永井秀樹 ヴェルディ再建への道
トップチーム監督編(8)



この試合でハットトリックを達成した小池純輝

FC琉球戦で見せた
理想の「美しいサッカー」

 2019年10月12日(土)の、FC琉球戦。台風19号は本州各地で猛威を振るい甚大な被害をもたらしていた。それでも、試合会場のタピック県総ひやごんスタジアムには、前日入りした多くのヴェルディサポーターが応援に駆けつけ、スタンドで緑のフラッグを振っていた。

 永井は、ケガで離脱の山本理仁(りひと)の代わりに、リベロのポジションに梶川諒太を初起用した。フロントボランチには負傷明けの井上潮音とクレビーニョ。フリーマンには、普段はフロントボランチの森田晃樹を置いた。

 また、右のサイドアタッカーは、7月31日以来の先発となる澤井直人を起用した。この日も「誰が出場しても同じサッカーができることを目指す。どの選手も、2つ以上のポジションができるようになる」という方針に沿ってメンバーを組んだ。

「理仁の離脱はもちろん痛いけれど、梶川をリベロで試してみたい、というのは前から考えていた。澤井にしてもクレビーニョにしても、どんなポジションでもできる能力はあると思うし、実際に、緊張感のある公式戦で経験を積むことで、選手としての幅も広がる。

『ひとりの選手が2つ以上のポジションができる』ということは、我々が目指すサッカーをやるうえでは強みになる。何なら試合中でもいろいろな選手がポジションチェンジを繰り返しながら、より流動的にできるようになりたい。そうすることで、我々の目指す『常に数的優位を維持し、全員攻撃、全員守備。90分間、ボールを持ち続けて、相手を圧倒して勝つ』という、トータフルットボールに近づくと考えているから」

 台風の影響から沖縄でも強い風が吹いていた。

 試合前のコイントスで、永井はエンドを風上に変更した。これも、この日の勝敗を分ける鍵のひとつになったのかもしれない。

 FC琉球も、ヴェルディ同様にボールを保持して戦うスタイルを目指していた。序盤は中盤での攻防が続き、ボール支配率は、ほぼ互角の展開になった。しかし、相手の最終ラインまでプレッシャーをかけ、フィニッシュまで組み立てる質の高さは、ヴェルディのほうが数枚上手だった。

 試合が動いたのは25分。右の澤井から短いパスを受けた、リベロの梶川がワンタッチでクロスを上げると、ファーサイドの小池純輝がダイレクトでボレーシュートを決めて先制した。

「『ポストゾーンの所をストライカーが狙う』という攻撃パターンは、日ごろからチーム全体で取り組んでいます。ボールを出してくれたのは、プライベートでも一緒にいることの多いカジ(梶川)でしたが、彼とはサッカーでも、お互い目が合わなくても分かり合える。それが形になってよかったです」(小池)

 その後もヴェルディは休むことなく攻め続け、ゲームを支配した。41分には、またも小池が、クレビーニョからのパスを受けて2点目を奪った。3分後の44分にもクレビーニョが起点となり、フリーマンの森田にスルーパスを通して3点目を奪い、リードをさらに広げた。

 後半1点を返されるも、この日のヴェルディは勢いが止まらなかった。58分、梶川が前線に出したパスをパライバが受けると一気にカウンター攻撃。クレビーニョ と数的優位を作り駆け上がると、最後は森田が冷静に決めた。

 ヴェルディは4-1と大きくリードを広げたが、クライマックスはこのあとだった。

 69分、クレビーニョから始まり、澤井、梶川とつながれたボールは、中央にいた近藤直也へと預けられた。近藤は井上に縦パスを通す。井上はワンタッチで梶川に。梶川はゴールエリア手前の小池に預けた。そこから細かく、森田、奈良輪雄太、井上とやはりワンタッチで繋いで、最後は再び小池が豪快にボレーシュートを決めて、自身初のハットトリックで5点目を奪った。

 いいパスを量産していたクレビーニョに、指示を出す永井秀樹監督

 クレビーニョに始まり、小池のゴールまでに要した時間は18秒。この18秒間で、ボールにかかわった選手は8人で、つないだパスは11本だった。

 ヴェルディは、永井が理想とするトータルフットボールを体現する、芸術と呼ぶにふさわしいゴールで試合を締めくくり5-1で勝利。連敗も3で止めた。



いいパスを量産していたクレビーニョに、指示を出す永井秀樹監督

 後日、ユース時代から永井サッカーを叩き込まれてきた森田に、「5得点のうち、一番印象に残っているのは?」と聞いた。すると森田は、自身が決めた3点目や4点目ではなく、「最後の5点目」と答えた。

「全員がいい距離感を保っていたことで、ワンタッチで流れるようにボールをつなぎ、自然とスペースができた。(小池選手の)最後のフィニッシュもすばらしかったし、フィニッシュにたどり着くまでの流れも美しかった。質にこだわり高めていけば、さらにチームはよくなると思います」

 また、ポジションを固定せず、さまざまな要求をされることについて聞くとこう答えた。

「やるからには求められる仕事以上のことをしたい。ボールに触っていないところでもしっかり守備を頑張るとか。永井さんもよく話すのですが、ひとりひとりの持っている力が1ならば、全員、あと0.5ずつ力を出せれば、チームとしてはとても大きな力になる。全員がチームのために動けるようになれば、もっといいサッカーができるようになる。そう思って取り組んでいます」

 永井にも改めて、FC琉球戦について振り返ってもらった。

「柏レイソル、ファジアーノ岡山、そして今日のFC琉球戦と、サッカーのスタイルがまったく違うかといえばそうではない。もちろん、その時に入る選手によって、少しボール保持に目をつむる時もあるけど、基本的な部分は何も変わらない。

 選手たちに日々お願いすることも同じ。チームとしてうまくいかない時は、何かしらのミスが起きている。このミスというのも、技術的なミスなのか、判断のミスなのか。技術的なミスは、選手それぞれで、普段の練習で質を高めてもらうしかない。問題は、判断ミスが出てしまうこと。判断のミスをしないためには、チーム全体でこだわりながら質を高める必要がある。まだまだ完成形には遠いし、時間はかかるかもしれない。それでも、経験を積み上げながら選択肢を増やし、少しでも理想に近づいていきたい」

 永井が師と仰ぐ沖縄陶芸界の巨匠・大嶺實清(おおみね じっせい)氏は、文化には「横軸=日常生活につらなる量的、生産の世界」と「縦軸=徹底していいものを求め続ける芸術の世界」があると説いた。

 永井は、「連敗を止めて圧勝した」という横軸の結果を残した以上に、縦軸の成果とい言うべき8人の選手と11本のパスをつないで結実した5点目に象徴される美しいサッカーを表現できたことに、選手やチームの成長を感じた。

 それは同時に、永井自身も苦しい時期を乗り越えて、監督としてひとつ成長した瞬間になっただろう。