写真:ヨーロッパの英雄を倒した吉村真晴(名古屋ダイハツ)/撮影:田村翔/アフロスポーツ

<JA全農 2019ITTFチームワールドカップ東京大会 2019年11月6日~11月10日>

白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。

今回はJA全農 2019ITTFチームワールドカップ東京大会で、吉村真晴(名古屋ダイハツ)が元世界ランク1位のティモ・ボル(ドイツ)を破った試合を振り返る。

国際大会では4度目の対戦となった両者。これまでの戦績はティモ・ボルが3戦3勝とさすがの強さを見せる。しかし、吉村も6月の香港オープンでは3-4とフルゲームで互角の試合を展開していた。

ティモ・ボルは最近ではワールドツアー優勝からは遠ざかっているが、2017年ワールドカップでは林高遠(リンガオユエン・11月世界ランキング3位・中国)と馬龍(マロン・同4位・中国)を連破して準優勝。その翌年の2018年大会でも張本智和(同5位・木下グループ)を破っての準優勝など、現在38歳にして未だに世界のトップを走り続ける選手だ。

対する吉村真晴は、2012年に当時高校生ながら5連覇中の水谷隼(木下グループ)を破って全日本選手権優勝の経歴を持つ。その後も2016年世界選手権クアラルンプール大会、リオデジャネイロ五輪団体戦銀メダル獲得に大きく貢献した。

回転が読みづらいアップダウンサーブとキレのある両ハンドドライブを武器とする吉村。今回の対戦で初めて“ドイツの皇帝”ティモ・ボルに勝利したのは偶然ではなく、勇気のいる思い切った作戦があった。

チームワールドカップ 男子団体準々決勝:吉村真晴vsティモ・ボル




写真:吉村真晴(名古屋ダイハツ)/提供:ittfworld

詳細スコア

○吉村真晴 3-0 ティモ・ボル(ドイツ)
11-7/11-9/13-11

1.フォア前への1球目攻撃




図:吉村真晴のサーブ配球図/作成:ラリーズ編集部

吉村真晴の代名詞といえば、サーブの上回転と下回転の変化が直前まで読めないYGサーブのアップダウンサーブだろう。今大会でもそのアップダウンサーブは猛威を振るった。

吉村は、ボルのフォア前への順横回転サーブとアップダウンサーブを中心に試合を組み立てた。ボルはフォア前のサーブに対して、バックで回り込んで攻撃的な台上ドライブをあまりせず、安全に質の高いフォアレシーブを多く用いる。格上選手との対戦で少しでも早く先手を取りたい吉村のサーブは、必然的にフォア前への配球が多くなる。

試合の序盤は、ボルのフォアからミドル前にかけて順横回転サーブを出した吉村。特に吉村の順横回転サーブは、相手コートで大きく曲がるため、ボルからするとフォア側に逃げていくサーブとなる。ラケット面を合わせづらいボルは、レシーブの打点が遅くなり、返球がクロス(吉村のバック側)に集まりがちとなった。そこを吉村は果敢に攻め込んでいった。




写真:吉村真晴のサーブシーン/提供:ittfworld

さらに吉村は1ゲーム目終盤からYGのアップダウンサーブに切り替え、ボルを順横回転サーブに慣れさせない。回転が読みづらく得点率の高い吉村のYGサーブに対して、ボルのレシーブはミスや甘くなり、吉村は見事に先手を取ることに成功した。

しかし、3ゲーム目ではやや長くなった吉村のYGサーブをボルは見逃さずにレシーブドライブで得点を重ねる。少し展開が悪い吉村は再び順横回転サーブに切り替え、ラリー戦で一気に畳みかけた。

試合後、吉村も3ゲーム目11-11のタイムアウトを振り返り「YGをずっと出して、(台から)出たボールを(レシーブドライブで)かけられていたので、順横回転のサーブからやっていこうと話し合った。順横回転の自分のサーブも効いていたので」と順横回転について言及していた。

こうして終始、サーブでボルを翻弄し続けた吉村は、自身のサービスのターンで安定して得点を、レシーブターンでも強気のプレーが可能となり、ボルを圧倒する結果につながった。

2.あえてバックハンドを使わないハイリスクな回り込み




図:吉村真晴のフォアドライブ打球コース/作成:ラリーズ編集部

吉村は威力のある両ハンドドライブが持ち味でもある。しかしこの試合では強力なドライブを放てるバックドライブよりも、フォアハンド主体で攻めていった。試合後に「(香港オープンでの試合も)サービスが効いていて、相手のボールに引っかからず自分のフォアハンドで攻め切ることができていたので、イメージは非常に良かった」とボルに対しては、フォアで攻めるイメージを持っていたことを明かしていた。

吉村は、バックサイドをフォアで回り込み、ボルのフォアサイドに強打を送るコース取りを見せた。そうかと思えば、吉村のクロスへの打球を警戒したボルを見透かしたように、ストレートに打ち抜くプレーも織り交ぜ、ボルに守りの的を絞らせない。

このクロスへの打球には3つのメリットがある。

1つ目はストレートよりもクロスへの打球の方がコートの距離が長く、ミスのリスクを少なくすることだ。

2つ目に、中国選手のボールさえもブロックするボルの堅いバックの守りを、少しでも崩すことができることだ。

吉村の打球はややシュート回転が混ざった打球もあり、通常の打球よりもボルは大きくフォア側に動かないとミスをしやすくなる。そうすることでボルはフォア側に意識が偏り、バック側の守りがおろそかになったのだ。




図:ブロックコースの角度の違い/作成:ラリーズ編集部

そして3つ目に、フォアにブロックされても吉村が飛びつくのが容易だということだ。

吉村がストレートに打球するとボルのバックブロックがクロスに返球されることが予想される。すると角度的により遠くまで飛びつかなければならず、ラリーの主導権を失う可能性がある。実際には図のように、ボルのフォア側への打球がここまで厳しいストレートにブロックされることは稀で、ミドル寄りの返球が多くなる。つまり同じ回り込みでも、吉村はクロスに打った方が次の打球に備えやすいのだ。

まとめ




写真:吉村真晴(名古屋ダイハツ)/撮影:ラリーズ編集部

吉村が両ハンドをバランスよく取り入れれば、回り込んで攻めるよりも隙が少なかっただろう。しかし一方で、バックを使うとボルのフォア側への打球で先に攻められることも増えたはずだ。それを嫌ってストレートに打球してもミスが増えたり、ミスを減らすために威力を弱める必要があり、思い切った攻めができなかったかもしれない。

今回はあえてキレのあるバックハンドを多用せず、逆を突かれるリスクがある中でも思い切った回り込み攻撃を見せたのはまさに英断といえる。またその背景には、バック側に返球が多くなるようなサーブの組み立てや、カウンター攻撃の恐ろしいほどの精度があることは言うまでもない。

「彼の場合はとんでもない試合をするときもあるし、すごい選手に勝つこともある。僕のものさしだとよくわからない部分がある。でもやっぱり大舞台に強いのは吉村だなと改めて感じた」と倉嶋監督も話したように、団体戦で120%の力を発揮できる吉村。今後の活躍からも目が離せない。

文:ラリーズ編集部