44日間、列島が熱狂の渦に巻き込まれたラグビーワールドカップ日本大会が終わった。ラグビー日本代表が予選プールを4連勝で首位通過し、初のベスト8に進出したこともあり大きな盛り上がりを見せた。

チケットの販売率は99.3%で184万枚が販売され予選プールの3試合が台風の影響で中止になったが延べ約170万4000人がスタジアムを訪れ、1試合の平均観客数は約3万8000人で、決勝の観客数は7万人を超えた。

視聴率はビデオリサーチによると日本代表対スコットランド代表の平均世帯視聴率は関東地区で39.2%、瞬間最高視聴率は同53.7%に及んだ。また全国16カ所に設置したファンゾーンには約114万人が来場し、この数字はイングランド大会以上だった。

こうして成功裏に終わったワールドカップ日本大会だが、ここまで日本全体にラグビーブームが巻き起こったのは、やはり日本代表が、9月28日の予選プールの2試合目で、大会直前の世界ランキングで1位だったアイルランド代表に勝ったからに他ならない。「静岡ショック」「エコパの歓喜」と世界を驚かした勝利は、日本においてラグビーの「brand new fans」を一気に増やしたと言えよう。

WTB松島幸太朗も「(アイルランド代表に勝って)より強い絆ができた。本当に(ONE TEAMに)まとまった」と話したように、日本代表チームにとっても大きな勝利だった。それでは、どうして日本代表は、予選プール2試合目でアイルランド代表に勝利できたのか――あらためて振り返ってみたい。

理由の一つにアイルランド代表は、なぜかわからないが、伝統的に、ワールドカップに向けてのピーキングが上手くない。日本代表のキャプテンFLリーチ マイケルも「ワールドカップのアイルランドは大丈夫」と自分に言い聞かせるように話していた。絶対的司令塔で、昨年の世界最優秀選手に輝いたSOジョナサン・セクストンもケガのため出場しなかったことも追い風となった。

また日本代表の選手たちもガチガチだった開幕のロシア代表戦とは違い、アイルランド代表戦は自信満々で、取材している側が逆に心配になるほどだった。

例えばキャプテン経験もあるベテランHO堀江翔太は「ボールを継続することが大事になってくる。(田村)優に任せきりではなくて、FWに指示を出せればいい。1~15まで各ポジションの選手が自分の仕事をまっとうできるか。(個々が)自分の仕事に集中していけば、チームはいい状態なので勝てると思う。自分たちの準備していることを出す。準備したことを出せれば勝てると思う」と気負いもなく話していた。

リーダーのひとりCTB中村亮土は「セクストンとやれないのは非常に残念。ベストなアイルランドに勝ちたかった。いままでのデータを見ても後半、アイルランドは点を取られる。後半にチャンスが非常にある。前半はプレッシャーを我慢して離されないようにしたい」と胸を張った。

迎えた日本代表のメンバー発表、サプライズが待っていた。

過去2大会、そして開幕戦までワールドカップで9試合連続先発出場を果たしていたキャプテンのリーチが控えに回った。FLピーター・ラブスカフニ、FL/No8姫野和樹の2人の開幕戦のパフォーマンスが素晴らしく、リーチはお世辞にもあまり良いとは言えなかった。そしてNo8アマナキ・レレィ・マフィがケガから復帰したことで、リーチは控えメンバーになった。

ジェイミー・ジョセフHCは、サニックス時代からの盟友である強化委員長の藤井雄一郎氏と相談して決断したという。ジョセフHCは「今、非常にいい状態の選手を使いつつ、(ベンチから)経験値の多い選手を起用できる」と説明したが、パフォーマンスがあまりよくなかったことからリーチをベンチに下げたことは明白だった。

実際の試合では、日本代表はアイルランド代表に押されて前半30分を回ったところで、3-12とリードされる苦しい状況に陥った。リーチはひとり、最初からアップを繰り返していた。そしてNo8マフィがケガをしてしまったため、予定よりも早くリーチがピッチに立った。

そこからリーチは鬼神のごとく、攻守にわたって激しいプレーを繰り返した。「リザーブと聞いてからもいつでも大丈夫なように用意していた。必ずインパクトを残すつもりだった。アイルランドのやることはわかっていたし、相手は具体的なプランが見えなかったのに対して、僕たちはすべて意識、ディティールに一つ一つこだわって80分間戦った」。その言葉通りの圧巻のパフォーマンスだった。

リーチがプレーでチームを鼓舞し続けて、それに応えるように日本代表のタックル成功率は驚異の93%だった。後半、WTB福岡堅樹のトライで逆転した後もチーム全員が最後までディフェンスで身体を張り続けて19-12で勝利を収めた。10戦目で初めての白星だった。 リーチはアイルランド代表に勝てた理由を「絶対に勝つと言うメンタリティが重要だった。やってきたことを信じて、みんなでやってきた。意思統一できたことは大きい。また(大会直前に)南アフリカ代表戦、やって良かったです。やらなかったらここまで成長できてなかった。(7-41で負けたが)南アフリカ代表戦がとても重要だった」と振り返った。

ワールドカップ本番直前のプレマッチに、格下の相手と何試合もするのではなく、予選プールの強豪と戦うことを見越して、ジョセフHCらコーチ陣は「セットプレーの強いと戦いたい」と南アフリカ代表を対戦相手に選んだ。世界的強豪の「ティア1」と戦ったことは、ワールドカップに向かうチームの大きな財産となっていた。そして、悩んだ末に、リーチをベンチスタートにしたジョセフHCの采配も当たった。コーチ陣のマネジメント、判断が勝利を呼び込んだと言えよう。

アイルランド代表に勝利した勢いで日本代表はサモア代表、スコットランド代表にも勝利し、4戦全勝で史上初のベスト8進出を決めた。準々決勝では優勝した南アフリカ代表と対戦し前半は3-5と善戦したものの3-26で敗れて大会を終えた。

今後の課題としては、やはり31名のスコッド中、26名しかジョセフHCは試合で起用しなかった。他の強豪チームは31名を上手く使いながら戦っていたように、サモア代表戦ではもう少しチャレンジしても良かったかもしれない。準々決勝ではHO堀江が「全員どこか痛めていた」と振り返ったように、試合に出続けた選手のコンディションは万全ではなかったはずだ。

2023年のフランス大会では、今大会の開催国特権として試合と試合の間が中6、7日ばかりではなくなるだろう。31名をしっかり起用しながら戦うことが必須であり、選手層を厚くすることは欠かせない。

またアイルランド代表戦、スコットランド代表戦ではスクラム、ラインアウトといったセットプレーで互角に戦うことができたが、南アフリカ代表戦では両方とも劣勢となってしまった。スクラムではペナルティを犯し、ラインアウトモールも押し込まれてトライを献上した。格上の相手にスクラムセットプレーが乱れると、アップセットを起こすことは難しい。フランス大会でベスト4以上を狙うのであれば、さらに強化を進める必要があろう。

また、この4年間は強化のストラクチャーが上手く機能していた。2016年、2017年、2018年はトップリーグだけでなく、サンウルブズでスーパーラグビーを経験しつつ、日本代表では海外の強豪とも対戦した。2018年のトップリーグは短縮することで、日本代表候補選手は1ヶ月以上、ラグビーから離れる期間も作り、240日に及ぶ合宿を敢行した。2019年は日本代表の中軸の多くはサンウルブズで多くの試合に出ることはなく、特別編成チーム「ウルフパック」での研鑽を積んだ。

つまり、最後の1年はトップリーグの試合も減らし、サンウルブズも犠牲にして、日本代表の強化に注力したというわけだ。こうした強化のストラクチャー、プランニングは上手くいったと言えよう。

ただ、すでに日本代表の出場が決まっている2023年のワールドカップに向けては専務理事の岩渕健輔氏が「強化のストラクチャーを作らないといけない」と言っていたが、プロリーグ構想など、実際にはまだまだ不確定な要素が多く、ジョセフHCが続投するかどうかも決まっていない。2015年大会、2019年大会同様に、日本代表がワールドカップ直前に長期の合宿を張ることができるかもわからない。

2023年のワールドカップの予選プールの組み合わせは2021年秋のテストマッチシリーズ終了時点での世界ランキングで決まる。もし世界ランキングを落としてしまうと、2015年大会以前のような、強豪が揃うような予選プールや厳しいスケジュールが待っている。次大会で日本代表がベスト4以上を狙うのであれば、まず当面、世界ランキング8位の順位を守ることは必須となろう。

すでに日本代表は2020年の7月にイングランド代表、11月にスコットランド代表、アイルランド代表との対戦が決まっており、2021年以降はサンウルブズとしてスーパーラグビーで戦うことができず、多くの選手が高いレベルを経験することができない。決勝戦から1週間と2019年大会が終わったばかりだが、2023年に向けて強化は待ったなし、である。