「スピードスター」なる言い回しがあるものの、サッカー界で、見るからに足が速い快足選手がスターとして大成した例はあまり多く…
「スピードスター」なる言い回しがあるものの、サッカー界で、見るからに足が速い快足選手がスターとして大成した例はあまり多くない。日本代表史を振り返っても、岡野雅行以降、永井謙佑(FC東京)が登場するまで、長い時間がかかっている。
世界に目を転じても、すぐに名前が思い浮かぶのは、大成することのなかったセオ・ウォルコット、アーロン・レノンといった元イングランド代表選手の名前だ。超一流選手で唯一と言いたくなる例外は、昨季をもって引退したオランダ代表のアリエン・ロッベンになるが、彼とて最大の武器は相手の逆、逆を突くドリブルだった。
昨季、レンタル先のアビスパ福岡から横浜F・マリノスに復帰した仲川輝人に対しても、探りを入れざるを得なかった。50mを5秒台で走る快足を、ピッチ上に効果的に落とし込むことができるか。途中で伸び悩んでしまった前述のウォルコットらとの姿と重ね合わせながら、ここまで目を凝らしてきたが、現在、悲観的要素を楽観的要素が断然、上回った状態にある。

北海道コンサドーレ札幌戦に先発、4-2の勝利に貢献した仲川輝人(横浜F・マリノス)
10月19日の湘南ベルマーレ戦で鮮やかなゴールを決めたものの、負傷で交代。11月9日に行なわれた北海道コンサドーレ札幌戦は、仲川にとって復帰戦だった。ところが、キックオフ直後から仲川はエンジン全開に暴れ回る。見せ場は開始2分、相手GKのミスでCFエリキが先制点を奪ったその直後に訪れた。
CB畠中槙之輔から素早いフィードを受けた右SB松原健は、高い位置で構える右ウイングの前方に、これまた素早く球足の長い縦パスを送った。札幌の左ウイングバック(WB)菅大輝との走り比べに競り勝ったのは仲川で、ゴールライン寸前でボールに追いつき、キープすることに成功した。
発端となった畠中の自軍ペナルティーアーク付近からのフィードから、松原経由で仲川が相手の最深部まで到達した時間は、わずか数秒。10秒かかっていないその高速プレーに、何より目が奪われた。
仲川はそこから切り返すと、一瞬、相手とぐちゃぐちゃと交錯したが、ルーズボールを再び奪取。間髪入れず中央にマイナス気味のボールを送り込んだ。エリキの2点目となるヘディング弾が決まったのは、この次の瞬間である。
札幌の3バック(3-4-2-1)は、両サイドが大きく開く横浜FMの3FWにてこずった。左WB菅は仲川の対応に追われて、攻撃参加ができずに終わる。意図的なのか、結果的なのか、その3-4-2-1は4-4-2に変化していた。となると、その左サイドハーフには、本来2シャドーの左寄りを受け持つチャナティップが流れてこなければならない。そうでないとバランスは取れないが、チャナティップは、その後方で構える菅からのサポートが望めないため孤立。居場所を真ん中寄りに求めようとした。その結果、札幌は左サイド(横浜FMの右サイド)で、数的不利に陥った。仲川の活躍はポジション的な必然性もともなっていた。
先述の2点目の場面では、自軍左サイドで菅が後手を踏むと、札幌の3CBの左を担当する福森晃斗が応援に駆けつけた。つまり、中央の守りは手薄になっていた。仲川の折り返しをエリキに易々と頭で決められた大きな理由である。仲川の右ウイングとしての存在感は増すばかりの状況にあった。
しかも、この2点目のアシストプレーは序章に過ぎなかった。前半22分、仲川が相手DFラインの混乱に乗じて右から折り返すと、そのボールは札幌のMF深井一希のハンドを誘う。判定はノーファウルに終わるが、この試合最大の見せ場は、さらにその1分後に訪れた。
横浜FMは、自軍ペナルティエリア内でボールを拾った左ウイング、マテウスがその深い位置からドリブルでピッチ中央を駆け抜ける。センターサークル手前で相手に潰されかけたその瞬間だった。仲川は疾風の如く現れるや、マテウスに代わってドリブルを開始。目にも止まらぬスピードで、札幌の大柄な守備陣を真ん中から切り裂いていった。身長161cmの小兵が、俊敏なステップワークを生かした高速ドリブルで、その間隙をグイグイと突く。GKク・ソンユンと1対1になるのは、アッという間だった。
従来の高速系の選手は、この途中でドリブルを乱しがちだ。スピードが速すぎるため、サッカー選手に最も必要とされる、相手の逆を取る動きができなくなるのだ。永井にもその傾向がある。GKとの1対1を外してしまうシーンをこれまで幾度も見てきたが、仲川は違った。トップスピードに乗りながらも、GKに向かうタイミングを見計っていた。
この3点目は滅多にお目にかかれないスーパーゴールと言えた。日本代表級。日本代表超級とさえ言いたくなる。しかし、彼に日本代表歴はない。国内組が多く選ばれた、来たるベネズエラ戦(11月19日)のメンバーにも名を連ねていない。相手の札幌からCBの進藤亮佑が初選出されたのとは対照的だ。
さらに、17日に行なわれるU‐22コロンビア代表との親善マッチには、この日、仲川と対峙した菅が招集されている。U-22日本代表は、これまでの例に従えば、札幌同様3-4-2-1で臨む可能性が高い。コロンビアがもし横浜FM式で向かってきたら、左WBとして出場した場合の菅、及び日本は苦戦するのではないか。仲川の活躍は、皮肉にもそうした推理までさせてしまうのだった。
その落選の理由は、メンバー発表とケガで休んでいる時期とが重なったこともあるのかもしれないが、もう少し早くから代表に選ばれているべき選手だった。
右利きの右ウイングといえば、現代表では伊東純也(ゲンク)になる。こちらの武器もスピードだ。タイプは似ている。
パッと見、サンティ・カソルラ(ビジャレアル)を彷彿とさせる、おっさん的雰囲気を漂わせる。仲川は、まさにカソルラのような低重心で巧緻性にも優れた小兵ならではの魅力で、伊東に勝る可能性がある。身体の大きな外国人が嫌がるのは、仲川のほうではないか。
森保一監督も、国内組中心で臨むとされている12月のE‐1選手権(釜山)のメンバーには、さすがに選ばざるを得ないだろう。いま一番気になるJリーガーである。