスタイルをメインにして活動するプロにわかれている。大会に出て勝利を目指すプロがいれば、自分が好きな海や山で撮影をしたり、テクニックやライフスタイルをビデオにして販売したりするプロもいる。

 陸上のプロはまだ少数派だが、プロだから何かをしないといけないというのはない。レースに勝つことは大事だが、スポンサーがその活動を認めてくれればレースだけにとらわれず、幅広くいろんな活動をする選手がいてもいい。

—— レースだけではなく、いろんなことにアプローチしていくと?

「そうですね。この先の人生は長いですし、引退したあとに何をしようかと考えるんじゃもう遅いと思うんですよ。僕は、プロランナーとしていろんな活動がしたいし、同時に自分で生活していくための収入の柱をつくっていかないといけません。そのための一環として自分のブランドでネックレスをつくったんですけど、そうしたら『金に走ったな』とか言われて(苦笑)」

—— 批判的な意見が多かった?

「そういう意見が出るのはわかっていました。でも、そういうのもプロだから仕方ないと割り切っています。ただ、多くのファンは支持してくれています。とくにMGC以降はファンの反応が変わりました。それまで僕のツイッタ-は70%の人が応援してくれる人で、30%が批判だったんです。でも、MGCのレースあとは批判的な意見がほとんどなかった。その時、なぜ僕のことを応援してくれているんだろうって考えたんですが、ファンは僕の結果じゃなくて、僕の取り組みに共感してくれているのかなと思うんです。みんな、僕に力がないことをわかっているんですよ。力がない人間がいろんなことに挑戦して、努力して力のある人間を倒していく。それを僕はツイッタ-を始めSNSでオープンにして、すべて見せているので応援してくれているのかなと思います」

—— ファンの声が神野大地を支えている?

「間違いないですね。今回、僕ひとりで競技をしていたらもうやめていると思うんです。でも、ファンや周囲の人が『まだやれるよ』って応援してくれる。ファンのコメントを見て、まだいけるよっていう気持ちにさせてくれる。応援してくれる人のために僕は走ることを含め、いろんな形で恩返しをしたいなって思っています」

—— 目先の目標として、まずは東京マラソンに向けて調整していくということですか。

「予定ですが、12月のアジアマラソン選手権(中国)にも出たいと思っています。そこで優勝すれば自信になるし、今までは”山の神・神野大地”だったけど、アジアマラソン選手権で金メダルの神野大地にもなると思うんです」

—— 山の神はもういいと。

「山の神があったから取り上げてもらったけど、今の僕は学生じゃなく、プロランナーじゃないですか。もうこれからはプロランナー神野大地でいい。プロランナー神野が今後、どうしていくのか、注目していてほしいなって思います」

 神野は、そう言って笑った。

 まだ終わってはいないが、これまでは東京五輪のマラソン代表の椅子を狙うだけの日々だった。すべての時間をそのために捧げたといっても過言ではない。その経験を経ての今回の決断だった。「山の神」の看板を下ろし、プロランナー神野大地として何を目指していくのか、まだ明確ではないが、今はそれでいいのではないだろうか。

プロランナーとしてやりたい何かを見つけにいく。神野にとっての今後はレースを走りながら、それを見つける旅になる。