中国・深センで行なわれたカーリングのパシフィック・アジア選手権(以下、PACC)。日本代表として出場した中部電力は、チーム初の太平洋アジア王座を狙ったが、地元・中国と対戦した決勝で、8エンドコンシード(※1)による3-10と大敗を喫し、準…

 中国・深センで行なわれたカーリングのパシフィック・アジア選手権(以下、PACC)。日本代表として出場した中部電力は、チーム初の太平洋アジア王座を狙ったが、地元・中国と対戦した決勝で、8エンドコンシード(※1)による3-10と大敗を喫し、準優勝に終わった。
※1=点差が大きく開いた際などに相手への敬意を示す握手を求め、すべてのエンドが終了する前に相手の勝利を認めること。



PACCで2位となり、世界選手権の出場枠を獲得した中部電力

 ラウンドロビン(予選リーグ)は、順調に見えた。

 大会序盤、会場の温度調節がカーリングに対応し切れず、アイスに霜が張るというタフなシチュエーションを強いられたが、中部電力はリスクを避けながらゲームを展開。ラウンドロビンは6勝1敗という成績で1位通過し、準決勝進出を決めた。

 変化の多いアイスで戦いながら、準決勝も含めた8試合までに記録したビッグエンド(※2)の数は参加8カ国中最多の17エンド。逆に、被ビッグエンドはゼロだった。サードの松村千秋が振り返る。
※2=1エンドで3点以上のスコアを記録すること。

「場合によっては、2点(取られるの)は仕方がない。でも、3点以上は取られたくない。みんなでいつもそう話しているので、そのあたりのリスク管理はできていたと思う」

 それだけに、決勝の中国戦での拙攻が悔やまれる。

 第1エンドでフォースの北澤育恵が1投目をスルー(※3)してしまい、中国に難なく2点を献上して試合の主導権を譲ると、2点を追う第2エンドでもリードの石郷岡葉純が狙ったコーナーガードが流れて反撃の土台も作れず、さらに2点を許し、中国をますます勢いづかせてしまった。
※3=どの石にも当たらずにプレーゾーンを通過するミスショット。

「(決勝では)試合前練習から、昨日より(ストーンが)曲がっているっていう話はしたんですけど、(その曲がりを)読み切れなかった。対応もできていなかった」(北澤)

「昨日(の準決勝)までの滑りで投げられてはいたのですが、(決勝の)変化のあったアイスにアジャストできなかった」(石郷岡)

 ゲームの入りから最善のショットが決まらない中部電力。対照的に、中国は高い精度でドローを決め続ける。ショットセクションはどうしても後手に回ることとなり、そのショットすら狙いどおりに運べない、という悪循環に陥ってしまった。

 第1エンドで2点を取られ、「焦ってしまったかもしれない」と、スキップの中嶋星奈は唇を噛む。

「すぐに2点を取り返せなくても、しばらくクリーンな展開を続けて、アイスがつかめてから攻めればよかった」

 中嶋が言う「クリーンな展開」とは、相手の石を弾き出すこと、アイスの変化に影響を受け難い速いウエイトのテイクショットを中心にエンドを進めることで、シート内(プレーゾーン)に石を溜めずにシンプルに攻防することを指す。

 松村も試合後、「中国のアイスリーディング(アイスを読む)の早さに、私たちは最後まで追いつけなかった」と敗因を口にした。結果論ではあるが、チームがアイスの状態を把握する中盤あたりまで、中国のショットをいなすようにうまく逃げ、挽回できる程度のビハインドを堅持してゲームメイクしたほうが、ベターだったかもしれない。

 とはいえ、日本代表として最低限のタスクである、来年3月の世界選手権(カナダ・プリンスジョージ)の出場権を獲得した。

 次の目標は、来年2月に地元・軽井沢パークで行なわれる日本選手権で連覇を果たし、再び世界選手権に出場することだ。

「自分たちでつかみ取ったチャンス(世界選手権の出場権)なので、自分たちで使いたい」と、石郷岡は気持ちを新たに語った。無論そのためには、北澤が挙げる「ショットの精度もそうだし、アイスリーディングできてないからショットが決まらない部分もある。両方の技術を高くしていかないといけない」という課題を、残り3カ月で消化しなくてはならない。

 PACCで不足している部分があらためて浮き彫りになった。しかし、それはまた成長過程と言い換えることができる。両角友佑コーチはPACCでの戦いぶりをポジティブに捉えて、こう総括している。

「もちろん優勝を狙っていたので、残念ではありますが、世界選手権の出場枠は取ったし、悪くない(成績だった)と僕は思っています。それに、こんなに重かったり、急に滑ったりと、変化のあるアイスでいい経験をさせてもらいました。何が起こるかわからない決勝の舞台で、アイスへの対応、それについて細かいところまで話すための時間の使い方などが課題として残りましたが、それは(チームの)伸びしろになってくると思っています」

 このあと、チームは年末にワールドツアータイトルである軽井沢国際を戦って、年明けにはスコットランド、スイスと欧州を転戦し、調整を進める。

 アイスリーディングと、それに応じたショットの精度--それらを総合的に高めて、ゲームを通してのリスクマネジメントを習得し、日本選手権の連覇を狙う。

 日本一から、アジア、世界で勝てるチームへ。中部電力の挑戦は、またひとつハードルが上がった。